心不全診療に必要な血圧の調整系について

心不全診療において、循環不全の有無、うっ血・溢水の評価をおこうなうことは必須で、その前提知識として、短期的に血圧や循環血液の量がどのように調整されているかを知ることはとても重要です。

短期的な血圧調整のシステムについて

血圧を一定の値に収めようとするシステムについての話になります。

例えば、平均血圧で100なら100、80なら80と、ある値になるように決められているときに、そこからのずれを検知して修正し、設定した値になるよう調整するシステムについて述べたいと思います。

このシステムは、大まかに、感知器としての受容器、処理機能としての中枢、作動装置としての血管から構成されます。

受容器が血圧の変化を感知し、その変化を情報として中枢に送ります。中枢は血圧を一定に保つための指令を組織・器官に送り、組織・器官内の血管が変化します。

この変化の結果を再度、受容器が感知し、微調整を続ける。この流れが連続的に繰り返されることで、血圧は一定範囲に保たれます。

ここでは、腎臓の利尿やホルモン系による調整については触れません。ホルモンや利尿による血管や水分排出を介した調整は、中長期的に作用するためです。


圧受容器による血圧調整

圧受容器と化学受容器の位置と役割

具体的には、大動脈弓や頸動脈洞(内頚動脈起始部)に圧受容器があり、頸動脈小体および大動脈小体に化学受容器があります。

血圧調整は主に圧受容器が関与し、化学受容器は主に呼吸管理に関わりますが、自律神経への作用を通じて血圧調整にも一部関与します。

受容器から中枢への情報伝達と反応経路

血流量、特に1回心拍出量が増えると中枢の血管である大動脈は短期的に拡張します。

また、末梢血管が収縮して血圧が上昇しても、一時的な血流停滞により中枢血管は拡張します。

このような場合、圧受容器のある血管が拡張され血管壁が伸展すると、圧受容器はその刺激を血圧上昇のシグナルとして中枢(延髄)に送ります。

延髄では、上がった血圧を下げるための指示が出されます。つまり、副交感神経が刺激・活性化され、交感神経は抑制されます。

具体的には、末梢から中枢への求心性神経の刺激により延髄背側の孤束核(NTS)が活性化され、遠心性迷走神経を介して副交感神経が刺激されます。

さらに、孤束核の活性化は延髄副外側の尾側延髄腹外側部(CVLM)を興奮させます。次いで、頭側延髄腹外側部(RVLM)に刺激が伝わりますが、このCVLM→RVLMへの刺激は反転性刺激であるため、CVLMが活性化されるとRVLMの活動は抑制されます。

RVLMの抑制により、遠心性交感神経の活動が低下し、その抑制が血管に作用し、結果として血圧が低下します。

このように、末梢での圧感知から中枢での情報処理、交感・副交感神経の調整を経て血圧が制御されています。

【圧受容体反射の中枢回路】
末梢血管抵抗の上昇・1回拍出量の増加
 ↓
血圧上昇
 ↓
大動脈・頸動脈の伸展
 ↓
大動脈弓・頸動脈洞の圧受容器活性化
 ↓(求心性刺激電動)
 ↓
NTS(孤束核) →
 ↓      ↓
(+)     (+)
 ↓      ↓
CVLM      迷走神経核
 ↓      ↓
(ー)      (+)
 ↓           ↓
RVLM →  副交感神経(心臓へ)
 ↓
(+)
  ↓
交感神経前ニューロン(脊髄側角)
 ↓
交感神経(心臓・血管へ)
 ↓
心拍数↓・血管拡張
 ↓
   → 血圧低下

(+):興奮性シナプス入力(興奮性投射)
(−):抑制性シナプス入力(抑制性投射) (本文中では反転性刺激と表現)

