心不全とは : 第2部 (第36〜52回:心不全の分類と原因疾患)

第2部:心不全の原因(第36〜52回)

  1. 心不全の原因を異常の局在から8つに分類する
  2. 心不全の原因:治療可能なもの・予防可能なものを区別する臨床的意義
  3. 心臓サルコイドーシス:診断と治療の実践
  4. 心アミロイドーシス:両室肥厚と急速な低灌流化に注意
  5. 心ファブリー病:酵素補充療法が存在するX連鎖性疾患
  6. ミトコンドリア病による心不全:若年者の難聴・糖尿病合併に注意
  7. 自己免疫性疾患・内分泌異常による心不全:甲状腺クリーゼと成長ホルモン亢進に注意
  8. HIV感染による心不全:複数の機序が複合する病態
  9. ウイルス性慢性心筋炎という疾患概念の難しさ
  10. 薬剤と心不全の関係:心筋障害型と症状増悪型の区別
  11. 収縮性心外膜炎:見逃すと致命的な「疑うことが最も重要」な疾患
  12. 特発性拡張型心筋症の概念:除外診断としての位置づけ
  13. 特発性拡張型心筋症:実際の診断の流れ
  14. 心不全での初期の診断が重要な理由:心臓移植は「根治」ではない
  15. 成長後に発症する拡張型心筋症の原因遺伝子:PRMT1欠損マウスの知見
  16. 心房機能と心房性不整脈による心不全
  17. 不全心・不整脈の原因としての筋ジストロフィー

第36回 : 心不全の原因を、異常の局在・機序から8つに分類

ポイント

  • 本稿では異常の生じている病態の機序 (心筋細胞→心筋組織→心筋細胞数→心臓の構造→血流→電気的活動, 全身性需要, 心外因子)によって心不全の原因を8つに分類する。
  • 多くの病態は複数の分類に重複しうるが、病態理解のためできる限り単純化して整理する。
  • 慢性心不全の原因(そもそもの心機能低下の原因)は、初回診断時に調べることが望ましい。

慢性心不全の原因

気道感染や一過性の不整脈など慢性心不全が非代償化するような原因ではなく、そもそもの心機能を低下させた「慢性心不全の原因」は何かについて、心機能低下がどのレベルの異常によって生じているかという観点で分類する。

この分類の限界についても触れておく。
心不全自体が進行性の疾患であり、例えば、元々の原因が心筋細胞自体の機能障害であったとしても、時間とともに細胞数も減少し、間質に線維化や炎症が起こることはよくある。そのため、ある程度進行した心不全では複数の要因が同時に起こっていたり、分類上の原因が、進行した時点での心機能異常の根本の原因ではなくなっていることもありうる。
また、先天性疾患のように単一遺伝子疾患ではあるものの、遺伝子がコードするタンパク質によって複数部位に影響を及ぼすものや、タコつぼ型心筋症のように原因が明確ではないもの、薬剤のように複数箇所に影響を及ぼすものなどもある。高血圧では、かなりの長期的な時間軸での左室に対する恒常的な負荷により、それに対して代償的な反応がさまざまな部位に生じ、徐々に機能不全の原因となるような場合もある。

また、原則1疾患1原因として分類するが、タコつぼ型心筋症に関しては、原因不明であり、異なる原因ではあるものの、表現型が同じだけという可能性があるため、仮説に合わせて複数の原因に分類する。

そういったことを前提としてではあるが、ここで、慢性心不全を根本の原因で分類していく。

8つの分類

①心筋細胞自体の機能異常
②心筋組織(間質など)の異常
③心筋細胞数の減少
④心臓の構造的異常
⑤血流障害による機能低下
⑥不整脈・伝導障害による心機能低下
⑦全身性の酸素需要増大による心機能低下
⑧心外因子による慢性的な圧・容量負荷に対するリモデリング

①心筋細胞自体の機能異常 : 弛緩/拡張・収縮機構(トロポニン、リアノジン受容体、タイチンなど)やエネルギー代謝(CD36など)に異常があり、心筋細胞として正常に機能できない状態。
例 : 特発性拡張型心筋症(遺伝子異常によるもの)、肥大型心筋症、拘束型心筋症
 CD36欠損症、ミトコンドリア病、ファブリー病、ハーセプチンなどによる薬剤性心筋症
 中性脂肪蓄積心筋血管症 (TGCV, 心筋細胞内に中性脂肪が蓄積する代謝性心筋症)
 内分泌性心筋症(甲状腺亢進・低下, 成長ホルモン過剰)
 タコつぼ型心筋症(交感神経の過剰刺激が原因とする場合)
 サイトカインストーム(敗血症時の心機能低下。慢性心不全の原因ではないが、心機能低下の原因ではある)
 (私見:TRPVのような細胞内外の浸透圧を調整するような機能異常も含まれる可能性があると考えている)

②心筋組織(間質など)の異常 : 心筋細胞自体に機能低下を生じる根本的な原因はないものの、心内膜・外膜・間質組織に変化があり組織・機能が障害される状態。心内膜、心外膜、細胞外マトリックス、間質などを主座とする病変により、心筋の弾性、拡張性、収縮協調性、電気的安定性が障害される。組織の異常による心筋細胞機能障害や数の減少を生じることも多い。
先天的:心内膜弾性線維症、緻密化障害、不整脈原性心筋症
後天的 : アミロイドーシス、収縮性心外膜炎

③心筋細胞数の減少 : 個々の細胞機能は正常だが細胞数自体が減少している状態。
例 : 陳旧性心筋梗塞、慢性心筋炎、サルコイドーシス、免疫性疾患など。
アドリアマイシンによる心筋障害もここに含まれる。

④心臓の構造的異常 :心筋組織自体に異常はないが構造異常により心不全となる状態。
例 : 弁膜症、先天性短絡性疾患など。

⑤血流障害による機能低下 : 心筋障害はないか軽度で、血流障害により心筋細胞機能が低下する状態。可逆性が期待される。
例 : 冠動脈高度多枝狭窄による慢性的な虚血状態
  タコつぼ型心筋症(注:微小循環障害が原因とした場合)
(陳旧性心筋梗塞は細胞数の減少で、多枝狭窄は慢性的な虚血による心筋細胞機能低下と考える。臨床的には可逆性の有無の差ともいえる)

⑥不整脈・伝導障害による心機能低下 : 頻拍誘発性心筋症(心房性頻拍、心房粗動・細動、多発性心室性期外収縮など)、徐脈誘発性心筋症(bradycardia induced cardiomyopathy)、ペースメーカ留置後の右室ペーシングや左脚ブロックによる心機能低下。

⑦全身性の酸素需要増大による心機能低下 : 心臓自体は正常だが全身の酸素需要が著しく持続的に増加し、結果的に心筋細胞レベルの機能が低下する状態。
例 : 重度貧血、高度な動静脈シャント、脚気など。

⑧心外因子による慢性的な圧・容量負荷に対するリモデリング :
心臓外から長期間加わる圧負荷または容量負荷に対する代償反応が、左室肥大、心筋線維化、拡張障害、心房拡大へ進展し、心不全に至る状態。
例: 高血圧性心疾患, 閉塞性睡眠時無呼吸症候群

陳旧性心筋梗塞や免疫性疾患などでは、心筋細胞の機能低下と細胞数減少を同時に来すことも多く、これらの分類は重複しうる。それを承知のうえで、病態理解のため便宜的にいずれかに分類している。
また発症の時間経過も重要である。生来心筋組織に異常があり、発症が新生児・小児期に訪れることもあれば、若年期には症状はなく、経年的にある時点から急性または徐々に心機能が低下することもある。 
20歳代で症状が初めて出て移植適応になるような重症患者でも、症状出現前の検査データがないことが多く、初めからある程度心機能が悪く、ほかの身体機能で代償されていただけなのか、それとも正常な機能が何らかのトリガーによって急に悪化して症状が出たのか不明なことも多い。
ARVCや心内膜弾性繊維症などに関しても、複数要因が絡むためこの分類に異論の余地はある。

8分類の具体例 表 1 – 8


第37回 : 原因のうち、治療可能なもの・予防可能なものを区別する臨床的意義

ポイント

  • 心不全の“原因”を「根本的に治療可能か」を分類することは、実臨床の現場で、原因鑑別のための検査をどこまで行うかを判断するうえで重要である。
  • 心不全の“原因”が予防可能かどうかを知ることは、予防医療という観点で重要である。
  • 治療可能な原因(冠動脈病変、弁膜症、不整脈、アミロイドーシスの一部、収縮性心外膜炎、薬剤、全身性疾患、高拍出性心不全、ウイルス性心筋症など)を除外する精査は積極的に行う価値がある。
  • 現時点で治療法がない原因(遺伝性心筋症の多くなど)については、診断より標準治療の反応性評価が優先されるが、将来の治療開発を見据えた遺伝子検査の意義もある。

