心不全とは : 第3部 (第53〜58回 : レントゲンおよびバイオマーカー)

目次

第53回 : 自覚症状は重要、重症になればなるほど

ポイント

  • 非代償性心不全の治療中、重症であればあるほど、患者本人の自覚症状(“食欲”・”倦怠感”など)がよい指標となる。
    重症であると基本的に全ての検査結果が非常に悪く、日々の変動も大きくなる。そうすると、状態が悪くなっていなくても、数字は悪化したりすることがある。
  • III音・頚静脈怒張・四肢冷感・爪床色・毛細血管再充満時間(capillary refilling time)などの身体所見の日々の変化を確認することも重要である。

検査結果と自覚症状の関係

心不全が重症になるほど、検査値は変動しやすく、改善が数値に表れるまでに時間がかかることが多い。
数値がやや悪くても、本人が「今日は楽、ご飯が食べられそう」と言い、体重・尿量・むくみなども改善していれば、全体としては良い方向に向かっていると判断できることが多い。

日常的に確認する項目

心不全患者に対する日々の診療では、病室を訪れる前に夜間の状況をカルテで確認し、重症例ではさらに担当看護師から情報を得る。
日々変化する指標として、看護師が記録するバイタル表(血圧、心拍数、体温、尿量、体重、SpO2、呼吸数)と夜間の状態(起坐呼吸や呼吸困難などの症状の有無)、モニター心電図を確認する。
右心カテーテルが挿入されている場合には、そのデータ(各種圧、混合静脈血酸素飽和度;SvO2)も確認する。
モニター心電図に関しては、心拍数のトレンド(平均値と変動)と致死性不整脈の有無の評価が重要である。
また、血圧などを含めて各測定値が妥当な値かどうかの評価も併せて必要である。
(記載された数値を鵜吞みしない態度も重要)

身体所見の重要性

状態が悪化した際に、新たにIII音を聴取することがある。III音は、大枠では左室の拡張末期圧の上昇を示唆するので、状態の良い日は聴取せず、悪い日のみ聴取するということもありうる。
頚静脈の怒張の変化、四肢、特に指の爪の色、毛細血管再充満時間(capillary refilling test)も必須のチェック項目となる。
これに四肢の浮腫の程度を加え、患者に昨日・1週間前との比較について話を聞きながら評価し、治療方針を決定する。
頚静脈は、ベッドの角度を調整して、体を30-45度程度の角度になるようにして、鎖骨上の何cm程度上まで怒張するかを確認する。安静で怒張して、徐々に上げていって怒張が消えるときもあるので、怒張を見ながらベッドの角度を上げるという方法もある。ここでも重要なのは、昨日と比べてどうかという点である。
鎖骨上にまで静脈怒張がみられないときには、呼吸性の変化として、吸気→呼気→呼気の後に息んで胸腔内圧を上げてどうなるかを見たり、肝頚静脈逆流の評価として、肝臓や下大静脈にある静脈血を心臓へ押し出すようなイメージで、上腹部を圧迫し、頚静脈が怒張するかどうかをみるのも重要である。
循環・潅流不全の指標としての指の診察に関しては、慢性心不全の急性増悪:低灌流を見逃さない評価と初期治療(CRT・VTI・尿Clの実践)を参照。

内服や注射の多くは朝食後に行われるため、回診は朝食前に行うことが望ましい。
それが難しい場合は内服時間を変更し、朝一番の状態や直前の尿量(6時間尿量など)を見て、朝の投薬調整をできるようにしておく。


第54回 : 胸部レントゲン

ポイント

  • 胸部レントゲンは心不全診断において最も有用な検査の一つであり、心陰影と肺野の両方を評価する。
  • 心胸郭比(CTR)50%超が心拡大の目安だが、体位・肥満度・心臓の向きにより見かけ上変化する点に注意が必要である。
  • 短期間での心陰影拡大の原因の多くは、左右の心房か右心室の拡大によることが多い。心房性不整脈の出現や、心不全の非代償化で拡大することが多い。
  • 胸水の評価には、側面像を加えるとことで、診断能が上がる。
  • 肺水腫を起こしている患者を、検査のために臥位にすると、それだけで症状が増悪するため、症状と検査の必要性を検討する。
    循環器救急では、心エコーなどは半座位のまま実施するととが多い。

54-1: 胸部レントゲンの意義

外来で、症状の経過や身体所見から心不全を疑った際、胸部レントゲンは非常に有用な検査となる。
心不全の評価では主に心臓と肺の2点を観察する。
心臓については、心陰影の拡大の有無で心不全の可能性を評価でき、うっ血や胸水の有無から代償状態(安定期)と非代償状態(不安定化)の違いも反映される。

私の経験から、胸水の評価には、胸部側面像で評価することを強くお勧めする。正面像ではわかりにくい胸水が、側面で明瞭であることはしばしば経験するためである。

54-2: 心胸郭比(CTR)の評価

心臓は大きさと形が重要である。
大きければ何らかの異常がある可能性がある。ただし、小さいからといって異常がないわけではないことには留意が必要である。例えば、HFpEF、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、それに類似した疾患では拡大しないことが多い。
心拡大の指標は、心胸郭比(Cardio Thoracic Ratio; CTR)で、胸郭最大幅(肋骨内側間距離)を分母、心臓最大幅を分子として算出し、一般的には50%を超えると心拡大とされる。 

心臓が実際には大きくなくても、撮影体位や肥満度、肝臓などの臓器の影響によりCTRが拡大することはある。臥位では心臓が水平方向に傾き、座位や肥満では腹部からの圧迫で横隔膜が挙上し心臓が少し横向きになるため、心臓の実際の大きさは正常でも心拡大と判定されうる。
また心臓の軸の向き自体の個人差にも注意が必要である。心尖部が正面に近いほど心陰影は小さく見える傾向にある。

心陰影拡大の主因と急性増悪との関係

レントゲンでの心陰影拡大は、心臓に何らかの異常がある可能性が高い。
心陰影は、心室よりも、HFpEFや心房細動などによる心房拡大が、レントゲンの心拡大の主な要因となることも多い。
肥大型心筋症・拘束型心筋症でも心不全に至る場合は、心室の拡大はなくても、心房が拡大していることが多く、これによる心拡大がみられる(両心房拡大は拘束型心筋症や心膜炎を疑う最も有効な所見の一つである)。

心房・右心室は慢性心不全の急性増悪(非代償化)時に一時的に拡大し、代償化し右心系の圧が下がると心陰影は縮小する。心不全の非代償では、左室も拡大はするが、レントゲンや心エコーで明確に評価できるほどのサイズで変化しないことも多い。
レントゲンでの心陰影のサイズの変化は、肺うっ血・肺水腫に至らない程度の心負荷増加・右心系圧上昇を検出できるという点で有用であり、特に外来診療における不安定化の早期発見に役立つ(BNPと併用するとさらに有用性が高まる)。

経験的にはCTRが3%以上変化すると有意な所見と考えられる。3%以上の縮小は改善傾向、3%以上の拡大は一時的な悪化や心房細動などによる心房機能低下を疑う。
また、心陰影がまん丸く拡大する場合は心嚢液の可能性があり、エコーや胸部CTによる緊急評価が必要である。
初回評価時には大動脈などの血管拡大の有無、肺動脈の拡張の可能性、サルコイドーシスを疑う肺門リンパ節腫脹の有無も確認する。

心臓に関係のない理由によるレントゲンでの心拡大

心拡大の評価時、体位の違いには注意が必要である。
立位と座位、仰臥位では、それだけでレントゲン上の心陰影のサイズは変化する。
また、数か月単位でみれば、肥満もレントゲンでの心胸比増大の原因となりうる。
体重増加と心陰影の拡大所見のため、心機能低下を疑う所見ではあるが、肥満による腹部の内臓脂肪増加による横隔膜の押上げで、心臓が寝ているため、レントゲンで心拡大のようになっているだけということもある。