自律神経による調整は短時間で行われますが、ホルモンを介した場合は中長期的な調整になります。


化学受容器による補助的な血圧・呼吸管理

化学受容器は、低酸素(PaO₂低下)・高二酸化炭素血症(PaCO₂上昇)・アシドーシス(pH低下)を感知します。

その情報を圧受容器と同様に延髄の孤束核に送り、主に呼吸中枢へ働きかけます。

化学受容器の出力としては、交感神経の刺激作用がありますが、主な作用は呼吸中枢への影響であり、頻呼吸および深呼吸を誘発して換気量を増加させ、PaO₂やPaCO₂、pHを是正する方向に働きます。

同時に、圧受容体と同じ経路を介して交感神経活性を高めることで、昇圧効果ももたらします。

なお、PaO₂が40 mmHg以下になるような強度の低酸素血症では、迷走神経刺激が強く生じ、徐脈が起こることもあります。


内分泌システムによる血圧調節

短期的な反射によるものではなく、中長期的な調整も自律神経を介した調整として重要です。
血圧調整に関与する主要な臓器は、副腎と腎臓です。副腎はカテコラミンを分泌し、腎臓はレニン・アンギオテンシン系および塩分排泄を通じて血圧に影響します。
この調整は自律神経よりも遅れて作用しますが、より長時間にわたり安定した血圧制御を担います。

腎臓を中心とした調節機構については別項で詳しく述べますが、概要として、交感神経刺激によって傍糸球体装置からレニンが分泌され、レニン–アンギオテンシン–アルドステロン系(RAAS)を活性化し、昇圧方向へ働きます。


血管トーヌス調整機構

中枢からの刺激により血管は定常状態より若干程度必要に応じて収縮したり拡張したりし血管の緊張性(トーヌス)を調整します。ます。この血管の動きについてお話ししたいと思います。

血管トーヌス(血管平滑筋の緊張度)の調整においては、交感神経系・RAAS・NO 系の3つの経路が重要です。

これらはいずれも、最終的に血管平滑筋収縮の共通終末経路であるミオシン軽鎖(MLC)のリン酸化状態に作用します。

Ca²⁺–カルモジュリンを介した MLCK 活性化という共通経路が存在しますが、血管平滑筋の収縮調節は Ca²⁺濃度変化だけではありません。

RhoA/ROCK 系による Ca²⁺感受性の変化や、NO/cGMP/PKG 系による MLCP 活性化など、Ca²⁺非依存性のメカニズムも大きく寄与します。

心筋と異なり、血管平滑筋では収縮・弛緩に伴う Ca²⁺濃度変動は比較的緩やかですが、Ca²⁺動態とCa²⁺感受性の両方が総合的にトーヌスを決定しています。

膜性動脈と筋性動脈による制御の違い

心臓に近い膜性動脈と末梢の筋性動脈では、構造も自律神経・RAAS・NO/eNOSの「かかり方」も違うため、同じ刺激でも血行動態への影響はかなり異なります。

膜性動脈(大動脈・総頸など)の特徴

  • 構造的には、弾性線維が豊富で平滑筋よりもエラスチン優位で、血液をプールすることができる「コンダクタンス動脈」とも言うことができ、拍出された血液を収縮期に受けとめてプールし、拡張期に末梢へと送ることで、左室拍出の圧波を平滑化するコンプライアンス機能を持ちます(Windkessel)。
  • eNOS発現量・基礎NO産生は、末梢の筋性動脈よりもむしろ中枢コンダクタンス動脈で高く、「血管内皮からの刺激によるNO産生で調整を受けている弾性動脈」といえます。自律神経や内分泌だけでなく、血流そのものが血管壁に与える刺激(シェアストレス)もNO産生の重要な要素の一つとなっています。 循環器では、物理的な刺激は非常に重要な役割を果たします。
  • 交感神経線維は存在するものの、末梢抵抗血管ほど高密度ではなく、ノルアドレナリンによる瞬時の径変化よりも、平均血圧やRAAS(アンジオテンシンII・アルドステロン)による長期的リモデリング(内膜肥厚・弾性線維断裂・コラーゲン沈着)に強く影響されます。
  • Ang IIやアルドステロン、交感神経亢進による酸化ストレスがNOシステムを障害すると、血管の弾性の低下から、いわゆる硬い状態となり、脈圧増大・左室後負荷上昇へつながります。