治療可能性・予防可能性による分類の臨床的意義

慢性心不全の原因を「原因に対する治療が可能か」「予防や進展抑制が可能か」という視点で分類することは、実臨床で重要である。

理由は、心不全の原因検索で、どこまで検査を進めるかという判断に直結するためである。すべての症例に網羅的な精査を行うことは現実的ではない。一方で、原因への介入により心機能、症状、再入院、予後が改善しうる病態は、見逃さないよう積極的に検索する価値がある。

ここでいう「治療可能」とは、必ずしも心不全を完全に根治できることではない。原因への介入により、心機能改善、心筋障害の進行抑制、症状や再入院の減少が期待できる状態を含む。

①治療可能な原因による心不全

以下は、診断が治療方針を直接変えうるため、病歴、心電図、心エコー、血液検査、画像検査などを用いて積極的に除外を検討したい原因である。

原因主な例原因への主な介入
冠動脈病変急性・慢性冠症候群、心筋虚血再灌流療法、PCI/CABG、二次予防
弁膜症・短絡性心疾患AS、AR、MR、TR、ASD、VSD、PDA手術、TAVI、TEER、カテーテル閉鎖術
不整脈頻脈誘発性心筋症、AF/AFL、頻回PVC、徐脈・伝導障害レート・リズム制御、アブレーション、ペースメーカー、CRT
収縮性心膜炎慢性収縮性心膜炎病因評価、適応例で心膜切除
薬剤・毒性アルコール、抗がん薬、免疫療法、違法薬物など原因薬の中止・変更、断酒、心毒性への対応
全身性疾患心サルコイドーシス、AL/ATTRアミロイドーシス、甲状腺疾患、ファブリー病など病型に応じた免疫治療、疾患修飾治療、内分泌治療、酵素補充療法
高拍出性心不全重症貧血、動静脈シャント、脚気心貧血・出血源治療、シャント治療、ビタミンB1補充
感染性・炎症性心筋疾患治療標的となる病原体・免疫病態を伴う心筋炎など病態に応じた抗感染症治療・免疫治療

アルコール性心筋症、頻脈誘発性心筋症、活動性心サルコイドーシスなどでは、原因を除去・是正することで心機能が改善することがある。ただし、不可逆的な線維化が進行している場合には完全な回復が得られないことも多い。それでも原因が持続するより、心筋障害の進行を抑えられる可能性がある。

②予防可能、予防する何らかの手段がある原因

心不全の予防は、発症前だけでなく、構造的心疾患から症候性心不全への進展、既存心不全の再増悪を防ぐことまで含む。

原因・リスク主な予防・介入
冠動脈病変禁煙、血圧・脂質管理・糖尿病管理、運動、体重管理、心筋梗塞後の二次予防
高血圧家庭血圧を含む継続管理、減塩、体重管理、節酒、適切な降圧薬
ウイルス感染ワクチンで予防可能な感染症への対応、早期診断・治療
アルコール性心筋障害飲酒量の把握、減酒・断酒支援
薬剤性心機能障害心毒性薬の治療前リスク評価、治療中の心機能監視、不要な心不全増悪薬の回避、 (心保護薬の予防的投与:エビデンス不足)
心房細動・頻脈性不整脈高血圧、肥満、飲酒、睡眠時無呼吸、甲状腺機能異常への介入
心不全再増悪服薬継続、塩分・体液管理、感染予防、不整脈・高血圧の管理、NSAIDsなど増悪薬の回避

治療法のない原因についての考え方

遺伝性心筋症の多くでは、原因遺伝子そのものに対する標準治療は、現時点では限られている。したがって、日常診療では心不全標準治療の最適化、うっ血管理、不整脈・突然死リスク評価、必要に応じたICD・CRTの検討が優先される。

ただし、原因治療が乏しいことは、原因診断の価値が低いことを意味しない。遺伝学的診断は、本人の予後評価、デバイス治療、家族スクリーニング、将来の分子標的治療や臨床試験への接続に役立つ場合がある。若年発症、家族歴、特徴的な心電図・画像所見を伴う心筋症では、専門施設と連携して検討する。

まとめ

心不全の原因検索では、まず診断が治療を変える原因を優先して拾い上げる。次に、冠危険因子、高血圧、感染、飲酒、薬剤、不整脈など、発症・進展・再増悪を予防できる因子へ介入する。

原因検索の目的は、病名を増やすことではない。治療可能な病態を見逃さず、予防可能な因子に早期介入し、患者本人と家族の長期的な診療を改善することである。


ここでは代表的なものを簡単に触れていく。
各論に関しては、別稿で詳説する。

第38回 : 心臓サルコイドーシス:診断と治療の実践

ポイント

  • 心臓サルコイドーシスは房室ブロック・心室瘤(局所菲薄化)・拡張型心筋症様心不全の3つを特徴とし、いずれか単独または段階的に全て出現しうる。
  • 診断はガリウムシンチ/PET、心臓MRI、心筋生検、ACE・sIL2受容体・トロポニンなどを組み合わせて行うが、特に2026年段階のガイドラインでは、”活動性”サルコイドーシスの診断が目的であることに注意する。(参照:2016年版心臓サルコイドーシスの診療ガイドライン
  • ステロイド治療(プレドニン30mg/日から漸減)が有効であり、心不全の場合は見逃すと心機能改善のチャンスを失う。

サルコイドーシスの病態

サルコイドーシスは厚生労働省の指定難病で、過剰な免疫反応により全身に肉芽腫(腫瘤様の炎症性病変)を形成する疾患である。心臓・肺の線維化病変を伴わなければ自然治癒することが多く、概して予後良好であり、肺リンパ節腫脹・肺線維症・眼のブドウ膜炎・心臓病変が代表的な臓器障害である。
心病変、不整脈は突然死のリスクとなり、拡張型心筋症になり進行すると心臓移植が必要なほど重症化し、予後はよくない疾患となる。
発症の誘因としてニキビ菌(プロピオニバクテリア)への過剰な免疫反応が疑われている。

心臓サルコイドーシスの3徴候

①房室ブロックを中心とした不整脈、②局所的な心室瘤または心室の菲薄化、③拡張型心筋症タイプの心不全。これらはいずれか単独のこともあれば全て揃うこともある。揃う場合でも、同時にすべてみられるというより、段階的に出現することも多い。
例えば、自験例ではあるが、房室ブロックでペースメーカ植込み後10年で拡張型心筋症様の心不全を発症し、心筋生検を含む精査でサルコイドーシスと診断。振り返ると10年前の時点でサルコイドーシスがあったと考えられるケースがあった。
ただ、ペースメーカ植え込み10年後くらいであると、右室ペーシングによる心機能低下も考慮する必要はある。

診断の進め方

血液検査 : ACE, sIL2受容体を測定する。
ACE 10以上で否定不可、15以上で疑わしい、20以上でかなり疑わしい。ただし、ACE阻害薬などの内服状態では評価は困難。
sIL2受容体は正常〜上限程度でも否定できない(悪性リンパ腫ほどは上昇しない)。
トロポニンI/Tの上昇は特異性が低く診断の根拠とはならないが、プレドニンなどによる治療反応性の指標にはなる。
心臓MRI : 遅延造影が全くなければ可能性は低い。遅延造影の陽性所見とT2での限局性浮腫があれば疑いが強まる。
ガリウムシンチ/PET :原因に関わらず不全心筋ではPETの糖代謝が亢進しmaxSUV 2〜3程度を取るため判定が難しい場合がある。
不全心筋例ではガリウムが推奨される。ガリウムかPETどちらかでしか陽性とならない場合もあるため、陰性であっても除外とはならない。
心筋生検(5カ所以上) : 2-3か所であれば、サンプリングエラーの可能性があり、できるだけ多く取るほうが診断率はあがる。組織所見としては、非乾酪性肉芽腫およびリンパ球浸潤による。間質の線維化など不全心筋としての所見も伴う。
これらがいずれも認められなければ活動性サルコイドーシスの可能性は低い。

これらの検査は活動性があり、ステロイド適応のサルコイドーシスを除外するものである。
活動性の無くなったサルコイドーシスによる心不全になっているかどうかまでは確定できない点に注意が必要である。

治療

プレドニン30mg/日を4週間投与で開始し、トロポニンが上昇していた場合は治療反応性の指標として頻回に測定する。プレドニンの投与前に、肝炎などの感染症、糖尿病、眼科(ブドウ膜炎・白内障・緑内障)、骨粗鬆症、歯科のスクリーニングを行う。
4週後に20mgへ減量し、以後2週ごとに15mg、10mgと減量、その後2〜4週間隔で7.5mg、5mgへ減量する。5mg以降の減量はより慎重に行い、2〜2.5mg程度まで1年程度かけて目指す。

