PISA(Proximal Isovelocity Surface Area)法

PISA法は、僧帽弁閉鎖不全症や大動脈弁閉鎖不全などの評価で使われます。今回、一次性僧帽弁閉鎖不全に対する評価を例にしながら、PISAの原理について説明したいと思います。

PISA法による僧帽弁閉鎖不全症の評価

僧帽弁閉鎖不全症を客観的に評価する方法として、連続の式とともに用いられているのが、PISA法です。

PISA法を使って、算出されるのは、①逆流している量と②逆流している血流が通っている弁の隙間である有効弁口面積になります。

弁そのものに異常があって、逆流が生じている一次性僧帽弁閉鎖不全における逆流量と有効弁口面積による重症度評価は下のようになります。

① 逆流量:重症 ≧ 60ml、60ml > 中等症 ≧ 30ml、30ml>軽症

② 有効弁口面積:重症 ≧ 0.4cm2、0.4cm2 > 中等症 ≧ 0.2cm2、0.2cm2>軽症

測定の実際

まずは、実際の測定の順番について説明します。

①僧帽弁逆流を、僧帽弁を中心に描出。

②カラードップラーのレンジを調整。境界を35-40cm/sあたりまで下げる。 (aV)
(上下等しくレンジの幅全体を下げるのではなく、幅はそのままで境界を下げる)

③半円状(実際は半球)の吸い込み血流(PISA玉)が最も大きくなるように描出し、玉の中心から外側までの距離を測定 (r)

④僧帽弁逆流の連続波ドプラーで、最高速度(MR Vmax)と逆流のVTI(MR VTI)を計測する

⑤設定した境界速度・PISA玉の半径・僧帽弁の逆流の最高速度・僧帽弁逆流のVTIを用いて、計算する。

計算:

PISA玉の表面積 = 球体の表面積(4πr2) ÷2 =2πr2

PISA玉の表面を通る血流=(PISA玉の表面積)× aV = 2πr2 × aV

有効逆流面積 (EROA) = PISA玉の表面を通る血流 ÷ MR-Vmax =2πr2 × aV ÷ MR Vmax

逆流量 = EROA × MR VTI

PISAの測定方法の解説

一次性僧帽弁閉鎖不全でみていくと、僧帽弁の閉鎖不全の原因となる孔を中心にして左室側に半球状の吸い込み血流が形成されます。この半球がみえたら、カラードプラーのカラーゲイジのベイスラインを下のほうに下げていって、35cm/sあたりになるようにします。たぶん、標準では、60cm/sあたりで上下同じ値になっていると思いますが、この境界線を下に下げていきます。(上下35cm/sに落とすのではなく、カラーの境界線を下にさげます)

なぜ35cm/sあたりにするかというと、吸い込み血流の中でこのくらいの速度が最も正確に測定できるからです。

カラーのベイスラインを下げて35cm/s程度にカラードプラーを調整すると、僧帽弁の孔を中心にカラー信号が青から赤へ変化する境界面が、半円状にくっきりとみえます(実際は半球ですが)。巷では、この半円(実際は半球)のことをPISA玉といいます。このPISA玉の一番外側の速度が、この設定した35とか37とかいう速度です。つまり、「吸い込み血流の半球(PISA玉)の一番外側の速度」=「カラードップラーの設定値」ということになります。

何気なしに、設定しているこの値は、PISA玉の一番外側の通過血流の速度なんだということです。

PISA玉の半径の計測ができれば、あとは僧帽弁閉鎖不全の弁口部分に連続波ドプラーのガイドビーコンをあてて、最高血流速度と、MRのVTIを測定します。

これで測定は終わりで、あとは計算式にいれて、有効弁口面積、そして逆流量を計算します。

実際の測定の前に、折り返しについて説明します。

PISA法の最も重要な要素である
カラードプラーの折り返しについて

折り返しは、大動脈弁狭窄の速度を計測する時によくみられる現象を参考にすると理解しやすいかと思います。

大動脈弁狭窄とか、三尖弁閉鎖不全の血流を、連続波ドプラーを使って流速を計測するときに、速い血流だと下を突き抜けて、波形が上から出てくるということをよく経験と思います。

これと同じで、カラーの幅を設定した時に、下限を超える速度のカラーは上から出てきます。上から出てくるということは、カラーでいうと赤の領域になりますので、血流のカラーは赤くなります。

もう少し説明すると、上下90cm/sの設定で、最高速度が80cm/sの場合には、血流はすべて青で表示されます。ただ、120cm/sの血流であれば、80cm/sまでの部分は青で、80-120cm/sの速度の血流は赤になります。そのため、青をメインに赤が混じったカラーで表示されます。