54-3: 胸部レントゲン撮影時の注意点と肺うっ血の読影

ポイント

  • 肺水腫が疑われ、起坐呼吸がある患者を、検査の都合で無理に臥位にしてはならない。座位を保つことが、血液の再分布と呼吸状態の観点から重要である。
  • 救急外来で「SpO2低下 → CT」と機械的に検査を進めると、肺水腫患者では撮影時の臥位保持などにより、急速な呼吸状態の悪化を招きうる。
  • 肺うっ血の読影は再現性に乏しく微妙な判断を要するため、専門医は疑わしきは「うっ血あり」として治療方針を立て、後に再評価する姿勢が実務的である。

肺水腫疑い患者の体位管理

肺水腫が疑われ、安静時にも呼吸困難がある患者では、聴診しなくても喘鳴が聞こえることがある。このような患者で、起坐呼吸があり、座位で呼吸状態を保っている場合には、検査の都合で無理に臥位にしてはならない。

臥位にすると、下肢などの静脈系から胸腔内へ血液が再分布し、静脈還流が増加することで、肺うっ血・肺水腫が悪化しうる。救急搬送時もストレッチャーで座位を保つことが望ましく、胸部レントゲンはポータブル撮影またはレントゲン室での座位撮影とする。ただし、意識障害や著しい低血圧などを伴う場合は、気道確保や循環維持を優先し、体位を個別に判断する。

心不全による肺水腫患者への臥位の検査は要注意

循環器を専門としない救急対応の現場では、「呼吸困難やSpO2低下 → 胸部CT」という対応や、レントゲンで肺水腫がみられた際に、肺炎などの合併除外目的でCTを追加することがある。しかし、呼吸状態が不安定な患者では、検査を優先して無理に臥位にすることは避けるべきである。

座位で呼吸状態を保っている肺水腫患者を臥位にすると、マスク酸素投与で済んでいた状態から陽圧換気が必要になるほど急速に悪化することがある。また、血液の再分布による心負荷増大や、呼吸困難・パニックに伴う頻呼吸・頻脈により、低灌流や心筋虚血が悪化する危険もある。

そのため、不安定な患者ではまず座位を保って評価・治療を開始し、CTの必要性と、検査中の体位保持に耐えられるかを判断する。

肺うっ血の読影

肺うっ血は、左房圧上昇により肺静脈系にうっ滞が生じ、肺血管が拡張する状態である。

レントゲンでは肺門部・肺血管の拡張がみられる。立位撮影では、通常は重力の影響で上肺野の血管陰影が下肺野より目立ちにくいが、肺うっ血では上肺野の血管陰影も明瞭になる。一方、仰臥位では正常でも上下肺野の血管分布が均等化するため、撮影体位を確認したうえで判断する。

肺うっ血の診断は、実際には微妙なことが多い。複数回撮影している患者であれば以前との比較ができるが、初回の患者では判断が難しい。読影に用いるディスプレイの性能によっても見え方が変わる。

循環器を専門とする立場では、専門領域での否定的判断は、そのまま最終診断とされやすい。そのため、多少でもうっ血が疑われる場合は、ひとまず「うっ血あり」として扱い、他の検査を含めて再評価するという方針が実務的である。


54-4: 肺水腫のレントゲン所見と2つの病態

ポイント

  • 肺水腫は、肺間質・気管支周囲・肺胞などの血管外に水分が貯留した状態である。肺胞性肺水腫が進行すると画像上の異常が明瞭になり、呼吸困難や低酸素血症を伴いやすく、喘鳴を呈することもある。
  • 左房圧上昇は、肺静脈へ還流する気管支循環にも影響し、気管支周囲の浮腫や気道狭窄を介して喘鳴を生じうる。
    (気管支動脈からの潅流は、潅流する部位によって、右房に戻り右房圧の影響を受ける系、左房に戻り左房圧の影響を受ける系に別れる)
  • 心原性肺水腫では、治療により速やかに改善する場合と、血行動態の改善後も画像所見や酸素化障害が遷延する場合がある。
    後者には、静水圧上昇に加えて、肺胞・毛細血管バリアの障害や炎症に伴う血管透過性亢進が関与している可能性がある。

肺水腫の診断

肺水腫は、肺間質や気管支周囲、肺胞などの血管外に水分が貯留した状態である。肺胞性肺水腫が進行すると、単なる肺血管陰影の増強よりも画像上の異常が明瞭になる。一方、軽度の間質性肺水腫や非典型例では、判断が難しいこともある。

肺胞性肺水腫では呼吸困難や低酸素血症を伴いやすく、喘鳴を呈することもある。

初診時には、心原性肺水腫か、敗血症などに伴う非心原性肺水腫か、あるいは広範な肺炎などの類似したレントゲン所見をとる疾患かを鑑別する必要がある。画像だけでなく、症状、身体所見、他の検査と合わせた評価が求められる。

喘鳴が生じる機序

気管支末梢、すなわち肺胞に近い部位を灌流する気管支動脈は毛細血管を経て、肺静脈に合流して左房へ戻る。このため、左房圧が上昇すると気管支末梢の静脈圧も上昇し、肺間質と同様に気管支周囲にも浮腫が生じる。こうした気管支末端の浮腫による末梢の気道狭窄は、心原性肺水腫で喘鳴を生じる機序の一つである。

レントゲンでは、気管支周囲の浮腫により、気管支壁やその周囲が厚く見える所見(peribronchial cuffing)がみられることがある。

一方、肺胞内に水分が貯留すると、周囲の肺胞陰影を背景に、含気を保つ気管支が気管支透亮像(air bronchogram)としてみられることがある。これは気管支周囲浮腫とは区別される所見である。

気道感染などにより血管透過性が亢進している場合は、静水圧上昇の影響が重なり、感染のない状態よりも低い左房圧で肺水腫を生じる可能性がある。

肺水腫;炎症性サイトカインの関与

心原性肺水腫には、陽圧換気や利尿薬などの治療により、症状・レントゲン所見が速やかに改善する場合がある。一方、血行動態が改善したと考えられるにもかかわらず、肺水腫像が遷延し、しばらく少量の酸素投与を要する程度の酸素化障害が続く場合もある。

これは、互いに独立した2種類の肺水腫があるというよりも、静水圧上昇を基本とする病態に、肺胞・毛細血管バリアの障害や炎症がどの程度重なっているかの違いとして捉えられる。

心原性肺水腫では、高い毛細血管圧によって肺胞・毛細血管バリアが障害され、血管透過性が亢進しうる。また、炎症性サイトカインの関与も報告されており、血行動態の改善後もバリア障害や炎症の影響が残ることで、肺水腫像や酸素化障害が長引く可能性がある。

心不全治療による充満圧の低下に続き、バリア障害や炎症が改善することで、肺水腫像も徐々に改善していくという経過が推察される。ただし、画像所見が遷延していることだけで、左房圧が十分に低下している、あるいはサイトカインによる透過性亢進が原因であると判断することはできない。

参照:
  • De Pasquale CG, Arnolda LF, Doyle IR, Grant RL, Aylward PE, Bersten AD. Prolonged alveolocapillary barrier damage after acute cardiogenic pulmonary edema. Crit Care Med. 2003;31(4):1060–1067. doi:10.1097/01.CCM.0000059649.31659.22.
  • Pappas L, Filippatos G. Pulmonary congestion in acute heart failure: from hemodynamics to lung injury and barrier dysfunction. Rev Esp Cardiol. 2011;64(9):735–738.
  • Tsukimoto K, Mathieu-Costello O, Prediletto R, Elliott AR, West JB. Ultrastructural appearances of pulmonary capillaries at high transmural pressures. J Appl Physiol (1985). 1991;71(2):573–582. doi:10.1152/jappl.1991.71.2.573.
  • Sisakian HS, Tavaratsyan AR. Cardiogenic pulmonary edema – is it lone cardiogenic? “Missing link” between hemodynamic and other existing mechanisms. Am J Cardiovasc Dis. 2024;14(2):81–89. doi:10.62347/YGQQ8696.
  • Rassler B, Reissig C, Briest W, Tannapfel A, Zimmer HG. Pulmonary edema and pleural effusion in norepinephrine-stimulated rats—hemodynamic or inflammatory effect? Mol Cell Biochem. 2003;250:55–63. doi:10.1023/A:1024942132705.