20mgへの減量前後で、治療前にガリウムまたはPETが陽性であった患者には同検査を再施行し、活動性のコントロールを確認する。30mgでの活動性消失が確認できない場合は免疫抑制薬の併用を検討する。
減量ごとに血液検査など簡便な指標による再燃がないかどうかをみる必要がある。
ACE・sIL2受容体は活動性の指標にはならないが再発の指標として定期的に確認する。


第39回 : 心アミロイドーシス:両室肥厚と急速な低灌流化、そして激変する治療戦略

ポイント

  • アミロイドは、特定のたんぱくを指すわけではなく3次元的にβシート構造を持つ異常な立体構造をもつタンパクの集まりのことである。前駆体によって、呼ばれ方が異なり、心アミロイドーシスの場合には、トランスサイレチン(TTR)に由来するATTRアミロイド、免疫グロブリン軽鎖に由来するALアミロイドが問題となる。
  • アミロイドーシスはアミロイド蛋白が心筋間質に沈着する疾患で、両室肥厚による弛緩・拡張機能低下から、進行とともに収縮機能低下をきたす。また、心房自体への弛緩・収縮障害、および心房細動が特徴的所見である。
  • 初期はうっ血症状中心だが拡張障害が強いため、わずかな収縮性低下でも急速に低灌流状態に至りやすい。自律神経障害を合併するため起立性低血圧と低灌流が重なると致命的になりうる。血液系悪性腫瘍に伴う免疫性(AL)アミロイドーシスは進行が特に速い。
  • 2019年のタファミジス登場以降、2025年にはアコラミジス・ブトリシランが相次いで承認され、「治らない希少疾患」から「うまく付き合いながら通院を続けられる疾患」へと予後が大きく変わりつつある。

アミロイドーシスとは

アミロイドは、特定の一種類のタンパク質を指す言葉ではない。さまざまな前駆体タンパク質が何らかの契機で立体構造の異常(ミスフォールディング)を起こし、βシートに富む不溶性の線維として凝集・沈着したものの総称である。

アミロイドを構成する前駆体タンパク質は疾患ごとに異なる。そのため、由来する前駆体に応じて、アミロイドβ前駆体タンパク質に由来するAβアミロイド、トランスサイレチン(TTR)に由来するATTRアミロイド、免疫グロブリン軽鎖に由来するALアミロイドなどと区別して呼ばれる。
(ATTRの「A」はアミロイド、TTRはトランスサイレチン。ALの「A」はアミロイド、「L」はlight chain(軽鎖)。TTRを前駆体とするものがATTRアミロイド、免疫グロブリン軽鎖を前駆体とするものがALアミロイド)

アミロイドーシスは、本来心臓に存在しないアミロイドという線維性蛋白(31種類が知られる)が心筋間質に沈着することで発症する。サルコイドーシスと異なり、疾患の本態は心臓以外にあり、心臓は付随して障害を受ける位置づけである。原因によって心アミロイドーシスの進行速度は大きく異なる。

以前は血液透析・関節リウマチに伴うアミロイドーシスが多くみられたが、透析技術の進歩や関節リウマチの早期診断・治療法の発展により減少している。現在主に見られるのは、老人性全身性アミロイドーシス(トランスサイレチン野生型、ATTRwt、緩徐進行)と、見逃してはならない血液系悪性腫瘍に伴う免疫性(AL)アミロイドーシス(進行が速い)である。家族性アミロイドーシス(トランスサイレチン変異型、ATTRv)は、後述する治療薬の進歩により今後さらに予後が改善していくと見込まれる。

心アミロイドーシスの特徴的所見

アミロイド沈着により心筋(両室とも)が肥厚し、拡張障害を来す。心房にも沈着し拡張性が著しく障害され心房への負荷が増加するため、心房細動が高頻度にみられる。拡張障害が主体のため、初期の心不全は心房圧上昇によるうっ血症状が中心であり、老人性の場合はうっ血主体の急性増悪を繰り返すことが多い。

収縮性自体は当初保たれているが、拡張できないため、わずかな収縮性低下でも容易に低灌流状態に陥りうる。さらにアミロイドーシスは末梢神経・自律神経(交感神経・副交感神経)にも障害を及ぼし、動静脈の適切な調節ができなくなることで起立性低血圧を来しやすい。収縮機能低下による低灌流とこの自律神経障害が重なると、トイレ後に立ち上がっただけで心肺停止に至ることもある。免疫性(AL)アミロイドーシスでは、心不全症状出現から1〜2ヶ月でこのような状態に至ることもある(自験例)。

診断と臨床対応

心筋肥厚を伴う心不全をみたら、必ずアミロイドーシスを鑑別に入れる必要がある。診断には心筋生検が比較的安全に施行可能で原因診断も同時に行えるが、近年はMRIのmapping撮影や、腎機能が保たれていれば遅延造影での特徴的な内膜造影所見でも診断可能とされる。心エコーでは肥大以外の特徴に乏しいことが多い。

低灌流状態に至る前に、原因(ATTRかALか)の鑑別と原疾患の治療開始を急ぐことが重要であり、心筋生検と原疾患の除外・診断を優先すべきである。特にALアミロイドーシスが疑われる場合は、血液内科への早期紹介が予後を左右する。

最近の治療法:ATTR-CMは「治らない疾患」から「付き合っていく疾患」へ

これまでATTR-CM(トランスサイレチン型心アミロイドーシス)は予後不良の疾患とされ、野生型の診断後生存期間は中央値で約3.5年とされていた。しかし2019年のタファミジス登場を皮切りに、治療の選択肢は大きく広がっている。

TTR四量体安定化薬

TTR産生自体を抑える核酸医薬(RNAi)

  • パチシランブトリシラン(商品名:アムヴトラ):肝臓で作られるTTRのmRNAを標的として分解し、変異型・野生型を問わずTTR蛋白そのものの産生を抑制するsiRNA製剤。ブトリシランは3か月に1回の皮下注射で治療可能で、2025年6月にATTR-CMへの適応が国内で追加された。第III相HELIOS-B試験では、プラセボ群と比較して全死因死亡と心血管イベントの複合リスクを低下させ、機能的能力とQOLの維持が示されている。

遺伝性ATTR(ATTRv)における位置づけの変化

ATTRvアミロイドーシスでは従来、肝移植が治療の中心であった時期もあるが、現在はタファミジスや核酸医薬(パチシラン、ブトリシラン)の有効性が確立し、薬物療法が主体となっている。

ALアミロイドーシスの治療

免疫性(AL)アミロイドーシスは進行が速いため、診断確定後は速やかに血液内科と連携し、ボルテゾミブベースの化学療法(CyBorDレジメンなど)を中心とした治療を開始する。近年は抗CD38モノクローナル抗体であるダラツムマブを導入レジメンに追加することで、より深い血液学的奏効が得られることが報告されており、適格例では自家造血幹細胞移植も治療選択肢となる。心臓への負荷が大きい病型であるため、治療開始までのスピードが予後を大きく左右する。

まとめ

心アミロイドーシスは、両室肥厚・拡張障害・自律神経障害という特徴的な病態により、うっ血症状から急速な低灌流状態へ移行しうる疾患である。診断のハードルは以前より下がり、かつ2025年前後に登場したアコラミジス・ブトリシランをはじめとする新規治療薬により、特にATTR-CMは長期の外来管理が可能な疾患へと変わりつつある。一方でALアミロイドーシスは今なお進行が速く、疑った時点で血液内科への早期紹介と治療開始のスピードが予後を左右することに変わりはない。


第40回 : 心ファブリー病:酵素補充療法が存在するX連鎖性疾患

本稿のポイント

  • ファブリー病はX染色体上のαガラクトシダーゼ欠損により糖脂質が組織に蓄積する疾患で、肥大心の1%程度に潜在することが報告されている。
  • 男性では白血球の酵素活性測定で容易に診断できるが、女性ではX染色体の発現の偏りにより酵素活性が中間的な値を取り、診断には心筋生検が必要となることが多い。
  • 酵素補充療法という治療法が存在するため、肥大心をみたら必ず鑑別に入れる必要がある。

ファブリー病の病態

ファブリー病は、X染色体上の遺伝子にコードされるαガラクトシダーゼという酵素が欠損することで発症する疾患である。この酵素の基質であるグロボトリアオシルセラミドをはじめとする糖脂質が全身の組織に蓄積し、さまざまな臓器障害を引き起こす。一般的には神経系・皮膚・腎臓・心臓に蓄積し、四肢痛、低汗症、皮膚の被角血管腫、腎不全、心肥大などの症状を来し、腎不全の進行を契機に診断されることが多い。

心臓にのみ糖脂質が蓄積する「心ファブリー病」という病型もあり、これは循環器医にしか診断する機会がない。以前は非常に稀と考えられていたが、現在は肥大心の一定割合に見られることが分かっており、酵素補充療法という治療法が存在するため、鑑別に入れる必要がある。

原因不明の左室肥大あるいは肥大型心筋症の患者では、ファブリー病はおおむね0.5–2%前後に認められると報告されている。
(参考:Monserrat L, JACC 2007Chimenti C, Circulation 2004; Elliott P, Heart 2011Petrášek J, Orphanet J Rare Dis 2022.)

