心不全原因 8分類 一覧表 

表1 心筋細胞自体の機能異常

心筋細胞の収縮、弛緩、Ca²⁺ハンドリング、サルコメア、細胞骨格、核膜、イオンチャネル、ミトコンドリア、脂肪酸・糖代謝などの異常により、心筋細胞が十分に働けない状態。

疾患・病態主な障害機序臨床的な位置づけ
遺伝性・家族性拡張型心筋症TTNLMNADSPFLNCRBM20BAG3 などの異常により、サルコメア、細胞骨格、核膜、細胞接着、蛋白恒常性が障害される左室拡大・収縮低下、伝導障害、心室性不整脈、突然死。遺伝子型により不整脈リスクが異なる
肥大型心筋症サルコメア蛋白異常による収縮・弛緩異常、エネルギー効率低下、細胞肥大拡張障害、左室流出路閉塞、心房細動、微小循環障害。進行例では拡張相HCMとなる
拘束型心筋症(特発性・遺伝性)サルコメア・細胞骨格などの異常により心筋弛緩性が低下高度の拡張障害、両心房拡大、うっ血優位の心不全
CD36欠損症長鎖脂肪酸取り込み障害による心筋エネルギー代謝異常肥大型心筋症様の表現型や脂肪酸代謝異常を呈し得る
ミトコンドリア病酸化的リン酸化障害、ATP産生低下、活性酸素増加HCM、DCM、伝導障害、WPW、不整脈。難聴・糖尿病・筋症状などを伴うことがある
ファブリー病ライソゾーム内基質蓄積に加え、細胞内代謝・炎症・線維化が進行HCMフェノコピー。左室肥大、拡張障害、伝導障害、心房細動、線維化
TGCV中性脂肪の細胞内代謝障害・蓄積により心筋細胞機能が低下代謝性心筋症に加え、びまん性冠動脈病変を伴い得る
Danon病、Pompe病、糖原病ライソゾーム・糖代謝障害、エネルギー代謝異常若年発症HCM、伝導障害、WPW、進行性心不全の原因となる
カルニチン欠乏症脂肪酸のミトコンドリア内輸送障害エネルギー不足によるHCMまたはDCM。一次性・二次性の両者がある
セレン欠乏性心筋症抗酸化機構低下による酸化ストレス・心筋代謝障害Keshan病として知られる。長期静脈栄養、吸収不良、重度低栄養で注意する
甲状腺機能亢進症頻脈、β受容体感受性亢進、代謝需要増大、心房細動主には高拍出・頻拍性機序だが、心筋細胞レベルの代謝・収縮調節異常も伴う
甲状腺機能低下症心拍数・収縮性低下、弛緩障害、心嚢液貯留徐脈、拡張障害、低拍出、脂質異常を通じた虚血リスク増加
成長ホルモン過剰症GH/IGF-1過剰による心筋肥大、線維化、代謝異常先端巨大症性心筋症。左室肥大、拡張障害、弁膜症、高血圧、OSASを伴いやすい
褐色細胞腫・カテコラミン心筋症カテコラミン過剰によるCa²⁺過負荷、酸化ストレス、細胞毒性DCM様、HCM様、タコつぼ型様など多彩な表現型を取る
タコつぼ型心筋症:交感神経機序カテコラミン過剰、β受容体シグナル異常、細胞内Ca²⁺過負荷、代謝異常急性かつ原則可逆性の心筋収縮障害。急性心不全・ショックを来し得る
サイトカインストーム・敗血症性心筋症TNF-α、IL-1、IL-6、NO、ミトコンドリア障害、Ca²⁺制御異常多くは急性・可逆的な心機能低下。慢性心不全の原因というより急性循環不全の病態
早期のトラスツズマブ関連心機能障害HER2シグナル阻害による心筋保護機構低下、収縮予備能低下比較的可逆的なLVEF低下として発見されることが多い

表2. 心筋組織・間質・心内膜・心外膜の異常

心筋細胞が本来持つ収縮能力だけでは説明しきれない、細胞外マトリックス、心内膜、心外膜、間質、線維化、浸潤、脂肪性置換、組織配列異常による心不全。細胞外環境の変化は、弛緩障害、壁応力上昇、収縮協調性低下、伝導障害、再興奮回路形成を招く。
なお、アミロイドーシスや不整脈原性心筋症は、進行すれば細胞脱落を伴うが、ここでは病態の出発点である「細胞外沈着」「線維脂肪性置換」という組織病変を重視し、②に分類した。