54-5: 胸水の右側優位の機序と代償化の指標

ポイント

  • 心不全の胸水は両側性が多いが、片側性の場合もある。
  • 経験的には、胸水は心不全治療の過程で最後まで残存する余分な水分であることが多い。その推移は、代償化を判断する際の参考になり、私個人は、経験上、胸水の消失で溢水の解除と評価できると考えている。

胸水の画像評価法

胸水は、少量であれば胸部レントゲン正面像では確認困難な場合が多い。
CTでは少量でも評価可能ではあるが、被爆などの問題があり、繰り返しは行えない。
超音波では捉えやすく、量の目安や治療に伴う変化も繰り返し評価できるが、日常的に行うにはややハードルが高い。
このような場合には、胸部レントゲンで側面像を撮影すると少量の胸水の有無を評価しやすくなる。

立位の胸部レントゲンでは、通常は鋭角を示す肋骨横隔膜角が鈍化し、横隔膜から胸壁へ向かってなだらかに上昇する曲線を形成する。正面像のみでは少量の胸水を見逃すこともあるため、側面像で背側の肋骨横隔膜角を確認することも有用である。

超音波と胸部レントゲンは、どちらか一方が常に優れているというものではなく、確認したい内容や患者の状態に応じて使い分ける。

右側優位の機序(未確立)

心不全に伴う胸水は基本的には両側性が多いが、片側性の場合は右側に多い傾向がある。ただし、左側のみに貯留することもあり、左右差だけで心不全による胸水かどうかを判断することはできない。

右側優位となる理由については、左に心臓があり、拍動していることからリンパ排泄能が良くなるのではないかという見解もあるが、確立した機序はない。

胸水の形成には、胸水の供給の原因となる胸膜循環の静脈圧上昇と、排泄機構である胸膜のリンパからの排液などが関係する。
胸膜の循環は、主として、臓側胸膜は、気管支動脈 → 肺静脈、壁側胸膜は、肋間・内胸・横隔膜動脈 → 体循環となっている。(下図参考:参照文献)
リンパ排泄を踏まえると右心系の関与が強いものの、右心系・左心系のいずれか一方の所見だけで説明しようとせず、全体の血行動態と合わせて考える必要がある。

部位主な動脈供給主な静脈還流
臓側胸膜(肺表面・葉間を覆う)主に気管支動脈主に肺静脈
壁側胸膜(胸壁・横隔膜・縦隔を覆う)肋間動脈、内胸動脈、横隔膜の動脈など対応する体静脈系

胸水と代償状態の関係

経験的には、胸水は心不全治療の過程で最後まで残存する余分な水分であることが多い。下腿浮腫や呼吸症状が改善した後も少量の胸水が残り、治療の継続とともに消失するという経過をとることがある。

そのため、胸水の有無だけでなく、その増減を追うことは、残存うっ血や治療反応を評価するうえで有用である。ほかの所見が改善していても胸水が残っていれば、うっ血が残存していないかを改めて確認するきっかけになる。

適切な心不全治療を行っても胸水が残存する場合があり、胸水が完全に消失することを代償化の必須条件とするわけではない。
腎機能などの面から少量の胸水を許容するほうが良い場合などもよく経験する。

胸水が治療に反応しない場合や、ほかの心不全所見と経過が一致しない場合には、心不全以外の原因も再検討する。特に、慢性的な膿胸は高齢者でしばしばみられることもあり、CTで鑑別可能なのことであるので、最初に気をつけておかなければならない。


第55回 : 血液検査 (BNP/NT-proBNP・トロポニンI/T)

ポイント

  • 心臓の負荷や心筋細胞障害を評価する血液検査として、日常診療で中心となるのは、BNP/NT-proBNPと心筋トロポニンT/Iである。ただし、いずれも心疾患の有無だけで値が決まるわけではなく、腎機能や使用薬剤などと合わせて解釈する。

心臓特異的な血液検査は限られる

心疾患に関連する血液検査項目は多岐にわたるが、心臓に異常があるときにのみ異常値を示す、臨床的に実用的な検査は、実質的にBNP(またはNT-proBNP)とトロポニンT(またはトロポニンI)の2種類である。

新規バイオマーカーを評価する5つの視点

新しいバイオマーカーが臨床的に意味を持つには、既存の検査(例:BNP)と比較して以下のいずれかを満たす必要がある。①単独でBNPより優れた心不全評価(入院・死亡予測)ができる、②BNPと同程度の評価能力をより安価・安定的に得られる、③BNPとは異なる事象を評価し異なる予測能を持つ、④BNPと併用することでより良い予後評価ができる、⑤そのバイオマーカー自体を標的とした治療が存在し、改善させることで予後指標が改善する。

かつてのANPとBNPの関係はこの好例である。両者は心負荷時に分泌されるという点で共通するが、安定性・診断能でBNPが優れていたため、現在の心不全診療ではBNPが中心的に評価されている。

sST2という新規バイオマーカー

sST2(Soluble suppression of tumorigenesis-2)は炎症と線維化に関連するバイオマーカーで、BNP(心臓への負荷の程度)、トロポニン(心筋細胞障害の程度)とは異なる事象を評価するため、上記④の可能性を持つ。臨床研究でも併用の有用性が報告されている(Emdin M, et al. sST2 Predicts Outcome in Chronic Heart Failure Beyond NT-proBNP and High-Sensitivity Troponin T. JACC. 2018;72(19))。さらに、sST2を標的とした治療により予後が改善すれば⑤の条件も満たし、より強力なバイオマーカーとなる可能性がある。

ただし、新規バイオマーカーが既存マーカーと異なる病態を反映していても、既存マーカーに対する追加情報が乏しければ、併用の臨床的意義は限られる。


ナトリウム利尿ペプチドファミリー:ANPとBNP/NT-proBNP

ポイント

  • BNPは主として心室から、ANPは主として心房(心耳)から分泌されるナトリウム利尿ペプチドであり、心筋の伸展刺激などにより分泌される。
  • BNPはクリアランス受容体やNEP(中性エンドペプチダーゼ:ネプリライシン)などにより代謝され、腎機能低下や肥満、NEP阻害薬の使用により血中濃度が修飾される。
  • NT-proBNPはBNP産生過程で生成される生理活性を持たない断片で、BNPより半減期が長く、腎機能の影響を強く受ける。
    ARNI導入状態では、NT-proBNPの方が心負荷の変化を解釈しやすい。

心不全診療における重要な指標

BNPおよびNT-proBNPは、心不全の診断から治療経過の評価、予後予測まで、あらゆる場面で有用な検査項目である。2025年改訂版心不全診療ガイドライン(日本循環器学会/日本心不全学会合同)でも、心不全診療における重要な指標として位置づけられている。
(JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure)

ナトリウム利尿ペプチドファミリー

BNP(brain natriuretic peptide:脳性ナトリウム利尿ペプチド)は、主として心室から分泌されるホルモンである。最初にブタの脳で発見されたために「脳性」と名付けられたが、血中BNPは主に心臓に由来する。ANP(atrial natriuretic peptide:心房性ナトリウム利尿ペプチド)は、主として心房、特に心耳から分泌される。その後発見されたCNP(C-type natriuretic peptide)なども、ナトリウム利尿ペプチドファミリーに含まれる。
DNP(Dendroaspis natriuretic peptide、血管拡張作用を持ち将来の治療薬候補として研究中)もこのファミリーに含まれる。

分泌の機序

BNPは心筋の伸展という物理的刺激により産生・分泌され、体液量増加や血圧上昇など、主に心室に負荷がかかるさまざまな状態で変化する。
実験的には、カルシウム負荷、アンギオテンシン、サイトカインなどによっても遺伝子発現が変化することが確認されており、伸展刺激のみによるものではないと考えられいる。
(参照)