私個人は、ファブリー病の患者を診療した経験はない。

X連鎖性遺伝の特徴

ファブリー病はX連鎖性疾患である。病的バリアントを有する女性からは、各妊娠ごとに男児・女児それぞれ50%の確率で変異X染色体が伝達される。男性は変異X染色体を受け継ぐと通常は発症する。女性もヘテロ接合体であっても、X染色体不活化の偏りなどにより心臓・腎臓・神経系の臓器障害を呈しうる。

男性では血中白血球などのαガラクトシダーゼ活性を測定すれば10%以下と著明な低値を示すことが多く、診断の手がかりとなる。一方女性では酵素活性が中間値あるいは正常域をとることがあり、酵素活性のみでは確定・除外が難しい。女性例を含め確定にはGLA遺伝子検査が重要であり、心筋生検は遺伝学的検査でなお診断が確定しない場合、あるいは他の肥大型心筋症・蓄積性疾患との鑑別が必要な場合に検討する。

治療

ファブリー病では、組換えα-ガラクトシダーゼA製剤による酵素補充療法(enzyme replacement therapy: ERT)が疾患特異的治療として行われている。とくに心筋線維化などの不可逆的臓器障害が進行する前の段階で開始した場合、数年単位の観察において左室心筋量、心機能、運動耐容能の改善または安定化が報告されている。一方、患者数が少ない希少疾患であり、長期の臨床イベント抑制や進行例における効果にはなお不確実性が残るため、さらなるエビデンスの蓄積が必要である。
(参考:Weidemann F, Circulation 2009Germain DP, J Med Genet 2015Lidove O, J Am Heart Assoc 2019Wortmann SB, J Inherit Metab Dis 2015.)


第41回 : ミトコンドリア病による心不全:若年者の難聴・糖尿病合併に注意

本稿のポイント

  • ミトコンドリア病はエネルギー産生障害を主病態とし、心不全の形態(拡張型・肥大型など)は一定しない。
  • 母系遺伝だが発現の不安定性があり、無症候性の母親から発症児が生まれることや孤発性変異もある。
  • 若年者で中枢神経症状(難聴・知的障害)・糖尿病を伴う心不全をみたらミトコンドリア病(MELASなど)を疑う。

ミトコンドリア病の病態

ミトコンドリア病は稀な疾患だが、心不全を契機に診断されることがある。現時点で根本的治療法は確立していないが、補酵素ビタミンやコエンザイムQ10の投与が行われることがある。ミトコンドリアの異常によりエネルギー産生が低下し臓器障害を起こす。ミトコンドリアは活性酸素の除去やカルシウム貯蔵も担うが、エネルギー消費の多い臓器に症状が出やすいことから、主病態はエネルギー産生障害と考えられている(活性酸素やカルシウム代謝異常の関与は不明である)。

遺伝形式の特殊性

ミトコンドリアDNA異常による病型では母系遺伝を示し、すべての人のミトコンドリアDNAは母親由来である。一方、核遺伝子異常によるミトコンドリア病では常染色体劣性・優性など多様な遺伝形式をとる。ミトコンドリアDNAは変異を起こしやすく、heteroplasmy、組織ごとの変異負荷、閾値効果により発現は不安定であるため、母親が無症候性でも子が発症することがある。また孤発性に変異が生じ、その子供のみが発症することもある。

心不全の形態と臨床的な疑うべきサイン

ミトコンドリア病による心不全は拡張型心筋症様、肥大型心筋症様など決まった形態を取らない。これがもともとの心筋の脆弱性、エネルギー不足の程度、その他の要因のいずれによるかは不明である。

ミトコンドリア病はいくつかの症候群に分類され、その一部に心不全がみられる。臨床的には、何らかの中枢神経症状(難聴・知的障害)と糖尿病を伴う心不全患者では本疾患を疑うべきである。特に若年者の難聴と心不全の組み合わせは鑑別に上げる価値がある。

筆者の経験では、肥大心の症例と拡張型心筋症型の新規診断例があった。新規診断例は若年で難聴・糖尿病を有し、冠動脈に異常がなかったことからミトコンドリア病(MELAS)を疑い、神経内科医との連携により確定診断に至った。血液中の乳酸上昇はみられなかったが、髄液での乳酸上昇が確認された。心筋生検は、全身疾患が心臓に必ず影響するとは限らず、心筋炎や治療可能なサルコイドーシスなどの偶発的合併の可能性を除外する目的でも有用であり、本症例でもガリウムシンチを併施し、ミトコンドリア病に典型的な組織所見を確認することで診断を確定した。
治療として、コエンザイムQ10であるユビキノンを投与しましたが、有効性を実感するような変化はありませんでした。


第42回 : 自己免疫性疾患・内分泌異常による心不全:甲状腺クリーゼと成長ホルモン亢進に注意

本稿のポイント

  • 自己免疫性疾患・内分泌異常による心不全は心臓単独で発症することは少なく、全身症状の評価が診断の基本となる。
  • 甲状腺クリーゼによる急性心不全は通常の心不全治療に反応せず、甲状腺専門医との連携によるホルモン制御が必須である。
  • 成長ホルモン亢進による心不全は四腔バランス良く拡大するという特徴があり、早期に診断できればホルモン治療で根治の可能性がある。

参照:循環器疾患と甲状腺機能の関係;甲状腺ホルモンは心筋細胞レベルでどのように作用するのか

自己免疫性疾患による心不全

自己免疫性疾患に伴う心不全は、ファブリー病やサルコイドーシスのように心臓単独で発症することはあまりなく、全身の自己抗体検査を含めた評価で疾患の有無を判断できると考えられる。自己免疫性疾患による漿膜炎の一環としての心膜炎・心嚢液貯留や、比較的頻度の高い自己免疫性疾患関連肺高血圧に伴う心不全がみられる。

内分泌異常による心不全

内分泌異常による心不全も、心臓だけに作用するホルモン異常は考えにくく、全身的なホルモン異常症状を伴うことが前提となる。初回の心不全診断時には、甲状腺ホルモンに加えて成長ホルモン・副腎系ホルモンの測定が重要である。

心不全自体だけでもTSHは5〜8程度の軽度高値、アドレナリン・ノルアドレナリンも軽度上昇することがあるため、軽度の異常値のみで診断するのではなく、各疾患のガイドラインに従った評価が重要である。

甲状腺クリーゼによる急性心不全

甲状腺ホルモンが急激に上昇する甲状腺クリーゼでは急性心不全を来すが、通常の急性心不全治療では改善しない。甲状腺専門医と共同で抗甲状腺薬、無機ヨウ素薬、副腎皮質ステロイドなどを投与しながら、ホルモンを制御しつつ全身状態を安定させる必要がある。β遮断薬も心エコー・心臓カテーテルの圧データと全身状態を確認しながら慎重に少量から使用する。
クリーゼ以外の場合でも、甲状腺機能低下・亢進の全身所見の有無、心房細動例を含めた甲状腺ホルモンの評価は全例で行う価値がある。

成長ホルモン亢進による心不全

体格の大きい患者の心不全をみた際には成長ホルモン亢進を疑う必要がある。早期に診断できればホルモンに対する治療により心不全の予防、あるいは初期であれば根治が可能である。
診断は循環器医単独では困難であり、成長ホルモンに加え成長ホルモン刺激因子、IGF-1(成長ホルモンの肝臓における効果を反映するホルモン)を総合的に判断する必要があるため、疑った時点で専門医への相談が重要である。

成長ホルモン亢進による心不全の特徴は、四腔(両心房・両心室)がバランスよく拡大することである。心不全自体で成長因子の軽度低下がみられることもあり、こうした患者に成長ホルモンを投与する治療効果については検討が進められている段階である。

最も重要なこと

最も重要なことは、疑った段階で専門診療科とともに診断にあたることである。循環器内科医が、これら疾患の診断や除外をすることはあまりない。そのため、診断に必要な検査が不十分になることもあり、本を見ながら検査を出すのではなく、専門診療科とともに診療するのが最善である。