疾患・病態主な障害部位・機序主な心不全表現型
心内膜弾性線維症心内膜のびまん性線維性肥厚・弾性低下乳幼児の拡張障害、収縮不全、心不全
左室心筋緻密化障害心筋構築異常、過剰肉柱、深い間隙、線維化・血栓形成の併存心不全、不整脈、塞栓症。ただし画像のみで疾患と断定しない
不整脈原性心筋症心筋細胞接着異常を背景とする線維脂肪性置換右室・左室機能低下、心室性不整脈、突然死
アミロイドーシスALまたはATTRアミロイドの細胞外沈着壁肥厚様所見、拘束型生理、伝導障害、右心不全
心サルコイドーシス肉芽腫性炎症から瘢痕・線維化へ進展局所壁運動異常、伝導障害、VT、左室機能低下
慢性心筋炎後の線維化炎症後瘢痕、間質線維化、電気的基質形成DCM様心不全、心室性不整脈、突然死リスク
全身性強皮症などの膠原病微小循環障害、間質線維化、心膜病変HFpEF、右心不全、肺高血圧、不整脈
Löffler心内膜炎・心内膜線維症好酸球性障害後の心内膜血栓・線維化拘束型病態、房室弁逆流、血栓塞栓症
放射線後心筋・心膜障害心筋間質線維化、微小血管障害、心膜肥厚拡張障害、収縮性心膜炎、虚血・弁膜症を合併し得る
収縮性心膜炎心外膜・心膜の線維化、肥厚、石灰化、癒着外側からの拡張制限による右心不全優位のうっ血
反復性心膜炎・慢性心嚢液貯留心膜炎症・液体貯留による充満障害症状性心嚢液、心タンポナーデ、まれに収縮性病態

表3. 心筋細胞数の減少

心筋細胞死、壊死、アポトーシス、炎症性破壊、置換性線維化などにより、有効に収縮へ参加できる心筋量が減少する病態。実際には残存心筋の機能異常や間質線維化も必ず重なるが、不可逆的な「ポンプとしての心筋量低下」を中心に分類する。

疾患・病態細胞数が減少する主機序特徴
陳旧性心筋梗塞虚血壊死後に瘢痕組織へ置換局所壁運動異常、左室リモデリング、機能性僧帽弁逆流、VT基質
虚血性心筋症反復梗塞、微小梗塞、慢性虚血による不可逆的心筋喪失冠動脈疾患に起因するHFrEFの代表的病態
慢性心筋炎・炎症後心筋症心筋炎による細胞障害・壊死後の瘢痕化DCM様の経過、LGE残存、不整脈
心サルコイドーシス肉芽腫性炎症と瘢痕形成による局所心筋喪失房室ブロック、VT、局在性壁運動異常
免疫性心筋炎自己免疫性・過敏反応性の細胞障害劇症例から慢性心機能低下まで幅広い
好酸球性心筋炎好酸球顆粒蛋白による細胞毒性・壊死急性心筋炎、血栓、後期の心内膜線維化
アドリアマイシン心筋障害酸化ストレス、DNA損傷、ミトコンドリア障害を介する心筋細胞死累積投与量依存性が重要。晩期進行性のDCMを来し得る
進行したアルコール性心筋症アセトアルデヒド毒性、酸化ストレス、ミトコンドリア障害、栄養障害DCM様。禁酒による改善可能性は残るが、進行例では細胞喪失・線維化が主体
覚醒剤・コカイン関連心筋障害カテコラミン毒性、冠攣縮、虚血、炎症、反復性壊死DCM、虚血、肺高血圧、不整脈を複合して生じ得る
重症・遷延性の薬剤性心筋炎免疫介在性炎症による心筋細胞破壊免疫チェックポイント阻害薬関連心筋炎などが代表的
筋ジストロフィー関連心筋症遺伝的脆弱性に基づく進行性心筋細胞喪失・線維脂肪性置換DMD/BMD、Emery-Dreifuss、筋強直性ジストロフィーなど
鉄過剰症・ヘモクロマトーシス鉄による酸化ストレスと細胞障害DCM・RCM、不整脈、伝導障害。早期介入で可逆性があり得る

表4. 心臓の構造的異常

心筋細胞の一次性疾患ではなく、弁、短絡、流出路、心室・大血管接続、人工物などの解剖学的・機械的異常が圧負荷または容量負荷を生み、二次的に心不全へ至る群。

このカテゴリーは、「構造異常を是正できるか」が予後に直結する。薬物治療だけで経過を追うのではなく、弁形成・弁置換、TAVI、MitraClipなどの経カテーテル治療、短絡閉鎖、先天性心疾患再介入の適応を適時に評価する必要がある。