ANPは心房細胞内に顆粒として蓄積され、刺激時に速やかに放出される。一方、BNPでは刺激に応じた遺伝子発現や新規合成の調節が重要であり、心筋への負荷に応じて分泌量が変化する。

心房由来のANPは体液量変化の評価に利用されることがあるが、BNPは体液量だけでなく、心内圧や心室形態、心筋の状態にも左右される。このため、BNPを体液量そのものの指標として扱うことはできない。

BNPの代謝・排泄とNT-proBNP

BNPは、クリアランス受容体による細胞内取り込み・分解と、NEPによる分解などによって代謝される。腎臓もBNPのクリアランスに関与しており、腎機能低下では血中濃度が上昇しやすい。また、肥満ではBNP、NT-proBNPともに低値となる傾向があり、肥満を伴う心不全患者では、心負荷から想定されるより低い値を示すことがある。

NT-proBNPは、前駆体であるproBNPの切断時にBNPとともに生成される、生理活性を持たないN末端断片である。BNPと等モルで生成されるため、心負荷を評価するバイオマーカーとして有用である。ただし、実際の血中には未切断proBNPや分解産物も存在する。

NT-proBNPはBNPより半減期が長いため、通常、血中濃度はBNPより高値を示す。また、腎機能の影響をBNPより強く受け、腎不全患者ではNT-proBNPがより顕著に高値となる。

BNPの代謝に関わるNEPを阻害するARNIの導入初期には、心負荷の変化とは別にBNPが上昇することがある。この時期は、NEPによる分解阻害の直接的な影響を受けないNT-proBNPの方が、心負荷の変化を解釈しやすい。ただし、ARNI使用中でもBNPの有用性が失われるわけではなく、導入時期や過去の値を踏まえて評価する。


BNPの生理作用

ポイント

  • 交感神経系・レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系は、循環維持のための代償機構ではあるが、心不全では、リモデリングやうっ血を悪化させる悪循環(vicious cycle)として働く。
  • BNP/ANPはこれに対抗し、利尿・血管拡張による前負荷・後負荷軽減、心臓の線維化抑制など、心臓を保護する方向に作用する。
  • カルペリチド(hANP, ANP注射製剤)は、重症心不全では過度な血圧低下による医原性の増悪をきたすことがあり、治療薬として使用する場合には慎重な判断が必要である。
    (非代償性心不全に対して、なぜ血管拡張薬を使用するかを考えたうえで使用する)

心不全で活性化する2つの神経体液性調節系

心不全に関わる神経体液性調節系は、大きく2つに分けて考えることができる。交感神経系やレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系は、循環維持のために血管収縮や体液貯留を促すが、心不全では結果的に循環動態をさらに悪化させる方向に働く。一方、BNPやANPは、これに対抗して循環動態を改善させる方向に働く。

交感神経系やレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の活性化は、出血性ショックなど循環血液量が不足する状況では有効な生理反応である。しかし、心不全では、すでに体液が貯留し、うっ血が存在していても、有効な循環維持が不十分であればこれらの反応が持続する。ANP/BNPなどの対抗系が働いても十分に代償できず、体液貯留や血管収縮が悪循環を形成する。

BNP/ANPの心臓保護作用

BNPは心臓の負荷に反応して分泌され、心臓を保護する方向に働く。腎臓ではナトリウム排泄と利尿を促進し、動脈・静脈を拡張させることで、後負荷・前負荷を軽減する。中長期的には心臓の線維化を抑制する方向に作用し、脂肪細胞での脂肪分解を促進する作用もある。ANPも同様の作用を持つ。

これらの作用を利用し、ANPやBNPは治療薬としても開発されており、日本ではANP製剤のカルペリチドが使用可能である。ただし、生理的に心保護作用を持つことと、薬剤として投与した場合に予後を改善することは同じではなく、血圧やうっ血、灌流状態などを踏まえて適応を判断する必要がある。

カルペリチドは、低血圧や低灌流を伴う症例では血圧低下によって循環動態を不安定化させる懸念がある。
私自身は、非代償性心不全の治療としてカルペリチドを使用することは基本的にはない。


BNPの受容体と臓器作用機序:cGMPを介した心不全予防効果

ポイント

  • ANP・BNPはNPR-A受容体に結合し、細胞内cGMPを増加させることで作用する。NPR-Cは主にクリアランス受容体として両者の代謝に関与する。
  • 腎臓では糸球体ろ過やナトリウム排泄を促進し、副腎ではアルドステロン分泌を抑制する。血管では平滑筋弛緩を介して血管を拡張させる。
  • ANP/BNPには、体液貯留や血管収縮に対抗するとともに、心臓の肥大・線維化を抑制する生理的役割がある。

受容体の種類

ANPとBNPは、細胞表面のNPR-A(A型ナトリウム利尿ペプチド受容体、GC-Aとも呼ばれる)に結合して作用する。NPR-Bは主としてCNPが結合する受容体である。

NPR-Cは主にクリアランス受容体として働き、結合したナトリウム利尿ペプチドの細胞内取り込み・分解に関与する。つまり、ANP・BNPはNPR-Aに結合してさまざまな臓器に作用するとともに、NPR-Cなどを介して代謝される。
(参照)

細胞内シグナル伝達

NPR-Aを発現する細胞にANPやBNPが結合すると、受容体のグアニル酸シクラーゼ活性によって細胞内のcGMP(cyclic GMP)が増加する。cGMPはプロテインキナーゼGなどを介して蛋白のリン酸化を調節し、さまざまな細胞内機能を変化させる。

これに対し、交感神経のβ受容体刺激や一部の強心薬は、主としてcAMPを介して心筋の収縮性・弛緩能や心拍数を増加させる。

主な作用臓器とその効果

腎臓:輸入細動脈の拡張、輸出細動脈の相対的な収縮、メサンギウム細胞の弛緩などを介して、糸球体ろ過を促進する。また、尿細管でのナトリウム再吸収を抑制し、ナトリウム排泄と利尿を促進する。これにより、過剰な水・塩分貯留を予防・改善する方向に働く。レニン分泌を抑制する作用もある。

副腎:副腎皮質からのアルドステロン分泌を抑制する。腎臓への作用と合わせて、ANP/BNPはレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系と拮抗的に働く。

血管:cGMPを介したシグナルにより血管平滑筋が弛緩する。動脈・静脈のいずれにも作用し、静脈拡張による前負荷軽減、動脈拡張による後負荷軽減をもたらす。

心臓:ANP/BNPには、心臓の肥大や線維化を抑制する方向の作用がある。すなわち、心臓に負荷がかかった状態で分泌され、全身の循環調節と心筋への作用を通じて、心不全の進行に対抗するホルモンと考えられる。
NPR-Aを欠損した実験動物では心臓の線維化と肥大が強く認められたとの報告があり、これはANP・BNPが本来、心臓の線維化を予防し肥大を抑制する方向に働いていることを示唆する。


健診で無症状のBNP高値をどう判断するか

ポイント

  • BNPが35 pg/mL以上、NT-proBNPが125 pg/mL以上の場合は、前心不全または心不全の可能性を考え、心疾患の評価や循環器内科への紹介を検討する。
  • 数値だけで判断せず、年齢、腎機能、肥満、心房細動、症状、身体所見などを踏まえて評価する。
  • 慢性心不全の経過観察では、BNPが前回より40%以上、NT-proBNPが30%以上上昇した場合、増悪の可能性を考慮すると、ガイドラインでは示されている。

BNPは心室負荷を反映する

BNPは、主として心室の心筋細胞が伸展される刺激により産生・分泌される。このため、心疾患があっても、その病態によっては上昇が目立たないことがある。僧帽弁狭窄症、収縮性心膜炎、一部の虚血性心疾患などでは、BNPが低値でも病気を否定することはできない。また、肥満ではBNP/NT-proBNPが低値となりやすい。
(日本心不全学会 BNP/NT-proBNPに関するステートメント2023)