第43回 : HIV感染による心不全:複数の機序が複合する病態

  • 抗ウイルス治療の進歩によりHIV感染者の長期生存が可能になり、慢性併存症としての心不全が重要な臨床課題となっている。
  • HIVによる心筋障害には直接的なウイルス侵入、ミトコンドリア障害、混合感染、セレン欠乏、薬剤性障害、自己抗体など複数の機序が想定され、個々の患者で複合的に関与しうる。
  • 抗ウイルス薬によるウイルス量の適切な制御が、心不全への移行リスクを下げる基本方針である。

本稿のポイント

HIV感染と心不全の臨床的背景

世界的にはアルコール・非合法薬物による心筋症、中南米ではシャーガス病(トリパノソーマ・クルージ感染)による心不全が問題となっているが、日本ではこれらは比較的少数である。一方、HIV感染者数は日本で高止まりしており、抗ウイルス治療の進歩によりAIDSに至らず長期生存可能となったことで、慢性併存症としてのHIV関連心不全が重要視されるようになっている。

想定される複数の機序

直接的ウイルス障害:HIVウイルス量増加と心不全発症の関連が報告されており、動物実験・ヒト心筋細胞実験でHIVの心筋細胞への直接侵入が確認されている。血管内皮細胞の機能障害による血管不全様病態も指摘される。
ミトコンドリア障害:HIV感染が心筋障害性蛋白分解酵素の分泌やミトコンドリア膜透過性亢進を介してミトコンドリア機能を障害する可能性が示唆されるが、心不全自体に共通するミトコンドリア品質管理異常との切り分けが課題である。
混合感染(日和見感染):免疫不全状態でトキソプラズマ、クリプトコッカス、マイコバクテリウムなどの心筋への混合感染が報告されている。
セレン欠乏:HIV感染者に共通してみられ、セレン欠乏に伴う心機能低下例ではセレン補充により心機能が改善した報告がある。
薬剤性障害:抗ウイルス薬Zidovudine(AZT)はミトコンドリア機能不全を介して心筋障害・拡張機能障害を起こすことが報告されている。
自己抗体:HIV患者には心筋に対する自己抗体が多くみられ、自己抗体陽性例ではステロイド治療への反応性が良いとされる。

これらの機序はいずれか単独ではなく、個々の患者において複合的に関与している可能性が高い。基本方針としては、抗ウイルス薬を適切に使用しウイルス量を低くコントロールすることで、心不全への移行リスクを抑制できると考えられている。


第44回 : ウイルス性慢性心筋炎という疾患概念の難しさ

本稿のポイント

  • ウイルス性慢性心筋炎は疾患概念として確立しておらず、診断にはウイルス感染・持続性炎症・両者の因果関係の3点を証明する必要がある。
  • 証明には心筋生検によるウイルス核酸/抗原検出とリンパ球浸潤の確認が必須であり、慢性経過ではMRIのT2所見が出ないことが多い。
  • 日本でみられる慢性心筋炎は多くが急性心筋炎後の抗体関連炎症の持続、または心機能障害自体の進行による病態と考えられる。

ウイルス性慢性心筋炎の定義の難しさ

ウイルス感染による慢性心筋炎は、疾患概念として存在するかどうか自体が確定していない。正確には、ウイルスが心筋組織に持続感染し、それにより心筋障害が継続し慢性的な心機能障害が生じて心不全となっている病態と考えられる。これを証明するには、ウイルスが心筋に感染していること、心筋に持続的な炎症が起きていること、その炎症がウイルスによるものであることの3点を示す必要がある。

証明に必要な検査

心筋生検や心嚢液など心臓由来の組織からウイルスのDNA/RNA、抗原・抗体を検出する必要がある。炎症の有無は心筋生検でのリンパ球浸潤、あるいは心臓MRIのT2による浮腫所見で評価するが、慢性経過ではMRIのT2で検出できる程の炎症はないと考えられるため、心筋生検が必須となる。血液検査のトロポニンI/T上昇は心筋障害の間接的証拠となり、動脈・冠静脈間のサイトカイン濃度差があれば心臓における炎症の存在を支持する。他の炎症原因を除外できれば、ウイルスによる炎症と判断できる可能性がある。

これらの厳密な条件を満たすウイルス性慢性心筋炎はかなり稀と考えられるが、HIV感染のように排除はできないが低ウイルス量を維持できる感染では、慢性心筋炎が起こりうると考えられる。

日本における「慢性心筋炎」の実態

日本で一般的に慢性心筋炎と呼ばれる病態は、急性心筋炎が無症状またはごく軽症で一旦自然治癒し、ウイルス自体は消失したものの、その後何らかの免疫機序により慢性的な炎症が持続している病態、あるいは炎症そのものではなく心機能障害自体が徐々に進行し収縮機能低下に至っている病態であると考えられる。

HCVによる慢性心筋炎が存在するとすれば、現在HCV感染症は完治可能な疾患となったため、根治を目指せる可能性はある。


第45回 : 薬剤と心不全の関係:心筋障害型と症状増悪型の区別

本稿のポイント

  • 心機能そのものを直接悪化させる薬剤(アドリアマイシン系、ハーセプチンなど)は比較的限られている。
  • アドリアマイシン系では非可逆的な心筋障害を呈し、ハーセプチンでは比較的可逆的な障害を呈する。
  • 薬剤性心筋障害を予防ないし治療に関して、十分なレベルのエビデンスはない。
  • 多くの薬剤は心機能自体ではなく、腎臓(ピオグリタゾン)や脈拍(ドネペジル)に作用して心不全症状を悪化させる。

心不全と癌の関連、そして抗癌剤による心筋障害

心筋障害型と症状増悪型を区別する

薬剤による心不全悪化を理解する際には、薬剤が心筋細胞そのものを傷害して収縮能を低下させる場合と、心筋の構造的障害を主病態とせず、体液貯留、腎機能低下、徐脈、不整脈、血圧変動などを通じて既存の心不全を悪化させる場合を区別することが重要である。

前者は「心筋障害型」、後者は「症状増悪型」と整理できる。実際には両者が重なり合うこともあるが、この区別をしておくと、薬剤中止の緊急性、必要なモニタリング、再投与の可否、心不全治療の位置づけを考えやすい。

心筋障害型

心筋障害型では、薬剤が心筋細胞のDNA、ミトコンドリア、細胞内シグナル、代謝、収縮装置などに作用し、左室収縮能低下や心室リモデリングを引き起こす。代表的な薬剤はアントラサイクリン系抗がん薬と抗HER2療法であるが、両者の心毒性の性質は同一ではない。

症状増悪型

一方、多くの薬剤は心筋細胞を直接傷害するわけではない。それでも、腎臓でのナトリウム・水貯留、心拍数低下、血圧上昇、頻脈性不整脈、陰性変力作用などを通じて、心不全のうっ血や低心拍出症状を増悪させうる。

たとえばピオグリタゾンなどのチアゾリジン系薬は、体液貯留を介して心不全を悪化させることがある。心筋収縮能を直接低下させる薬剤というより、体液量増加により、心不全患者の限られた循環予備能を超えさせる薬剤として理解するほうがよい。

また、ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬は迷走神経作用を通じて徐脈や房室伝導障害を来しうる。徐脈そのものが心不全の原因となる場合に加え、心拍出量を心拍数に依存している患者では、心拍数低下が倦怠感、息切れ、浮腫、腎機能低下の契機となることがある。こうした薬剤による悪化では、LVEF低下だけを見ていては不十分であり、体重、血圧、脈拍、心電図、腎機能、電解質、利尿薬への反応を含めた評価が重要となる。

心不全とがんの接点

心不全患者でがんの発症率上昇を示唆する報告があり、心不全とがんは高齢、喫煙、肥満、糖尿病、慢性炎症、酸化ストレスなどの共通基盤を持つ可能性がある。ただし、循環器診療で古くから重要視されてきた「心不全とがん治療の関係」は、主として抗がん薬や放射線治療に伴う心血管毒性、すなわちcancer therapy-related cardiovascular toxicity(CTR-CVT)を指す。

その中でも、左室収縮能低下や心不全として現れる病態は、cancer therapy-related cardiac dysfunction(CTRCD)と呼ばれる。CTRCDは症候性心不全として発症するだけではなく、無症候性のLVEF低下、GLS低下、トロポニン上昇などとして早期に検出されることがある。2022年ESC心腫瘍学ガイドラインでは、治療前の心血管リスク層別化、治療中の画像・バイオマーカー監視、腫瘍内科と循環器内科の共同判断を重視している。