疾患・病態心不全へ至る主機序
大動脈弁狭窄症左室圧負荷、左室肥大、拡張障害、進行例で収縮不全
大動脈弁閉鎖不全症慢性左室容量負荷、左室拡大、収縮不全
僧帽弁閉鎖不全症左房・左室容量負荷、肺高血圧、右心不全
僧帽弁狭窄症左房圧上昇、肺うっ血、心房細動、肺高血圧
三尖弁疾患体静脈うっ血、肝うっ血、腹水、腎うっ血
人工弁機能不全狭窄、逆流、血栓、パンヌス、感染などによる血行動態悪化
感染性心内膜炎後弁障害弁破壊・穿孔・腱索断裂などによる急性または慢性逆流
ASD左右短絡による右心系容量負荷、肺高血圧、心房細動
VSD左右短絡による左心系容量負荷、肺高血圧、Eisenmenger化の可能性
PDA左心系容量負荷、肺高血圧、進行例で右心不全
房室中隔欠損残存短絡、房室弁逆流、肺高血圧
Fallot四徴症術後肺動脈弁逆流、右室拡大、右室不全、不整脈
単心室・Fontan循環高い体静脈圧、低い肺血流前負荷、心室機能低下、房室弁逆流
修正大血管転位体心室となる形態学的右室の機能不全、三尖弁逆流
先天性弁疾患・左室流出路障害先天的な圧負荷または容量負荷
心室瘤・左室瘤梗塞後の局所構造変形、壁応力増加、血栓、不整脈

表5. 血流障害による心筋機能低下

冠血流または冠微小循環の障害により、心筋細胞が生存していても、酸素・基質供給不足から収縮・弛緩機能を十分に発揮できない状態。③と異なり、ここでは生存心筋の可逆的機能低下を中心に置きます。

疾患・病態主な機序可逆性の考え方
慢性冠症候群・高度多枝冠動脈狭窄慢性心筋虚血、反復する需給ミスマッチ虚血が主で生存心筋が残れば改善し得る
虚血性心筋症におけるハイバネーション慢性低灌流への適応として収縮を抑制した生存心筋血行再建後に機能回復する可能性がある
心筋スタニング一過性虚血後の持続する可逆的収縮低下冠血流回復後、時間経過で改善することが多い
冠攣縮性狭心症一過性の冠動脈攣縮再発性虚血、不整脈、心機能低下の原因となる
冠微小循環障害微小血管内皮機能障害、血流予備能低下HFpEF、労作時息切れ、狭心症様症状に関連する
タコつぼ型心筋症:微小循環仮説微小循環攣縮・灌流障害が収縮異常に寄与する可能性①のカテコラミン毒性と併存し、単独病因とは限らない
貧血・低酸素による相対的虚血心筋酸素供給低下と需要増大冠動脈狭窄があると特に虚血・心不全を誘発しやすい
肺塞栓症による右室虚血急な右室後負荷増加と冠灌流低下急性右室不全・ショックを来し得る

表6. 不整脈・伝導障害による心機能低下

頻拍、徐脈、心拍の不規則性、異常興奮、心室内伝導遅延、心室同期不全によって、拍出量や心室リモデリングが悪化する群。
適切な不整脈治療で回復が期待できることがあり、見逃してはならない可逆的原因である。頻拍誘発性心筋症、タコつぼ型心筋症、周産期心筋症、がん治療関連心毒性は、ガイドラインでも病因検索の対象として挙げられている。

疾患・病態心不全に至る機序
心房頻拍持続頻拍による頻拍誘発性心筋症
心房粗動高い心室応答・持続頻拍による収縮不全
心房細動頻脈、不規則性、心房収縮消失、僧帽弁逆流増悪、頻拍誘発性心筋症
AVNRT・AVRTなどの持続性上室頻拍持続または反復頻拍に伴う左室機能低下
持続性・反復性心室頻拍心拍出低下、心筋虚血、頻拍誘発性機能低下
多発性PVC心室同期不全、PVC誘発性心筋症
洞不全症候群持続性徐脈、心拍出量低下、容量負荷的リモデリング
高度房室ブロック著明な徐脈、AV同期不全、低拍出
徐脈性心房細動低心拍出と心室拡大を伴う徐脈誘発性心筋症の可能性
左脚ブロック左室内収縮同期不全、機械的非同期、機能性僧帽弁逆流
高率右室ペーシング左脚ブロック様の非同期によるペーシング誘発性心筋症
CRT非反応例の残存同期不全心室間・左室内非同期が残り、リモデリングが進行