PISAの場合には、0点を下に動かして、下限を-30~-40cm/sに設定しますので、青の領域が少ない状態になります。下図のように-35cm/sに設定すると、下向き、つまり-70cm/sの血流の-55cm/sの速さは突き抜けて、上からでてきて、上向き+75cm/sの速度の血流と同じと機械は判断して、赤色で表示します。
なお、-140cm/sであれば、上から出てきてさらに0点をこえて、-10cm/sと同じと機械は判断しますので、青色になります。

カラーの調整をして、-35cm/sを下限に設定したとします。
すると、-35cm/sを超える血流は折り返されて、赤くなります。
-34.9cm/sは青で、-35.1cm/sは赤ということになり、-35cm/sを境界に明確な境界面が形成されます。

この境界面は、2次元では半円、3次元的には半球になっていると仮定します。
この表面を通る血流の速度はもちろん、35cm/sですので、半径から表面積を求めることで時間当たりの血流量を求めることができます。

再度の血流通過の際には、PISA玉が最も大きくなる時ですので、この測定はもっとも大きく見える状態で半径を測定する必要があります。
左室心拍出量などと違って、瞬間の最大値である点にも注意が必要です。

瞬間に最大であるため、僧帽弁の通過血流も最大速度のみを用いて、弁口面積を求めることになります。

ちなみに、通常設定時の僧帽弁閉鎖不全、大動脈弁狭窄や三尖弁閉鎖不全の早い血流が赤・青入り混じった乱流にみえて、PISAで設定した時の僧帽弁閉鎖不全の血流が赤を中心とした暖色にみえるのは、折り返しと赤と青のレンジの比率によります。通常設定では、赤と青のレンジは同じで、基本的には青→赤→青となるので、青の強い乱流になります。しかし、PISAの設定では、赤のレンジが強いので、青→赤→青ですが、赤のレンジが相対的に広いため赤が強いカラーになります。

PISAの計算

PISA玉の半径を測定すると、球の表面積の公式から、吸い込み血流(=PISA玉)の表面積が計算されて、これにこの面を通過する血流速度を掛け算することで、PISA玉の外側を通過する時間当たりの血流量が求められます。

球で考えるから、ややこしいですが、面を通過する時間当たりの血流量を求めるのは、VTIから心拍出量を求めるのと同じ考え方です。

一度計算します。

r=(PISA玉の距離=半径)とすると、

PISA玉の表面積 (ただしくは外側の球体の部分だけの面積で、切断面は含みません)
 =球体の表面積(4πr2) ÷2(半球なので)
 =2πr2

となります。

PISA玉の表面を通過する血流は一定で、設定したカラードプラーの下限の値となりますので、

PISA玉の表面を通る血流=(上で求めた表面積)×(カラードプラーの下限の値)

となります。

例えば、PISA玉の距離(半径)を1cmとして、設定したカラードプラーの下限の値を36cm/sとすると、

PISA玉の表面を通る血流=(2×3.14×1cm×1cm) × (36cm/s) = 226cm3/s

となります。

つまり、
PISA玉の表面を通過する血流の瞬時最大量
= 逆流(左室から左房へと吸い込まれてくる)の瞬間最大血流量
= 226cm3/sという量になります。

次に、連続波ドプラーを僧帽弁逆流のカラーに充てて、僧帽弁逆流の最高速度を求めます。

かなり速度は速く4m/sとか、5m/sとかになると思います。ここでは、4.5m/s(=450cm/s)としておきます。

僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の部分が、この血流が通過する経路の中で最も狭い部分になるはずですので、その狭い部分を通っているときが最高血流速度になっているはずです。

つまり、連続派ドプラーで測定した4.5m/sという速度の血流は、僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔を通過している血流の最高速度となります。この孔の面積を有効逆流弁口面積(EROA)といいます。

吸い込み血流の瞬間の最大血流量と僧帽弁閉鎖不全の孔を通過する血流の瞬間最大量は等しいと仮定します。

(PISA玉の表面を通る血流の瞬間的な最大値)
= (僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の面積) × (僧帽弁通過最高血流速度)

ここで求めたいのは、僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさ(表面積)です。
この式を変形すると

(僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の面積: EROA)
 = (PISA玉の表面を通る血流) ÷ (僧帽弁通過最高血流速度)

となります。

先ほど仮定した450cm/sという値を用いて計算すると、

僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさ=226cm3/s÷450cm/s=0.50cm2

となります。つまり、僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさは、0.50cm2と求められました。