アントラサイクリン系薬

心筋細胞を傷害しうる薬剤

ドキソルビシン(アドリアマイシン)、エピルビシン、ダウノルビシンなどのアントラサイクリン系薬は、抗がん薬関連心機能障害の代表的原因である。急性、早期、遅発性のいずれの時期にも心毒性が問題となり、治療終了後に数年から十数年を経て左室機能低下や心不全として顕在化することもある。リスクは累積投与量と関連し、高齢、既存の心血管疾患、高血圧、糖尿病、腎機能障害、胸部放射線治療、抗HER2療法の併用などにより上昇する。

アントラサイクリンの心毒性は、単一の機序で説明できるものではない。現在もっとも重要と考えられている機序の一つは、心筋細胞に多く発現するtopoisomerase IIβへの作用である。アントラサイクリンはtopoisomerase IIβを介してDNA損傷応答を起こし、細胞内の転写調節異常、ミトコンドリア機能障害、アポトーシスや細胞死につながる。

さらに、アントラサイクリンはミトコンドリアに蓄積しやすく、鉄との相互作用、電子伝達系の障害、活性酸素種(ROS)増加を通じて酸化ストレスを増大させる。結果として、ATP産生低下、細胞内カルシウム恒常性の破綻、脂質・蛋白・DNAの酸化障害、収縮能低下が起こる。mTORシグナルやオートファジーの異常も、細胞生存と損傷修復のバランスを崩し、心筋障害に関与する経路として研究されている。

重要なのは、アントラサイクリン心毒性が単なる一過性の収縮力低下ではなく、心筋細胞の持続的障害、細胞減少、線維化、心室リモデリングにつながりうる病態である点である。したがって、「薬剤を中止すれば必ず元に戻る」とは考えにくく、治療前からのリスク評価と早期検出が重要となる。

臨床的な見方

アントラサイクリン投与前には、既存の心不全、冠動脈疾患、弁膜症、心筋症、不整脈、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、年齢、過去の胸部放射線治療、予定累積投与量を確認する。ベースラインの心エコーでLVEFだけでなく、可能ならGLSも評価する。高リスク患者ではトロポニンやナトリウム利尿ペプチドを併用した監視も検討される。

治療中に心不全症状が出現した場合、あるいは中等度以上の無症候性CTRCDが認められた場合には、アントラサイクリンの中断または治療計画の再検討と、ガイドラインに沿った心不全治療の開始・強化を要する。がん治療を継続する利益と、将来的な重症心不全を回避する利益を、腫瘍内科・循環器内科・患者本人で共有して判断することが重要である。

トラスツズマブ

HER2保護シグナルの抑制による機能障害

トラスツズマブ(ハーセプチン)はHER2陽性乳癌などの治療に不可欠な抗HER2抗体である。一方で、左室収縮能低下や心不全を来しうる。アントラサイクリンと比較すると、トラスツズマブ関連心機能障害は、典型的には心筋細胞壊死や線維化を主病態とするのではなく、心筋の保護シグナルを妨げることで生じる機能的な心筋障害として理解されてきた。

心筋におけるHER2は、ニューレグリン1(neuregulin-1)とErbB受容体を介する細胞内シグナルに関与している。このシグナルは、成人心筋においても、ミトコンドリア機能、エネルギー代謝、酸化ストレス耐性、細胞生存、細胞骨格・収縮装置の維持に寄与する。心筋が虚血、圧負荷、炎症、アントラサイクリン曝露などのストレスに晒された際に、HER2関連シグナルは心筋を保護する方向に働く。

トラスツズマブはHER2を阻害するため、PI3K/Akt、MAPK/ERKなどの細胞保護シグナルが低下し、ミトコンドリア障害、ROS増加、エネルギー代謝異常、収縮能低下が起こりうる。すなわち、トラスツズマブは心筋を直接「壊す」というより、心筋がストレスに耐えるための安全装置を外す薬剤と捉えると理解しやすい。

このため、トラスツズマブ関連心機能障害は、薬剤の一時休止と心不全治療により改善する例が比較的多い。かつては「type II cardiotoxicity」「可逆的心毒性」と区別されることもあった。しかし、この二分法を絶対視してはならない。トラスツズマブ関連障害にも回復不十分例があり、アントラサイクリン関連障害でも早期介入により改善する例がある。特にアントラサイクリン既治療例、既存の左室機能低下、心不全、高血圧、糖尿病、高齢などでは、トラスツズマブにより潜在的な心筋予備能低下が顕在化する可能性が高い。

アントラサイクリンとの関係

アントラサイクリンとトラスツズマブの組み合わせでは、心毒性リスクが増加する。アントラサイクリンが心筋細胞に構造的障害を残した状態で、トラスツズマブがHER2を介する細胞保護シグナルを抑制すると、心筋は追加のストレスに耐えにくくなる。このため両薬剤は、別々の作用機序を持ちながらも、臨床的には相加的、あるいは相乗的に心機能低下を引き起こしうる。

抗HER2療法中にLVEF低下が生じた場合でも、無症候性で軽度から中等度の障害であれば、心不全治療を導入・調整しながら抗HER2療法の継続を検討できる場合がある。2022年ESCガイドラインは、無症候性でLVEF 40〜49%の中等度CTRCDでは、専門チームの管理下で抗HER2療法継続を考慮する方針を提示している。ただし、症候性心不全や重度の左室機能低下では、原則として治療中断と心不全治療が必要になる。

アントラサイクリン心毒性の予防

ARB・カルベジロールの位置づけ

アントラサイクリン心毒性の予防として、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、特にカルベジロールの投与が研究されてきた。RAAS阻害薬には、血行動態の改善だけでなく、心室リモデリング、線維化、神経体液性活性化を抑える効果が期待される。カルベジロールにはβ遮断作用に加えて、抗酸化作用、ミトコンドリア保護、交感神経活性化抑制を通じた心保護作用が期待されている。

ただし、これらをアントラサイクリン投与患者全員に一律で予防投与することを支持する根拠は、現時点では十分に確立していない。既存研究には有望な結果もある一方、試験規模が比較的小さいこと、対象集団・抗がん薬レジメン・累積アントラサイクリン量・併用抗HER2療法・評価時期が不均一であること、臨床的心不全や長期予後ではなくLVEF、GLS、トロポニンなどの代替評価項目を主に用いていることが限界である。

PRADA試験:カンデサルタンの早期効果

PRADA試験は、早期乳癌患者130例を対象として、アントラサイクリン含有補助療法中のカンデサルタンとメトプロロールの心保護効果を検討した、2×2要因デザインの無作為化・二重盲検・プラセボ対照試験である。抗HER2療法や放射線治療を併用する患者も含まれた。

心臓MRIで評価した治療期間中のLVEF低下は、プラセボ群で2.6ポイント、カンデサルタン群で0.8ポイントであり、カンデサルタン群でLVEF低下が小さかった。一方、メトプロロールについてはLVEF低下抑制効果は示されなかった。

しかし、PRADA試験の約23か月の追跡では、カンデサルタン群と非投与群のLVEF低下に有意差は認められなかった。カンデサルタンは左室拡張末期容積の増大をわずかに抑え、GLS維持と関連したが、早期に見られたLVEF保護効果が長期に持続することは明確には示されなかった。

したがってPRADA試験は、「カンデサルタンは治療中の小さなLVEF低下を緩和する可能性がある」ことを示した重要な試験である一方、「すべての患者で長期的な臨床心不全を予防すること」を証明した試験ではない。

CECCY試験:カルベジロールの結果

CECCY試験は、アントラサイクリン治療を受ける乳癌患者200例を対象に、カルベジロールとプラセボを比較した前向き・無作為化・二重盲検試験である。主要評価項目は、6か月後のLVEFがベースラインから10ポイント以上低下することと定義された。

結果として、主要評価項目である有意なLVEF低下の発生率は、カルベジロール群14.5%、プラセボ群13.5%であり、両群に差を認めなかった。LVEFおよびBNPの変化にも群間差は示されなかった。一方、カルベジロール群ではトロポニン上昇が小さく、拡張機能障害の頻度も低かったと報告されている。

この結果は、カルベジロールが心筋障害の一部の指標を改善する可能性を否定するものではない。しかし、少なくとも標準リスクに近い乳癌患者集団において、臨床的に意味のある早期LVEF低下を確実に予防する効果は示されなかったことを意味する。

Cardiac CARE試験:高トロポニン群への介入

Cardiac CARE試験は、アントラサイクリン治療中の高感度トロポニンIを用いてリスク層別化し、高トロポニン群をカンデサルタン+カルベジロール投与群または標準治療群に無作為化した試験である。心筋トロポニン上昇を示した患者なら心保護薬の効果が明瞭になるのではないか、という仮説を検証した点に意義がある。

しかし、無作為化された高リスク群では、化学療法終了6か月後のLVEF低下に対するカンデサルタン+カルベジロールの明確な保護効果は示されなかった。調整後の群間LVEF差は−0.37ポイントで、有意差はなかった。すなわち、トロポニン上昇を指標に選んだ高リスク患者であっても、ARBとカルベジロールの併用が短期LVEF低下を予防することは証明されなかった。