前駆体であるproBNPが切断されると、生理活性を持つBNPと、生理活性を持たないNT-proBNPが等モルで生成される。ただし、血中には未切断proBNPや分解産物も存在し、測定値はそれぞれの代謝や測定系の影響も受ける。

カットオフ値ごとの対応

BNPNT-proBNP解釈の目安
18.4 pg/mL以下55 pg/mL以下基準値以下
18.4超~35 pg/mL未満55超~125 pg/mL未満心不全の可能性は低い
35以上~100 pg/mL未満125以上~300 pg/mL未満前心不全または心不全の可能性
100以上~200 pg/mL未満300以上~900 pg/mL未満心不全の可能性が高い
200 pg/mL以上900 pg/mL以上高リスク心不全の可能性が高い

BNP 35 pg/mL未満:
心不全の可能性は低い。ただし、BNPが低値でも心疾患を完全に除外できるわけではない。症状、心電図異常、心雑音、基礎心疾患などがある場合は、数値だけで評価を終了しない。
BNP 35~100 pg/mL未満:
前心不全または心不全の可能性を考え、症状、身体所見、心電図などを確認し、心エコーや循環器内科への紹介を検討する。無症状であっても、構造的・機能的な心臓の異常が存在する可能性がある。
若年者でこの程度の上昇が持続する場合には、私は一度心エコーによる評価を勧めたいと考えている。高齢者では加齢や腎機能などの影響も考慮するが、年齢や活動性の低さだけを理由に評価不要とはせず、本人の希望や、検査結果が治療方針を変えるかどうかも踏まえて判断する。
BNP 100 pg/mL以上:心不全の可能性が高く、循環器内科への紹介を含め、心エコーなどによる評価を進める。200 pg/mL以上では、高リスク心不全の可能性も考慮する。ただし、数値だけで心不全を確定することはできず、症状や心臓の構造的・機能的異常と合わせて判断する。
無症状でも確認しておきたいこと

BNP/NT-proBNPを評価する際には、腎機能、心房細動、肥満などの影響を確認する。また、血圧の評価も重要であり、必要に応じて自宅血圧測定や24時間血圧測定を利用する。

心エコーで心機能異常が認められた場合は、無症状であっても、将来の症候性心不全への進行に備え、息切れ、浮腫、急な体重増加などの症状を患者に周知することが重要である。運動については、症状や心機能を確認したうえで、身体機能に応じたウォーキングや筋力トレーニングなどを勧める。

BNPの経時的変化の解釈

BNP/NT-proBNPには生物学的・測定上の変動があるため、小さな変化だけで心不全の悪化を断定することはできない。

一方、日本心不全学会の2023年改訂ステートメントでは、慢性心不全の経過観察において、前回よりBNPが40%以上、NT-proBNPが30%以上上昇した場合は、心不全増悪の可能性を考慮し、原因検索と早期介入につなげるとしている。

10~20%程度の変動は、それだけでは増悪を判断しにくいが、症状や体重、身体所見、腎機能などに変化があれば、数値の変化率が小さくても再評価する。逆に、数値が上昇していても、腎機能の変化や不整脈など、心不全以外の要因が関与していないかを確認する必要がある。


第56回 : 肝胆道系バイオマーカーと肝臓の解剖:低灌流性肝障害とうっ血性肝障害の鑑別

ポイント

  • 肝臓には肝細胞傷害を反映するAST・ALT、胆汁うっ滞を反映するALP・γGTP、処理・排泄能に関連するT-bilなど、複数のバイオマーカーがある。値の上昇度合いや組み合わせから、うっ血優位か、低灌流優位かを推測する補助となる。
  • うっ血性肝障害ではAST/ALTの上昇は正常上限の2~3倍程度に留まることが多く、ALP・γGTP・T-bilの軽度な上昇も伴う。
    一方、低灌流などによる急性心原性肝障害では、AST/ALTが急速かつ著明に上昇する(少なくとも100以上)。ただし、両者は併存することも多い。
  • 肝臓は肝動脈と門脈の2系統から血流を受ける。古典的肝小葉は模式的には六角形で、周辺に肝動脈・門脈の分枝と胆管があり、中心に中心静脈が位置する。

クレアチニン上昇の原因鑑別における肝臓の位置づけ

慢性期の腎機能は、糸球体ろ過量の高低やアルブミン尿の有無で予後が変化する。急性期にも、糸球体ろ過量の悪化や一過性のアルブミン尿の有無が予後に関係する。

しかし、急性期に血清クレアチニンが上昇した際、それが腎うっ血によるものか、腎血流低下によるものかは、クレアチニン単独では判別できない。

一方、肝臓には異なる病態を反映する複数のバイオマーカーが存在する。低潅流を示唆するほかの検査と合わせて、肝胆道系の検査所見を評価することで、クレアチニン上昇の背景にある循環動態を推測する助けとなる。ただし、うっ血と低灌流は併存しうるため、検査値だけで両者を明確に分けられるわけではない。 (参照)

肝胆道系バイオマーカーと低灌流性・うっ血性肝障害の鑑別

肝細胞傷害を反映するバイオマーカーとしてAST・ALTがあり、胆汁うっ滞に関連するものとしてALP・γGTPがある。T-bilはビリルビンの処理・排泄に関係し、肝細胞障害と胆汁うっ滞のいずれでも上昇しうる。

低灌流などによる急性心原性肝障害では、AST/ALT・LDHが急速かつ著明に上昇する。典型例ではAST/ALTが正常上限の10~20倍以上となり、腎機能悪化など他臓器の障害を伴うこともある。なお、明確なショックが記録されていなくても、このような肝障害は生じうる。

一方、うっ血性肝障害ではAST/ALTの上昇は正常上限の2~3倍程度に留まることが多く、ALP・γGTP・T-bilの上昇を伴う。ただし、うっ血を背景に低灌流が加わると、AST/ALTが著明に上昇することもある。

したがって、単一の数値で区切るのではなく、肝細胞傷害と胆汁うっ滞のどちらが目立つか、どの程度の速さで変化しているかを、循環動態や他臓器の所見と合わせて判断する。

超音波による肝硬度測定でうっ血を評価する手法もある。ただし、肝硬度はうっ血でも線維化でも上昇するため、肝硬度の上昇をそのまま肝線維化と解釈することはできない。

肝臓の血流解剖

肝臓は、大動脈から分岐する腹腔動脈を経て、肝動脈から血流を受ける。さらに、門脈からも血流が流入する。

門脈は主に上腸間膜静脈と脾静脈の合流によって形成され、消化管・脾臓などからの静脈血を肝臓へ運ぶ。消化管で吸収された栄養素などが、門脈を介して肝臓へ届けられる。

肝小葉の微細構造

古典的肝小葉は、模式的には六角形の断面として表される。六角形の周辺の門脈域には肝動脈・門脈の分枝と小葉間胆管があり、中心には中心静脈が位置する。

肝動脈と門脈から流入した血液は、肝細胞の間にある類洞を通って、周辺から中心静脈へ向かう。中心静脈からの血液は集合し、最終的に肝静脈へ流れ込む。周辺から流れてきた血液が中心の排水口に集まるイメージである。

この過程で各種物質が肝細胞によって取り込まれ、代謝・処理される。一方、肝細胞が分泌した胆汁は、血流とは反対に肝小葉の周辺にある胆管へ向かい、最終的に腸管へ排泄される。血液と胆汁が逆方向へ流れる精巧な配置となっている。


