心エコーによる1回拍出量・心拍出量の測定:LVOT-VTIの実践と理論

(2026.8.18 理論の部分を大幅に改定しました)

エコーでの1回心拍出量の測定は、血流の断面積とその断面を通過するVTI (時間速度積分値)を掛け算して算出されます。心不全の評価だけでなく、弁膜症の重症度や短絡性疾患の逆流量・率の評価にも用いられます。

計測する際の全体的な注意点としては、

  • きれいな描出よりも、ガイドビーコン (=インデックスマーカー, ターゲットマーカー etc)と血流の方向を一致させることを優先する。
  • 2ch,4ch,5chを決められた正しい断面で描出する。(弁輪径の正確な測定)
  • PWでは、流速を測定する断面を意識して、その断面上にPWサンプルボリューム(ROI、ロイ, 関心領域)を設定する。 (左室流出路、僧帽弁の弁輪の中央、肺動脈弁中央)

理論的な背景は置いておいて、まずは実際の測定の仕方に関して記載していきます。

左室心拍出量

左室の流出路で測定する左室1回拍出量(LV-SV, left ventricular stroke volume)の求め方です。

必要な測定項目
  ① 左室流出路径(LVOT diameter)
  ② 左室流出路速度時間積分値 (LVOT – VTI, left ventricular velocity-time index)

計算式:
左室流出路面積(断面積) = (左室流出路径 / 2)2 × π

LV-SV = 左室流出路面積 × LVOT – VTI = (LVOTd/2)2 × π × LVOT – VTI

① 左室流出路径 (LVOTd, left ventricular outflow tract diameter)
傍胸骨左室長軸像で、左室流出路を描出し、そこをズームします。ある程度ズームした状態で、収縮期の左室流出路径を測定します。俗に内内といいますが、左室流出路の心内膜壁の内側の径を測定します。
この測定のため、内側のラインがきれいに判別できるように調整します。 focus、gainなどを調整するより、水平に近くなるように描出するのが重要かと思います。

② 左室流出路の血流時間速度積分(LVOT – VTI)
測定するのは、5腔像と3腔像で、左室流出路径を測定した断面にROIを設定して、PWを用いて、左室流出路VTIを測定します。 左室流出路に狭窄やS状中隔などにより加速血流がみられる場合には、加速していない部分にROIを設定して測定します。この、カラードプラーで左室流出路に狭窄や加速血流がないことを確認することはとても重要です。 全体的に加速血流となっていて、加速していない部分がない場合には左室流出路での心拍出量の推定は基本的にはできないため、参考値となります。

具体的には、心尖部の5腔像と3腔像で、左室の流出路に、まずカラードプラーを当てます。通常の初期設定にすると、左室流出路に青い血流が見えると思います。もし、左室の中隔が流出路に少し張り出していて、そこに加速血流があった場合には、その部位を避けて、できるだけ均質なカラードプラーの位置にパルスドプラーを当てます。

ここで収縮期の左室流出路の血流の時間速度積分値(VTI, velocity time integral)を測定します。通常はきれいな放物線になるはずです。 左室流出路のVTIと流出路の断面積をかけることで、1回心拍出量が測定できます。 (断面積は、きれいに描出できれば直接断面を測定しても構いませんし、特に3Dエコーでは断面を長軸をみながら選べるので、正確に測定できると思います)

右室心拍出量

右室流出路のVTIも測定しましょう。右室流出路は、傍胸骨短軸で、大動脈弁が正面視できる高さあたりで測定できます。 右室のほうが、左室よりも加速血流になっていたりしないので、その点では有用ではあります。右室流出路径は、ほとんど肺動脈弁レベルでの計測でいいと思いますが、右心の血行動態によっては、拡大していたりすることもあるので、右室流出路径の測定は注意が必要です。
左室流出路でもそうですが、1回拍出量を計算する時に、断面積の半径を2乗するので、半径の測定値は拍出量の数値に大きな影響を与えます。

また、下に述べる大前提の流出路が筒状になっていないため、左室と異なり、弁のレベルでの測定になります。また、筒状になっていないこともあり理論的には左室ほど正確ではないと考えられます。

左室流入血流量(僧帽弁レベル)

僧帽弁閉鎖不全では、左室の流入血流量を測定します。
VTIに関しては、心尖部からの断面で測定します。重要なのは、弁のレベルにPWサンプルボリュームを置くということです。弁輪の断面積と、その部分を通過する血流量を掛け算するので、かならず弁輪の断面のレベルでの測定になります。一方で、E波・A波を測定する時には、弁の開放時の先端レベルにPWサンプルボリュームを置きますが、普段測定している癖でついついサンプルボリュームの位置を間違えないように注意が必要です。

弁レベルの断面積に関しては、弁を長径と短径を測定して楕円の面積を用いて断面積を算出します。
長径は、弁の口に沿った2腔像で測定し、短径は、それと直交する3腔像で測定することになります。
正確にそれぞれを弁を中心に描出することが重要です。
2腔像では、弁が前尖が中央、両サイドに後尖がみえて、前尖が横棒が上下運動するようにみえます。そこから、90度回転させて、前尖と後尖が”人”の字のようにみえるように描出します。