表7. 全身性の酸素需要増大・高拍出状態

心臓に一次性の構造異常がなくても、全身の酸素需要増加、末梢血管抵抗低下、静脈還流増大、循環血液量増加が持続すると、心臓は高拍出を維持しようとして疲弊する。進行すれば肺うっ血、右心不全、心房細動、二次的リモデリングを伴う。

なお「全身の酸素需要増大」は重要であるが、高拍出性心不全の病態はそれだけではない。末梢血管抵抗低下・AV短絡・循環血液量増加も同等に重要な要素である。

疾患・病態高拍出・心不全の主機序
重度貧血酸素運搬能低下を補う心拍出量増加、頻脈、冠酸素需給不均衡
高度動静脈シャント静脈還流増加と末梢血管抵抗低下。透析用シャント、血管奇形など
脚気心チアミン欠乏による末梢血管拡張、乳酸アシドーシス、高拍出状態
甲状腺中毒症代謝需要増加、頻脈、末梢血管拡張、AF
肝硬変・門脈圧亢進症内臓血管拡張、循環血液量異常、腎機能障害、肝硬変性心筋症
Paget病骨病変の高度血流増加によるAVシャント様循環
妊娠循環血液量・心拍出量増加。基礎心疾患を顕在化させる
敗血症・慢性炎症状態血管拡張、微小循環障害、相対的循環血液量不足、心筋抑制を複合する
大きな血管奇形AVMなどによる持続的短絡と容量負荷
骨髄増殖性腫瘍など貧血、血液粘稠度異常、脾腫、循環動態異常を介して関与する場合がある

表8. 心外因子による慢性的な圧・容量負荷とリモデリング

心筋の一次性疾患から始まるのではなく、心臓外からの持続的な後負荷・前負荷・神経体液性刺激により、左室肥大、間質線維化、左房拡大、拡張障害、心房細動、最終的な収縮不全へ進む群。
特に、高血圧はHFpEFの主要な基礎疾患であり、血圧管理は心不全発症予防・進行抑制に重要であり、日本のJCS/JHFS 2025心不全ガイドラインでも、心不全の基礎疾患として虚血性心疾患に続いて弁膜症、不整脈、”高血圧”、心筋症が重要とされている。

疾患・病態慢性負荷から心不全までの経路
高血圧性心疾患左室後負荷増加 → 左室肥大 → 線維化・弛緩障害 → 左房拡大・AF → HFpEF、進行例でHFrEF
閉塞性睡眠時無呼吸症候群間欠的低酸素、交感神経活性化、夜間血圧上昇、胸腔内陰圧 → 高血圧、左室肥大、AF、肺高血圧
肥満関連心不全循環血液量増加、心拍出量増加、炎症、糖尿病、高血圧、OSAS → HFpEFを中心とする心不全
CKD・体液貯留Na・水貯留、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系活性化、貧血、高血圧、尿毒症性心筋障害
肺高血圧症肺血管抵抗増加 → 右室後負荷 → 右室肥大・拡大 → 三尖弁逆流・右心不全
COPD・間質性肺疾患慢性低酸素・肺血管リモデリング → 肺高血圧 → 肺性心
慢性血栓塞栓性肺高血圧症器質化血栓による肺血管閉塞 → 右室後負荷増加 → 右心不全
慢性腎疾患に伴う高血圧・AVシャント圧負荷、容量負荷、貧血、透析シャントの高流量が重層する
肝硬変・腎疾患による容量過剰Na・水貯留、低アルブミン血症、神経体液性活性化によるうっ血増悪

参考.  重複する原因因子の一例

疾患主分類副次的にまたがる分類
アドリアマイシン心筋障害③ 心筋細胞数減少① 細胞機能異常
トラスツズマブ心機能障害① 心筋細胞機能異常③ 重症・遷延例では細胞障害
アミロイドーシス② 組織・間質異常① 心筋細胞毒性、④ 弁・伝導系への影響
サルコイドーシス② 組織異常③ 細胞喪失、⑥ 伝導障害・VT
タコつぼ型心筋症① カテコラミン性細胞機能異常⑤ 微小循環障害
甲状腺機能亢進症① 内分泌性心筋症⑥ AF・頻拍、⑦ 高拍出状態
甲状腺機能低下症① 細胞機能低下② 心嚢液、⑥ 徐脈、⑤ 冠動脈疾患リスク
高血圧性心疾患⑧ 慢性圧負荷② 線維化、⑥ AF
OSAS⑧ 慢性圧負荷・神経体液性負荷⑥ AF、肺高血圧を介する右心不全
多枝冠動脈疾患⑤ 血流障害③ 梗塞・瘢痕が併存すれば細胞数減少
心房細動⑥ 不整脈性⑧ 高血圧性・弁膜症性心不全の増悪因子