第82回 : 心肝連関:うっ血性肝硬変、心移植の適応判断、門脈圧亢進症と肺高血圧の関連

ポイント

  • 右心不全による右房圧上昇が長期間続くと、肝静脈・類洞のうっ血から小葉中心性の線維化が進み、うっ血性肝硬変に至ることがある。
  • 心不全に伴う肝障害は、うっ血や低灌流が主体であれば、血行動態の改善や補助循環によって改善しうる。一方、進行した肝病変では回復が十分に得られないことがあり、心移植の判断では肝障害の進行度と可逆性の評価が重要となる。
  • AST/ALTは肝細胞傷害を反映する指標であり、肝機能そのものを示すわけではない。肝機能は、PTやアルブミンによる合成能、ビリルビンによる処理・排泄能などから評価する。ただし、PTの解釈には抗凝固薬の影響を考慮する必要がある。

心肝連関とうっ血性肝硬変

心不全と肝臓・腎臓の関係のように、一方の臓器が悪化すると、もう一方も血行動態的要因や非血行動態的要因によって障害されることがある。これを心腎連関・心肝連関・肝腎連関という。

右心不全による右房圧上昇が長期間持続すると、その圧が肝静脈・類洞へ伝わり、慢性的なうっ血が生じる。これにより、中心静脈周囲の肝細胞萎縮や線維化が進み、最終的にうっ血性肝硬変に至ることがある。

うっ血性肝障害では、線維化が進行していても肝関連検査値の変化が目立たない場合があり、検査値だけで線維化の程度を判断することは難しい。

心移植における肝不全の位置づけ

心不全に伴う腎障害や肝障害は、血行動態の改善によって回復する場合がある。肝障害についても、うっ血や低灌流が主体であれば、VADなどの補助循環導入後に改善することを経験するし、報告もされている。

一方、進行した線維化や肝硬変を伴う場合には、循環動態を立て直しても十分な回復が得られないことがある。そのため、心移植を検討する際には、肝障害がどこまで進行しているか、心機能の改善によって回復が期待できるかを評価する必要がある。
経験的には、先天性心疾患は、術後も、右心系に慢性的な負荷をかけることが多く、いわゆるアダルトコンジェニといわれる、成人先天性心疾患患者では、肝臓の線維化が進行していることが多い。

高度で不可逆的な肝障害は、心移植の適応判断に大きく影響する。必要に応じて肝生検などを行い、心移植の適応となりうるかどうかを検討する。ただし、うっ血性肝障害の線維化は不均一であり、生検の採取部位による評価の限界もある。生検所見だけで結論を出すのではなく、臨床所見や画像、検査値と合わせて判断することが重要である。

私の経験上、日本で心肝同時移植を検討されたことを聞いたことはない。

肝機能とAST/ALTの区別

AST・ALTの上昇を「肝機能障害」と呼ぶことがあるが、AST・ALTは肝細胞傷害を反映する指標であり、肝臓の機能を直接示すものではない。

肝機能には、タンパクの代謝・合成や、ビリルビンなどの処理・排泄が含まれる。合成能の評価にはPTやアルブミン、処理・排泄能の評価にはビリルビンなどを用いる。

ただし、ワルファリン服用中はPTが薬効によって変化するため、PTから肝合成能を単独で評価することは難しい。DOAC服用中もPTへの影響は薬剤・血中濃度・測定試薬によって異なり、薬効が最小となるタイミングで採血しても、その影響を完全に除外できるわけではない。

うっ血性肝障害と低灌流性肝障害の組織学的差異

静脈圧上昇によるうっ血では、肝静脈側から圧が伝わり、中心静脈周囲の類洞拡張や肝細胞萎縮が生じる。慢性化すると小葉中心性の線維化が進み、さらに中心静脈同士を結ぶ架橋線維化を形成することがある。

一方、低酸素性肝障害でも、中心静脈周囲のzone 3が障害されやすい。この領域は血流の下流に位置し、酸素供給上不利なためであり、急性心原性肝障害では小葉中心性の肝細胞壊死がみられる。

つまり、うっ血と低酸素性傷害はいずれも中心静脈周囲が重要となるが、前者では慢性的なうっ血・萎縮・線維化、後者では急激な肝細胞傷害・壊死が問題となる。また、慢性的なうっ血は低酸素性傷害を受けやすくするため、両者は独立した病態ではなく、重なり合って肝障害を生じる。
(参照)

なお、これらの肝細胞傷害所見が、そのまま肝合成能や排泄能の低下を意味するわけではない。

門脈圧亢進症と肺高血圧の関連

門脈血栓などによる通過障害や、肝硬変による肝内血管抵抗の上昇によって、門脈圧亢進症が生じる。門脈圧亢進症に肺動脈性肺高血圧症を合併する病態は、門脈肺高血圧症と呼ばれる。

その機序は完全には解明されていないが、門脈体循環シャントを介して、本来肝臓で代謝される物質が肝臓を通過せずに体循環・肺循環へ到達することなどが関与すると考えられている。これらが肺血管の収縮やリモデリングに関わり、肺血管抵抗の上昇につながる可能性がある。
(参照)


第57回:トロポニン・CKについて

トロポニン

ポイント

  • トロポニンはT・I・Cの複合体で心筋の収縮・弛緩を制御するタンパクであり、ANP/BNPが心負荷を反映するのに対し、トロポニンは心筋細胞障害を反映する。臨床測定はトロポニンTまたはIが対象となる。トロポニンCは骨格筋と共通の構造を持つため、心筋特異性がない。
  • 急性冠症候群を疑う場合、基準上限をわずかに超える上昇でも心筋障害の所見として捉える。ただし、トロポニン上昇だけで心筋梗塞と診断することはできない。
    また、発症直後には上昇していないことがあり、初回検査が陰性でも、疑わしい場合には時間を置いて再検する。
  • 慢性心不全や心筋症の診断時にもトロポニン測定は有用である。高値自体が治療方針を直接決めるものではないが、潜在的な心筋障害の存在を示唆し、予後評価に役立つ

トロポニンの分子機構

心筋細胞障害のバイオマーカーとして、トロポニンが有用である。ANPやBNPが心臓にかかる負担によって変化するのに対し、トロポニンは心筋細胞に障害が生じたときに増加する。

トロポニンはT・I・Cの3種が複合体を形成し、心臓の弛緩・収縮を制御する。トロポニンTはトロポミオシンに結合して複合体を作用部位に固定する役割、トロポニンIはアクチンとミオシンの相互作用を抑制する役割、トロポニンCはカルシウム濃度に応じてカルシウムと結合・解離する役割を持つ。

心筋細胞内カルシウム濃度が上昇し、トロポニンCがカルシウムと結合すると、トロポニンIによる抑制が解除される。これに伴ってトロポミオシンの位置が変わり、アクチンとミオシンがATPのエネルギーを用いてスライディングし、収縮が起こる。

臨床で測定されるのは、トロポニンTまたはIである。トロポニンCは骨格筋の一部と構造が共通しているため、測定しても心筋由来か骨格筋由来かを区別できず、心筋障害のマーカーとしては使用されない。

参照:J.ロドニー・レヴィック 著,岡田隆夫 監訳.心臓・循環の生理学.メディカル・サイエンス・インターナショナル;2011.