この結果は、心保護薬が不要であることを意味するのではない。むしろ、心筋障害の機序が多様であること、LVEF低下が比較的小さい集団では薬剤効果の検出が難しいこと、トロポニン単独で「予防薬が効く患者」を選別することの限界を示している。

実臨床での結論

アントラサイクリン心毒性に対するARB、ACE阻害薬、カルベジロールなどの予防投与は、理論的にも臨床研究の一部でも有望である。しかし、心不全入院、心血管死亡、長期の左室機能維持、がん治療の完遂率といった患者にとって重要なアウトカムを、十分な規模で一貫して改善することを示したエビデンスは限られる

したがって、「アントラサイクリンを投与するなら全例にARBまたはカルベジロールを投与すべき」とは現時点では言えない。一方で、既存の心不全、LVEF低下、冠動脈疾患、心筋症、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、高齢、過去の胸部放射線治療、高い予定累積アントラサイクリン量、抗HER2療法の併用といった因子を持つ患者では、予防的なRAAS阻害薬やβ遮断薬を個別に検討する意義がある。

また、心保護の中心は薬剤の追加だけではない。アントラサイクリンの累積投与量を適正化すること、可能な場合にリポソーム化アントラサイクリンやデクスラゾキサンを検討すること、治療前から血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などのリスクを是正すること、LVEF・GLS・トロポニン・BNPを組み合わせて早期変化を把握することが重要である。

項目アントラサイクリン系トラスツズマブ(抗HER2療法)
主な病態心筋細胞への構造的・持続的障害心筋細胞のHER2保護シグナル抑制による機能障害
中心的機序Topoisomerase IIβ、DNA損傷、ROS増加、ミトコンドリア障害、細胞死HER2/ErbB抑制、PI3K/Akt・MAPK/ERK低下、ミトコンドリア障害、酸化ストレス
累積投与量との関係強い明確ではないことが多い
発症時期治療中から治療後の遅発性まで治療中の検出が多い
改善可能性早期介入により改善する例もあるが、持続的障害に注意改善しやすい傾向はあるが、必ずしも完全には回復しない
臨床上の重点将来の心筋障害を防ぐ、早期に検出する心不全治療と監視を行いながら、可能ならがん治療を継続する
併用時後続する抗HER2療法のリスク基盤となるアントラサイクリンによる潜在的心筋障害を顕在化させうる

参考文献

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    CTRCDの定義、治療前リスク評価、アントラサイクリン・抗HER2療法中の監視と対応を包括的に扱う基本ガイドライン。
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    ESCガイドラインの実臨床向け要約。治療中のCTRCDへの対応、腫瘍循環器連携の考え方を整理している。
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    早期乳癌患者130例。カンデサルタンは治療期間中のLVEF低下を緩和したが、メトプロロールの明確なLVEF保護効果は示されなかった。
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    約23か月の追跡では、カンデサルタン・メトプロロールともにLVEF低下の長期抑制効果は明確ではなかった。カンデサルタンは左室拡張末期容積とGLSに対する一定の好影響を示した。
  5. Avila MS, Ayub-Ferreira SM, de Barros Wanderley MR Jr, et al. Carvedilol for prevention of chemotherapy-related cardiotoxicity: the CECCY trial. Journal of the American College of Cardiology. 2018;71:2281-2290.
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    高トロポニン群におけるカンデサルタン+カルベジロール併用は、6か月後LVEF低下を明確には抑制しなかった。
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    トラスツズマブ関連心機能障害、特にアントラサイクリンとの組み合わせにおけるリスクを示した古典的報告。
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    トラスツズマブ関連心機能障害の回復可能性を示した代表的報告。ただし「完全な可逆性」を保証するものではない。

私個人が、人生で初めて後ろ向きにデータを集めたのが、乳がんや血液系の腫瘍でアドリアマイシンを使った人の心機能の経過や併存内服による影響というもので、少し思い入れがあるので詳しく記しました。


第46回 : 収縮性心外膜炎:見逃すと致命的な「疑うことが重要」な疾患

本稿のポイント

  • 収縮性心外膜炎は心膜が硬くなり心臓の拡張余地が制限される疾患で、右室拡張末期圧が左室拡張末期圧に近づくのが特徴的所見である。
  • 心エコー上の動きの良さに騙されず、低灌流や難治性心不全の根底に潜在的な収縮性低下があることを念頭に置く必要がある。
  • 心タンポナーデと血行動態は類似するが、呼吸による胸腔内圧変化の影響を受けない点で鑑別できる。

収縮性心外膜炎の病態

心外膜炎はさまざまな原因で発症し、心嚢液貯留を伴う。急性期には心膜の炎症による胸痛や呼吸困難を訴えるが、ウイルスや自己免疫性疾患などにより慢性的に経過すると、心膜が硬くなり心臓の拡張可能な空間が制限される収縮性心外膜炎となる。
この疾患で最も重要なのは「疑うこと」自体である。

収縮性の良い心臓であれば心膜内の空間に収まる範囲で拡張末期容積を抑えられるため症状は出ない。しかし収縮性が低下するか後負荷が増大して収縮末期容積が増加すると、拡張末期容積の上限が心膜によって決まっているため心拍出量が低下する。この際特徴的なのが、本来左室拡張末期圧の半分以下であるはずの右室拡張末期圧が、左室拡張末期圧に近い値まで上昇することである。

血行動態の機序

左室の収縮末期容積が何らかの理由で増大すると、心拍出量維持のため拡張末期容積も増大し拡張末期圧(≒平均左房圧)が上昇する。これが右室にとっての後負荷増大となり、右室も収縮末期容積・拡張末期容積・拡張末期圧が増大する。しかし心膜が硬く両室合計容積の上限が決まっているため、左室は十分に拡張できず、場合によっては右室に圧排されて拡張末期容積が減少する(逆に右室拡張末期容積が先行して増大する経路でも同様の相互圧排が起こる)。

結果として、収縮性心外膜炎の心不全は、右室拡張末期圧の過剰な上昇による右心不全症状を主体とし、左室拡張末期容積が減少する場合には心拍出量低下による低灌流症状も伴う。

心タンポナーデとの鑑別

心タンポナーデは類似の血行動態を示すが、両者は必ずしも心エコーだけで容易に鑑別できるわけではない。収縮性心膜炎では硬化した心膜により胸腔内圧変化が心腔内に十分伝達されず、吸気時の右室充満増加が心室相互依存を介して左室充満を制限する。心タンポナーデでは心嚢内圧上昇による心腔圧迫が主病態となる。effusive-constrictive pericarditisなど両者が混在する病態もあり、呼吸性血流変動、組織ドプラ、CT/MRI、左右心カテーテルによる同時圧測定所見を統合して判断する。

治療の考え方

収縮性心外膜炎の非代償状態の心不全治療では、心エコー上の動きの良さに騙されてはならない。低灌流や難治性の状態は両室拡張末期容積の増大によるものだが、その根底には潜在的な収縮性低下がある。強心薬により収縮末期容積が縮小し、限られた心膜内総容積のなかで拡張期充満に使える容量が増すことで、血行動態が改善する例がある。この段階で利尿薬が効きはじめ、余分な水分(胸水など)が減少する。水分が抜けたら血圧をみながら後負荷を下げる内服薬を調整し、必要に応じて経口強心薬で血行動態を維持する。
どんな手術でも、できる限り心不全を代償状態とし、そのうえで、手術を行うことがリスク低減につながる。


第47回 : 特発性拡張型心筋症の概念:除外診断としての位置づけ

本稿のポイント

  • 拡張型心筋症は心拡大とEF低下を画像上の必須条件とし、冠動脈疾患・サルコイドーシスなど原因の明らかな疾患を除外したうえで診断される「除外診断」である。
  • 原因として遺伝子異常やウイルス・自己抗体を介した収縮・拡張関連蛋白の機能低下が示唆されている。
  • 右室中心の拡張型心筋症という概念も含め、現在は左室・右室いずれか、または両室のびまん性収縮機能低下と心室拡大を認める疾患と考えられている。

拡張型心筋症の定義

拡張型心筋症は、心エコーなどの画像検査で心臓の拡大と左室駆出率(EF)の低下が必須条件となる。このうち特に原因が心筋以外に由来しないものを拡張型心筋症と呼ぶ。例えば冠動脈疾患により心機能が低下し左室が拡張している場合は、画像所見が類似していても虚血性心筋症と呼ばれ区別される。