この孔の大きさのことを実際の孔の大きさではなく、あくまで最高血流が生じている部分の面積であることから、実際の面積よりは少し小さめに出ていると予想され、有効面積(effective regurgitant orifice area: EROA)といわれます。

さらに、孔の大きさが求められると、そこを通過する血流のVTI(時間速度積分値)を掛け算すると、通過する血流量が求められます。

EROAをもとめる計算中は、瞬時あたりとして、心臓の収縮期の時間の極々短い時間として計算してきましたが、ここからは、心室の収縮期の時間が入ってきます。VTIは、先ほど求めた連続波ドプラーで求めた僧帽弁逆流の逆流のVTIを測定します。

ここでは、120cmとします。(時間速度積分なので、時間の単位(/s)がとれました)

(僧帽弁逆流の血流量)
 = (僧帽弁逆流の原因となる孔の大きさ=EROA) × (その孔を通過する血流のVTI)

となりますので、先ほど設定した値を代入して、

(僧帽弁逆流の血流量) = 0.5cm2 × 120cm = 60cm3 = 60ml

となりました。

吸い込み血流の物理学的な特性を利用することで、このような計算が成立します。

PISA法における注意点

PISA法の注意点は、収縮期に僧帽弁閉鎖不全の原因となる孔の大きさは変化せず、また、常に孔は円であり、そのためにPISA玉もきれいな半球であるといことが前提となっています。

つまり、PISA玉が収縮期にずっと同じ形態ではない、つまり、孔の面積自体が変化するようなときには、この方法による逆流量は正確ではないということになりまし、二次性僧帽弁閉鎖不全のように、そもそも逆流の孔が長楕円で、円形ではないときにも取り扱いに注意が必要です。

また、正確に言うと、弁には厚みがあり、孔の面積が同じでも、形態による圧抵抗の差はでますので、あくまで僧帽弁が厚みのない円であると仮定して計算式は成立しています。

面積に関しては、最少になるタイミングを、何らかの方法で推定できるようになれば(物理的な法則で、シミュレーションを使えばできると思います)、そのタイミングで(タイミングは心電図でみる)、PISA玉の大きさを測定して、さらに僧帽弁逆流の最高血流を測定すればいけるかもしれません。
ただ、最高血流は、孔の大きさと左室と左房の血圧の格差の最大値で決まるため、孔の大きさの最小で最高になるわけではありませんが、概算程度はできる可能性はあります。
(理論的には、機能性であれば収縮末期が一番孔が小さくなるはず。収縮末期が僧帽弁輪と乳頭筋の位置が一番近くなるので)

また、正確な値でなくとも、重症度評価として有用であればいいわけで、値が実際の弁口面積とどれだけ近いかということは、原理主義的には重要ですが、実際の弁口面積と多少かけ離れた値であったとしても、予後や手術適応といった臨床的に有効な数字として、有用であればいいわけですので、この値を測定して、それが有用な指標かどうか、どの値でカットオフとすればいいかという視点も必要です。

測定のコツ

さて、測定するときのコツですが、まずどの観察断面で一番きれいなPISA玉が計測できるかということが重要です。かならず一番大きくみえるところで測定しましょう。測定する時には、拡大をして、1mmの誤差もないようにしっかりと測定することを心がけましょう。結構左室2腔像がきれいにみえたり、短軸に近い像でみえたりしますので、かならず、いろんな角度からみましょう。

参考までに、一次性の場合には、PISA玉の半径が1cm以上あれば重症です。0.7cm以上は測定次第で、0.5cm以下は軽症よりの中等症のことが多いです。
PISA玉の半径は、計算上2乗しますので、少しの値の違いが大きな違いになりますので、できる限り正確に測定するように注意しましょう。
最高血流に関しては、逆流フローができる限りきれいに、ガイドビーコンと平行になるように描出して測定しましょう。

おさらいになりますが、測定する順番は、まず、カラードプラーのベイスラインを35cm/s程度まで下げます。次に、PISA玉をいろんな断面で確認して、一番良い断面で、PISA玉の径を測定します。

次に、僧房弁の逆流カラーの連続波ドプラーの速度をだして、最高速度と、VTIを計測します。

この4つの値があれば、あとは機械が自動で計算してくれますので、値がでてきます。

PISAは、いかにきれいにPISA玉かをだせるかどうか、測定できるかどうかが決め手です、がんばってください。

参考:

エコーでの心拍出量の評価:LVOT VTI測定の実践手順

主治医のための心エコー撮像ガイド|日常診療で使えるコツ