急性冠症候群におけるトロポニンの解釈

不安定狭心症・急性心筋梗塞などの急性冠症候群を疑う場合は、トロポニンが最もよく測定される場面である。なお、虚血性心疾患は慢性の病態だけを指すのではなく、急性冠症候群も含む概念である。

トロポニンは、基準上限をわずかに超える上昇でも、心筋障害の所見として捉えるべきである。ただし、基準値は測定系によって異なるため、使用する検査の基準上限を確認する必要がある。
また、高感度測定では正常範囲内でもトロポニンが検出されるため、「検出されること」と「異常高値であること」は区別する。

トロポニン上昇は心筋障害を示すが、その原因が心筋梗塞であるとは限らない。心筋梗塞の診断では、トロポニンの上昇・下降と、心筋虚血を示す症状・心電図・画像所見などを組み合わせて判断する。

腎機能障害例では、急性心筋梗塞がなくてもトロポニンが高値を示すことがある。その背景には、排泄・代謝の変化がある。ただ、慢性的な心筋障害も関与する可能性があるため「腎機能が悪いから高いだけ」と片づけず、経時的な変化や症状・心電図所見と合わせて評価する。

また、症状出現直後には、心筋梗塞であってもトロポニンが上昇していないことがある。そのため、初回検査が陰性でも心筋梗塞は否定できず、疑わしい場合には時間を置いて再検する。

心筋炎・慢性心不全での活用

心筋炎の診断にもトロポニンは非常に有用である。冠動脈の血流障害だけでなく、炎症による心筋細胞障害でも上昇するため、トロポニン上昇を認めた場合には、症状・心電図・心エコーなどから、その原因を考える必要がある。

慢性心不全や心筋症・弁膜症の初回評価時にも、心筋障害の有無を把握する目的でトロポニンを測定しておくとよい。慢性心不全では、高感度測定によって軽度のトロポニン上昇が認められることがあり、その値は予後と関連する。

トロポニン高値自体が、直ちに特定の治療を選択させるわけではない。しかし、ANP/BNPによる心負荷の評価に加えて、心筋細胞障害という別の側面から病態を捉えることができる。

急性冠症候群では、急性の心筋障害を捉えるために経時的な変化が重要となる。一方、慢性心不全では、持続する軽度の上昇も、背景にある心筋障害と予後を考える手がかりとなる。同じトロポニン上昇でも、急性変化なのか、慢性的に持続しているのかを区別して読むことが重要である。


CK・CK-MB
 :生化学と心筋梗塞・心筋炎での重症度解釈の違い

ポイント

  • クレアチンキナーゼ(CK)はクレアチンをリン酸化し、ATP由来のエネルギーをホスホクレアチンとして貯蔵・輸送する酵素である。血中CKは、心不全そのものの指標ではないが、心筋梗塞・心筋炎などの診断・病態評価に有用である。
  • 同じCK値でも、心筋梗塞と心筋炎では重症度の意味が異なる。急性心筋梗塞の最高CK1000程度は梗塞量として比較的小さいことが多いが、急性心筋炎ではCK500–1000程度でも極めて重症なことがあり、同じ感覚で軽症と判断してはいけない。
  • CK上昇時にCK-MBの比率が高ければ、心筋障害を疑う手がかりとなる。ただし、比率だけで心筋由来かどうかを確定することはできず、トロポニンや心電図などと合わせて判断する。
  • 現在の心筋梗塞の診断は、日本でも心筋トロポニンの上昇・下降と心筋虚血所見の組み合わせが基本である。CKは、心筋障害の程度や経過を把握するうえで有用である。

クレアチンキナーゼの生化学的役割

クレアチンキナーゼ(CK、クレアチンホスホキナーゼ/CPK、ホスホクレアチンキナーゼとも呼ばれる)は、心不全そのものの指標ではないが、心不全の原因である心筋梗塞や心筋炎で上昇するため、これらの疾患の診断・病態評価に有用である。

細胞内で利用されるATPは主にミトコンドリアで産生され、ADPにリン酸が付加されることで形成される。ATPはATPaseによってADPに分解される際に、細胞の活動に必要なエネルギーを供給する。

クレアチンはATPからリン酸基を受け取り、ホスホクレアチンとなることでエネルギーを貯蔵・輸送する。ホスホクレアチンは、エネルギーが必要な場所でADPにリン酸基を渡してATPを再生する。この仕組みがクレアチンシャトルである。ATP単独に依存するよりも効率的にエネルギーを供給でき、このエネルギー代謝をMR(磁気共鳴)で観察する試みもある。

CKは、このクレアチンとホスホクレアチンの間の可逆的な反応を触媒する酵素である。細胞質のCKは、Mサブユニット・Bサブユニットの組み合わせにより、CK-MM、CK-MB、CK-BBの3種に分類される。

重要:心筋梗塞と心筋炎での解釈の違い

急性心筋梗塞の最高CKが1000 U/L程度であれば、酵素逸脱からみた梗塞量は比較的小さいことが多い。例えば、比較的小さい血管や主要血管の末梢枝の閉塞、あるいは発症早期に緊急カテーテル治療が成功したような状態が想定される。
もちろん、CKだけで不整脈や機械的合併症を含む患者全体の重症度が決まるわけではないので、注意は必要である。

一方、急性心筋炎ではCK1000 U/L程度であっても、極めて重症なことがある。端的に言えば、最高CK1000という一時点の高さと、CK1000前後が持続している状態とでは、意味が異なる。CKを縦軸、時間を横軸に取り、曲線の下の面積が心筋障害の総量を反映するとイメージするとわかりやすい。ピークの高さだけでなく、どの程度の上昇がどれだけ続いているかを見ることが重要である。

「CK500–1000程度だから大丈夫」という判断は、心筋炎では非常に危険である。急性心筋梗塞の最高CKと同じ感覚で軽症と判断してはいけない。CKの数値にかかわらず、循環動態の悪化や重篤な不整脈を伴う場合には、ECMOなどの補助循環を見据えた対応が必要である。

私の経験上、心筋炎でCK 1000U/Lというのは重症であると考えていい。

CK-MBによる心筋特異性の評価

心筋にはCK-MBが比較的多く含まれるため、CK上昇時にCK-MBの比率が高ければ、心筋梗塞・心筋炎などの心筋障害を疑う手がかりとなる。

例えば、CK1000 U/L、CK-MB100 U/Lという所見であれば、心筋障害を積極的に考える。

全身ショックで多臓器障害が強い場合には、骨格筋障害と心筋障害が併存することがある。例えば、CK5000 U/L、CK-MB80 U/LではCK-MBの比率は低いが、それだけで心筋障害を否定することはできない。このような場合には、トロポニンT/Iの定量、心電図、心エコーなどを合わせて評価する。

CK-MBが不自然な高比率を示す場合には、骨格筋疾患や測定干渉なども考慮する。ただし、高比率そのものを根拠に心筋障害を否定してはいけない。なお、CK-MBが総CKの何%を占めるかを活性比率として評価する際には、CKとCK-MBがともに活性値(U/L)で示されていることを確認する必要がある。

従来は、CKが正常上限の2倍以上となることなどを用いて心筋梗塞を診断していた。現在は日本でも、心筋トロポニンの上昇・下降と心筋虚血を示す症状・心電図・画像所見などを組み合わせる診断が基本である。CK上昇が軽度、あるいは明らかでなくても、心筋梗塞は成立する。

この辺りは、冠動脈の血流障害による心筋障害という基本的な病態を、諸々の検査でどのように定義していくかというものであり、今後も変更される可能性はあるため柔軟な対応が必要である。


第58回 : 尿酸;プリン体代謝経路と心不全における臨床的位置づけ

ポイント

  • バイオマーカーは3つに分けられる。
    ①生体保護のために上昇する(BNP型)
    ②上昇自体が生体に害を及ぼす(アルドステロン型)
    ③疾患悪化を反映するが直接的影響はない(クレアチニン型)
    心不全にとっての尿酸はおおむね③型に近く、尿酸自体が直接心不全を悪化させる証拠はない。
  • 尿酸はプリン塩基(アデニン・グアニン)を含むヌクレオチド(AMP・GMP)の最終代謝産物で、キサンチンオキシダーゼ(XO)を介して生成される。排泄は主に近位尿細管でURAT1(再吸収)・GLUT9(血管側への移動)・ABCG2(分泌)が担う。
  • 心不全患者の尿酸管理は、心不全を理由に特別な治療方針をとる必要はなく、一般の高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインに従う方針でよい。
    心不全の重症度に応じて二次的に上昇した尿酸を厳格にコントロールする意義は乏しい。
日本痛風・尿酸核酸学会:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 ダイジェスト・ポケット版(2019年)