心エコーでの描出の仕方に関しては、”日常診療の心臓超音波検査“を参照ください

僧帽弁輪部では、左室流出路よりも断面内の速度分布が不均一で、弁輪自体も心周期を通じて形状・位置が変化します。そのため、一点で測定したPW-VTIを断面平均VTIとして扱う近似や、楕円近似による断面積算出に誤差が入りやすくなります。

注: 本法だけで実際の逆流量を完全に正確に測定できないからといって、僧帽弁閉鎖不全の重症度評価に利用できないわけではありません。各手法の前提と限界を理解したうえで、研究データに基づき、形態評価、カラードプラ、CW/PWドプラ、PISA法、定量的指標などを統合して評価することが重要です。
PISA法による僧帽弁閉鎖不全症の評価

VTI測定の理論的な背景

心エコーのVTI(Velocity Time Integral)測定では、流体力学の分野におけるplug flow (同一断面上では速度が同じ流れ)という概念、それに加えて大動脈弁狭窄などの弁膜症の評価では連続の原理(continuity equation)という理論が基盤となっています。

Plug flow

断面内の血流速度がほぼ一様と仮定した速度プロファイルのことをplug flowといいます。

広い空間から狭い筒状流路へ流体が流入すると、筒状部分で流体の流速について、断面内の速度がほぼ一様と近似できるとされます。

左室という空間から左室流出路という筒状の流路に血流が流れ込むとき、左室流出路内での流速は同じであると仮定できるため、plug flowの考えを用いることができ、1回拍出量が測定可能であるとされます。​

壁と流体(血液)の間、流体と流体の間には、摩擦が生じるため、中央が早くて、壁面に近いほど速度が低下する層流となりますが、左室流出路に入った直後では、この摩擦は無視できると仮定しています。
逆に、上行大動脈などでは血管壁の摩擦などの影響により層流となり、同一断面でも血流の速度勾配が生じるため、断面の1点での測定を前提としたVTIによる1回拍出量の推定はできません。
plug flowと仮定できるLVOTでのみ、近似的にVTIによる1回拍出量の推定が成立するとしています。

ただし、実際のLVOT血流は完全なplug flowではなく、拍動流、流出路形状、心室中隔や僧帽弁近傍の影響により速度分布の偏りをもちえます。それでも、局所的な加速や乱流を避け、流出路中心に近い領域でPWドプラを測定することで、VTIを断面平均の移動距離として近似的に扱うことができると仮定しています。
例えば、健常者79人を対象にLVOT内の位置別に測定した古典的検討では、LVOT速度プロファイルは厳密には一様ではなく、中隔側で速く、僧帽弁側で遅い偏りが示されています。VTIも中隔側19 ± 3 cm、中央17 ± 3 cm、外側14 ± 3 cmと位置で異なり、中心部の測定が断面平均速度の代用として妥当と結論されています。
(参考文献:Kupari M, Koskinen P. Systolic flow velocity profile in the left ventricular outflow tract in persons free of heart disease. American Journal of Cardiology. 1993;72(15):1172-1178. doi:10.1016/0002-9149(93)90989-P.)

このような前提で、LVOT断面積とVTIの積から、1回拍出量を非侵襲的に推定できるとしています。

連続の原理

心エコーにおけるVTI法を用いた弁膜症の重症度判定の基礎にあるのが、質量保存則に基づく連続の原理です。血液は臨床的にほぼ非圧縮性の流体として扱えるため、ある区間に血液の貯留、漏出、流入、分岐がなければ、同じ時間内に各断面を通過する血液量は等しくなります。

大動脈弁逆流や短絡がなく、LVOTと大動脈弁の間に血液の貯留・流入・流出がなければ、LVOTを通る1回拍出量と大動脈弁を通る1回拍出量は等しいと考えられます。
これが大動脈弁狭窄における連続の式の基礎です。

左室流出路の断面が正円であると仮定して、流出路の直径から流出路面積を求め、この面積に、VTIをかけることで、この断面を通る全血流量、つまり1回拍出量を計算しています。

さらに、1回拍出量は、どの断面においても等しいという前提が、狭窄部でも適応されるとしたのが、大動脈弁狭窄の連続の式による有効弁口面積の測定になります。

VTIについて

パルスドプラーは、時間を横軸、速度を縦軸にした図になります。
PWサンプルボリューム内のある点の単位時間あたりの速度が縦軸になります。つまり、測定した点にある赤血球の速度(正確には血流速度)といえます。速度は、移動距離を時間で割ったものですので、単位時間あたりの移動距離でもあります。例えば、100cm/sであれば、1秒間に100cm移動するといえます。

VTIは、パルスドプラーの時間と速度をX,Y軸とした座標上にある曲線を積分した面積になります。これは、単位時間当たりの移動距離の総和といえ、収縮期に最も遠くに移動した赤血球の1つの移動距離といもいえます。移動した赤血球の後には、別の赤血球が続いてくるので、移動距離がそのままその点を通過した赤血球の合計の長さとなります。(直列に連続している赤血球の長さ)
基準とする断面をゼロ平面とすると、通過した血液という“柱の高さ(距離)”とイメージできます。

ゼロ断面の上にあるすべての柱の高さの合計(要は柱の大きさ)が1回拍出量と同じになると考えます。
plug flowの概念から、流出路の断面上の柱の高さはすべて同じと仮定しますので、柱の高さに断面積を掛けることで、心拍出量が計算できるという考えです。

次:PISA法について

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