筋性動脈・抵抗血管の特徴

  • 構造的には、平滑筋比率が高く、半径変化で抵抗が大きく変わる「レジスタンス血管/ディストリビューション動脈」で、血圧そのものと局所血流分配を決める中心です。
  • 交感神経終末が豊富で、α1受容体を介した収縮により、末梢血管抵抗・血圧・血流再配分を秒単位で制御します。同じ「筋性動脈」でも部位により制御のされ方がかなり違うのがポイントです。
【近位弾性動脈 vs 末梢筋性動脈】
★近位弾性動脈(大動脈・総頸)
・構造:エラスチン豊富、平滑筋は比較的少ない
・役割:コンダクタンス+コンプライアンス(Windkessel)
→ 収縮期の拍出を一旦受け止め、拡張期に平滑化して末梢へ送る
・調節:
- NO/eNOS:高発現、スティフネス抑制・脈圧平滑化
- RAAS・平均血圧負荷:長期リモデリング(肥厚・線維化)
- 交感神経:存在するが密度は末梢ほど高くない


★末梢筋性動脈(皮膚・腸間膜・骨格筋など)
・構造:平滑筋豊富、エラスチンは少なめ
・役割:レジスタンス血管+分配血管:血圧そのものと臓器血流の「分配」を決定
・調節:
- 交感神経:α1受容体を介した収縮が主役(秒単位)
- 局所RAAS:収縮・リモデリング(慢性高血圧など)
- NO/eNOS:交感・RAASトーンに対する「局所ブレーキ」

一部臓器・器官の特異的な血管の制御

皮膚血管は心不全の循環不全の指標として、腹腔内の動脈・静脈の交感神経の支配に関しては電撃性肺水腫などの心不全の増悪時の減少を説明するのに非常に重要となります。

皮膚血管

  • 皮膚の筋性動脈~細動脈は交感神経(とくにノルアドレナリン作動性・一部ペプチド作動性)優位の支配を受け、寒冷・ストレス・低血圧などで強い収縮を起こし、「熱放散の抑制」と「循環血液の中枢シフト」に使われます。
  • NO/eNOSによる基礎血流はありますが、体温調節時には交感神経シグナルが圧倒的に優勢で、「皮膚はまず交感神経のキャンバス、その上にNOが薄く上塗りされている」ような構図です。
  • 交感神経の強い影響を受けているため、循環の指標としての皮膚冷感や、CRT(cappilary refilling time)などの評価が可能になります。

腹腔(腸間膜・肝・脾など)の血管

  • 腹腔内臓器の筋性動脈・細動脈・静脈は「レジスタンス血管+キャパシタンス血管」として機能し、交感神経(内臓神経)刺激により強く収縮すると、動脈側では内臓血流減少、静脈側ではプール血液の中枢還流増加を通じて、急性の血圧維持・心拍出量確保に大きく寄与します。 この交感神経の刺激により静脈のプール血が一気に右心系に流れ込んむことが、電撃性肺水腫の重要な原因の一つと考えられています。(この部分の理解は非常に重要です)
  • RAASも腹腔血管で強く働き、Ang IIは腸間膜動脈・腎動脈・肝動脈などのAT1受容体を介して収縮・リモデリングを惹起し、慢性的には内臓血流低下・線維化・門脈圧亢進などに関与し得ます。
  • eNOS由来NOは、こうした強い交感/RAASトーンに対する「内皮性の緩衝材」として働き、抑えきれなくなると腹部臓器虚血や構造的高血圧が進みます。

骨格筋血管

  • 骨格筋の筋性動脈・細動脈も交感神経支配を強く受けていますが、運動時には代謝性血管拡張因子(アデノシン、K⁺、H⁺、CO₂、局所NOなど)が優位となり、「全身的には交感亢進なのに、働いている筋では血流が増える」という解離現象が生じます。
  • Ang II・アルドステロンは、筋肉内の抵抗血管でも内皮障害・平滑筋肥厚・リモデリングを起こし、長期的には筋血流予備能の低下や運動耐容能の低下、高血圧性血管障害の一部として働きます。
【臓器別の血管制御と役割】