バイオマーカーの3分類と尿酸の位置づけ

尿酸(UA, uric acid)は、心不全をはじめとした循環器疾患のバイオマーカーとなる。バイオマーカーが異常値を示す場合、おおむね3つに分類できる。
①BNPのように疾患に対する生体保護反応として上昇するもの。そのため治療は、BNP自体を増やす方向となる。(NEP阻害薬:ネプリライシン)
②アルドステロンのように上昇自体が疾患を悪化させたり、症状の原因となるもの。そのため、治療はその作用を阻害する方向となる。(例:抗MR薬)
③クレアチニンのように上昇が疾患悪化を反映するが、バイオマーカー自体には直接的な生体への影響はないもの。そのため、治療は原疾患そのものの治療を継続するしかない。
尿酸は、心不全・腎不全の悪化によって上昇すると考えられるが、尿酸自体が直接的に心不全を悪化させる根拠は乏しい。

拡張型心筋症など、尿酸低下治療による心不全予後改善は確認されていない。自験例ではあるが、フェブキソスタットは心不全患者で過度な血圧低下を起こすことがあり注意が必要である。
(ある重症心不全へのフェブキソスタット追加研究で血圧低下を来した症例を2例経験した)
高尿酸血症は痛風発作・腎機能悪化のリスクがあるため、治療はガイドラインに従って行えばよい。
特にもともと正常で心不全経過とともに尿酸が上昇している患者では、それ自体が心不全の重症度を示す指標であり、厳格な尿酸コントロールの意義は乏しいと考えられる。
以上がガイドライン上の整理である。一方、私自身は、心不全患者では心不全治療薬だけでも多剤併用となるため、尿酸値が9 mg/dL程度までであれば、尿酸降下薬を追加せず経過を見ることが多い。慢性的に9 mg/dLを超える場合には治療を考えることもあるが、積極的に尿酸値を下げにいくことは少ない。

尿酸の代謝経路

尿酸は核酸のアデノシン一リン酸(AMP)・グアニル一リン酸(GMP)が代謝される経路の最終生成物である。

塩基にはプリン塩基(アデニン・グアニンなど)とピリミジン塩基(シトシン・チミン・ウラシルなど)があり、塩基に糖(リボースまたはデオキシリボース)が付いたものがヌクレオシド、ヌクレオシドにリン酸が付いたものがヌクレオチドである。ヌクレオチドがホスホジエステル結合で連なったものがDNA(デオキシリボース)・RNA(リボース)である。

プリン塩基を持つヌクレオチド(AMP・GMP)が代謝される際の最終産物が尿酸であり、これが核酸・プリン体摂取により尿酸値が上昇するとされる理由である(近年は食事の影響は従来考えられていたより小さいとされる)。

プリン塩基は核酸以外にもNADなどの補酵素やカフェインにも含まれる。代謝経路の最終段階でキサンチンまたはヒポキサンチンからキサンチンオキシダーゼ(XO)を介して尿酸が生成され、XO阻害薬はこの酵素を阻害して尿酸合成を抑制する(作用機序が共通のため併用効果はない)。

尿酸の排泄機構

合成された尿酸は、主に腎臓と腸管から排泄される。通常、約3分の2が腎臓、約3分の1が主に腸管を介して排泄される。腎臓では、糸球体で濾過された尿酸が近位尿細管で再吸収と分泌を受け、その差し引きによって尿中への排泄量が決まる。

尿酸の再吸収では、近位尿細管上皮細胞の管腔側にあるURAT1が、尿細管内の尿酸を細胞内へ取り込む。URAT1は、細胞内のニコチン酸などの有機陰イオンを尿細管内へ排出する代わりに、尿酸を取り込む交換輸送体である。乳酸などの有機酸の増加も尿酸の再吸収促進に関与する。

細胞内へ再吸収された尿酸は、血管側にあるGLUT9(URATv1)を介して血液中へ戻る。プロベネシドやドチヌラドなどの尿酸排泄促進薬は、主にURAT1を阻害し、尿酸の再吸収を抑えることで尿中への排泄を増やす。

一方、尿酸を血液側から尿細管内へ分泌する経路もある。血液中の尿酸は、血管側のOAT1・OAT3などを介して近位尿細管上皮細胞内へ取り込まれ、管腔側のNPT1・NPT4・ABCG2などを介して尿細管内へ排出される。これは、再吸収された尿酸がそのまま再び分泌されるというより、再吸収とは逆向きに尿酸を運ぶ経路として理解するとよい。

ABCG2は腎臓だけでなく、腸管からの尿酸排泄にも重要である。その機能が低下すると、腎臓や腸管からの尿酸排泄が低下し、食生活だけでは説明できない高尿酸血症の原因となる。一方、URAT1の機能が低下すると、尿酸の再吸収が不十分となり、腎性低尿酸血症の原因となる。GLUT9の機能低下も、同様に腎性低尿酸血症を起こしうる。

心不全では、腎血流や腎機能の低下、利尿薬の使用などによって腎臓からの尿酸排泄が低下する。さらに、低酸素やエネルギー代謝の変化による尿酸産生の増加も加わるため、血清尿酸値の上昇は、排泄低下と産生増加の両面から捉える必要がある。

参照:
Chung S, Kim GH. Urate transporters in the kidney: what clinicians need to know. Electrolyte Blood Press. 2021;19(1):1–9. doi:10.5049/EBP.2021.19.1.1.
Halperin Kuhns VL, Woodward OM. Urate transport in health and disease. Best Pract Res Clin Rheumatol. 2021;35(4):101717. doi:10.1016/j.berh.2021.101717.

尿酸の抗酸化作用と血管への影響

尿酸は単なる代謝の老廃物ではなく、血中では活性酸素などを消去する抗酸化物質としても働く。一方、細胞内では酸化ストレスや炎症を促進する作用も報告されており、作用する環境によって異なる性質を示す(参照)。

この抗酸化作用は、ヒトに尿酸を静脈投与する研究でも検討されている。Waringらは、健常者に尿酸1,000 mgを投与する無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行い、血清の抗酸化能が上昇することを示した。同量のビタミンCも抗酸化能を上昇させたが、この試験で用いた測定法では尿酸による上昇の方が大きかった(参照)。

さらに、1型糖尿病患者、常習喫煙者、健常対照者をそれぞれ8例ずつ対象とした研究では、尿酸1,000 mgの静脈投与によって、糖尿病患者と喫煙者で低下していたアセチルコリンに対する血管拡張反応が改善した。一方、ニトロプルシドに対する反応は変わらなかったことから、尿酸が血管内皮依存性の血管拡張を改善したと考えられる。この結果は、酸化ストレスが強い状況では、尿酸が血管保護的に働く可能性を示している(参照)。

尿酸の抗酸化作用を治療に利用する試みもある。急性虚血性脳卒中を対象としたURICO-ICTUS試験では、アルテプラーゼ治療に尿酸1,000 mgの静脈投与を追加した。しかし、主要評価項目である90日後の良好な機能予後の割合は、尿酸群39%、プラセボ群33%であり、統計学的に有意な差には至らなかった(参照)。抗酸化作用があることと、投与によって臨床予後が改善することは、分けて考える必要がある。

一方、細胞・動物実験では、尿酸の細胞内への取り込みに伴う酸化ストレスの増加、NOの利用能低下、血管平滑筋細胞の増殖などが報告されている。こうした作用は、高尿酸血症と血管障害との関連を説明する機序として考えられている(参照)。

したがって、尿酸は一律に有害な物質でも、単純に高いほどよい抗酸化物質でもない。急性の尿酸投与による抗酸化作用や血管内皮機能の改善は、慢性的な高尿酸血症を維持することの有益性を意味しない。逆に、高尿酸血症と心血管疾患の関連だけから、尿酸を下げれば心血管予後が改善するともいえない。実際、虚血性心疾患患者を対象としたALL-HEARTでは、アロプリノールによる心血管イベントの抑制は認められなかった。

心不全においても、尿酸値の高さは病態や予後を考える手掛かりとなるが、尿酸値そのものを心不全治療の標的とする意義は確立していない。尿酸の抗酸化作用と有害作用の両面を理解しつつ、実際の尿酸管理は痛風や高尿酸血症としての治療適応に基づいて判断する、という位置づけでよいと考えている。