① 皮膚血管
・主役:交感神経(NA作動性)
・役割:

- 熱放散の調節(体温調節)
- 循環血液の「中枢シフト」の場
・典型的な反応:
- 寒冷・低血圧・ショック → 強い収縮
→ 皮膚冷感・蒼白・CRT延長
- 温熱 → 拡張(+発汗に伴う局所因子)

② 腹腔(腸間膜・肝・脾など)
・構成:レジスタンス血管+キャパシタンス静脈
・主役:交感神経(内臓神経)+ RAAS
・役割:

- 急性時:内臓血流↓ + 静脈血の中枢還流↑
→ 血圧維持・心拍出量確保
- 慢性時:Ang II/アルドステロンによる
収縮・線維化・門脈圧亢進など
・臨床的意義:
- 交感神経刺激でプール血が一気に右心系へ
→ 電撃性肺水腫の一因となりうる

③ 骨格筋血管
・安静時:交感神経優位 → 血流は抑え気味
・運動時:代謝性因子(アデノシン、K⁺、H⁺、CO₂、局所NOなど)
→ 強い血管拡張
→ 「全身交感亢進なのに、働く筋だけ血流↑」
・RAAS・交感の慢性亢進:

- 内皮障害・平滑筋肥厚・リモデリング
- 筋血流予備能↓ → 運動耐容能低下・高血圧性血管障害

eNOS/NOの「場所による顔つき」の違い

  • eNOSタンパクは、大動脈・頸動脈などのコンダクタンス動脈内皮で比較的豊富に発現し、ここでは「スティフネス抑制・パルス波減衰」が主な役割です。
  • 一方、筋性動脈~細動脈では、NOはより「局所抵抗調節」として働き、交感神経・Ang IIによる収縮に対するブレーキ、臓器血流のきめ細かい調節因子として機能します。
  • したがって、同じeNOS阻害でも、弾性動脈では脈圧拡大・スティフネス上昇が、末梢筋性動脈では平均血圧上昇・臓器虚血傾向が前面に出る、という違いが生じます。
  • ちなみに、敗血症性ショックなどでは、eNOSではなく、iNOSという酵素により大量のNOが産生され、血管が拡張し、血圧が極度に低下し、ショック状態となります。

交感神経・RAAS・NOを貫く「近位 vs 末梢」の整理とNOスプレー

  • 近位の膜性(弾性)動脈:
    • 役割:コンダクタンスとコンプライアンス。
    • 刺激:RAASと平均血圧負荷が主役、交感神経は補助的。
    • 防御:eNOS/NOがスティフネス・リモデリングのブレーキ。
  • 末梢の筋性動脈(皮膚・腹腔・骨格筋など):
    • 役割:抵抗・血流分配・容量調整。
    • 刺激:交感神経と局所RAASが主役(皮膚はほぼ交感一色、腹腔は交感+RAAS+静脈キャパシタンス、筋は代謝因子との綱引き)。
    • 防御:eNOS/NOが交感・Ang II・アルドステロンによる収縮・リモデリングに対する「局所ブレーキ」。

ここに少し加えると、狭心症治療に用いるニトログリセリンなどの「NO(ニトロ)スプレー」は、体内でNOを供給して血管平滑筋のsGC–cGMP系を直接活性化し、主に静脈系と冠動脈(とくに冠の筋性動脈~抵抗血管)を拡張し、中枢の弾性動脈である大動脈を弛緩しすることで、前負荷・後負荷を下げつつ心筋虚血を改善する、いわば「生理的eNOS/NOシステムを薬理的にショートカットする介入」として位置づけられます。

主に昔からの愛読書である

心臓・循環の生理学 J Rodney Levick 著  岡田隆夫 監訳 メディアkル・サイエンス・インターナショナル

を参考にしています。