拡張型心筋症は除外診断によって確定する疾患であり、有意狭窄を伴う冠動脈疾患、収縮障害を起こしうる異常な負荷状態、全身疾患・蓄積性疾患(サルコイドーシス、アミロイドーシスなど)に伴うものは除外される(日本循環器学会 拡張型心筋症ならびに関連する二次性心筋症の診療に関するガイドラインより改変)。そのため、未診断の拡張型心筋症患者が偶然心筋炎やサルコイドーシスを発症した場合、現在の医療水準では除外診断の枠組み上、拡張型心筋症と確定診断することはできない。

原因として示唆されているもの

原因としては遺伝子レベルの異常、ウイルス感染に対する獲得免疫反応、自己抗体による心筋収縮・拡張関連蛋白の機能低下などが示唆されている。左室収縮機能障害の目安としては、心エコーなどでEF 50%未満または40%未満が用いられるが、心拡大や右心機能低下に関する明確な数値基準は定められていない。

特発性・遺伝性DCMの一部では、心筋細胞の収縮・拡張、細胞骨格、核膜、デスモソーム、イオンチャネル、エネルギー代謝などに関わる分子異常が、収縮機能障害と心腔拡大の基盤となる。一方、同様のDCM表現型は炎症、毒性、頻拍・不整脈、妊娠、代謝性疾患など多様な原因でも生じうる。近年では右室中心の拡張型心筋症という概念も含め、左室・右室いずれか、または両室のびまん性収縮機能低下と心室拡大を認める疾患群として理解されている。


48回:特発性拡張型心筋症―実際の診断の流れ

本稿のポイント

  • 拡張型心筋症の臨床的な発見経路は、無症状の偶然発見と、心不全症状を契機とした発見の2つに大別される。
  • 左室拡大と収縮能低下を認めた時点で、安易に「特発性拡張型心筋症」と診断を完結させてはならない。まず虚血性心筋症を評価し、二次性・炎症性・遺伝性を含む原因検索を進める。
  • 冠動脈疾患の評価には冠動脈CTまたは冠動脈造影を用いる。冠動脈病変の有無だけでなく、その病変が左室機能低下を説明できるかを判断する。
  • 心臓MRI(CMR)は、心室形態・収縮能だけでなく、LGEやmappingを用いた心筋組織性状評価に有用である。虚血性瘢痕、非虚血性線維化、心筋炎、心臓サルコイドーシス、蓄積性・浸潤性疾患などを考えるうえで重要な検査である。hvt-journal
  • 心臓サルコイドーシスは、心不全、房室ブロック、心室性不整脈、突然死を来し得る一方、診断されれば免疫抑制療法やデバイス治療を含む診療方針が変わる。私は、冠動脈疾患などで説明できないDCM表現型を示す患者には、原則としてFDG-PET/CTまたはガリウムシンチグラフィを行い、炎症活動性を評価する方針としている。
  • 「特発性DCM」は原因検索を止めるための病名ではない。治療可能な原因を見落とさないため、病因を問い続ける出発点と考える。

はじめに

心不全は、単一の疾患名ではない。虚血性心疾患、弁膜症、心筋炎、炎症性心筋疾患、遺伝性心筋症、内分泌異常、薬剤性心筋障害など、さまざまな心疾患が進行した結果として現れる臨床症候群である。

そのため、左室が拡大し、左室駆出率が低下している患者を診たときに、「拡張型心筋症らしい」と判断して治療だけを始め、原因検索を終えるべきではない。心不全が重篤で予後に関わる病態であるからこそ、治療可能な原因、再発予防につながる原因、家族への影響を考えるべき原因を、可能な限り拾い上げる必要がある。

本稿では、実臨床で左室拡大と収縮能低下、すなわちDCM表現型を認めた際に、私がどのような順序で原因検索を進めていたのかを整理する。

臨床的発見の2つの経路

拡張型心筋症が臨床的に発見される経路は、代表的には大きく2つに分かれる。

1つ目は、無症状または軽微な症状の段階で偶然発見される経路である。健診の胸部X線で心拡大を指摘された場合、健診心電図で左室肥大、ST-T異常、脚ブロック、心房細動、心室性期外収縮などを指摘された場合、あるいは他疾患の精査中に施行された心エコーで左室拡大・収縮能低下が見つかる場合がこれにあたる。

2つ目は、急性または慢性増悪した非代償状態の心不全を契機に発見される経路である。労作時呼吸困難、起坐呼吸、夜間発作性呼吸困難、下腿浮腫、体重増加、倦怠感、食欲低下などで受診し、心エコーで高度の左室収縮不全が判明することがある。

また、若年発症の心不全、突然死や心筋症の家族歴、家族内でのペースメーカー・ICD植込みや心移植の集積があれば、無症候であっても遺伝性心筋症を念頭に置いて評価を進める。

まずDCM表現型を確認する

拡張型心筋症を考える出発点は、左室拡大と左室収縮能低下の確認である。基本となる検査は心エコーであり、左室径、左室容積、左室駆出率、局所壁運動、右室機能、僧帽弁逆流・三尖弁逆流、肺高血圧の有無、心嚢液、左室内血栓などを評価する。

この段階で重要なのは、左室が拡大しEFが低いという一点だけで診断を終えないことである。

明らかな重症大動脈弁疾患や僧帽弁疾患、先天性心疾患、持続性頻拍、著明な高血圧性心疾患などがあれば、それらが左室拡大・収縮不全の主因となる可能性がある。DCM表現型は形態・機能の表現であり、病因そのものではない。
特に短絡性疾患は見落とされることも多いため注意が必要である。

診断の初手:冠動脈疾患の評価

DCM表現型を見たとき、最初に重要となるのは虚血性心筋症の評価である。

冠動脈疾患によって左室機能が低下している患者を、特発性DCMとして扱ってはならない。冠動脈疾患は治療方針を根本的に変え得る。血行再建の適応、抗血小板薬や脂質低下療法の位置づけ、心筋虚血・梗塞後瘢痕に関連した不整脈リスクなど、診療上の意味が大きいからである。

冠動脈評価には、患者背景に応じて冠動脈CTまたは侵襲的冠動脈造影を用いる。

重要なのは、「冠動脈に狭窄があるか」だけを見ることではない。その冠動脈病変が、壁運動異常、心筋瘢痕の分布、左室リモデリング、収縮不全の程度を説明できるかを統合的に判断する必要がある。

冠動脈病変を認めても、それだけで低EFのすべてを説明できるとは限らない。虚血性病変と非虚血性心筋障害が併存していることもある。冠動脈評価と心エコー、CMR (遅延造影)の所見を合わせて考えることが大切である。

CMR (cardiac MRI)での評価

CMRは、DCM表現型の病因検索において中心的な検査の1つである。心エコーでは得られない心筋組織性状の情報を得られるためである。

CMRでは、左室・右室の容積や収縮能を精密に評価できるだけでなく、遅延造影(late gadolinium enhancement:LGE)によって心筋の瘢痕・線維化の分布を評価できる。さらにT1 mapping、細胞外容積分画(ECV)、T2 mappingなどを用いることで、びまん性線維化、浮腫、炎症、浸潤・蓄積を示唆する所見を得ることがある。CMRは心筋症の初期評価において重要な検査と位置づけられている。hvt-journal

CMRで確認したいのは、主に次のような点である。

  • 虚血性心筋障害を示唆する内膜下から貫壁性のLGEがあるか
  • DCMでみられることのある中層、特に中隔中層の線状LGEがあるか
  • 心筋炎を示唆する浮腫や非虚血性LGEがあるか
  • 心臓サルコイドーシスを疑う多発性・斑状の非虚血性LGEがあるか
  • アミロイドーシス、Fabry病、鉄過剰など、浸潤性・蓄積性疾患を示唆する所見があるか
  • 右室病変、脂肪浸潤、局在性の壁運動異常など、arrhythmogenic cardiomyopathyを考える所見があるか
  • 左室内血栓、心膜病変、心房拡大など、心不全病態の評価に役立つ所見があるか
    (エコーで見逃されていた短絡のフローにCMRで気付くこともある)

CMRは、単に「EFを正確に測る検査」ではない。心筋に何が起きているかを読み、次にどの病因を追うべきかを決めるための検査である。

虚血性心筋症が疑われ、血行再建の適応を検討する場合にはviability評価も重要となる。しかし、原因不明のDCM表現型を評価する場面では、CMRの最も大きな役割は、LGEやmappingを含む心筋組織性状評価にある。

二次性心筋症を系統的に探す

冠動脈疾患が明らかでない、あるいは冠動脈疾患だけでは心機能低下を説明できない場合、次に二次性心筋症を系統的に検索する。

心不全診療では、原因を見つけること自体が治療となる場合がある。頻脈を止める、飲酒を中止する、原因薬剤を中断する、ホルモン異常を補正する、炎症性疾患を治療する、鉄過剰を治療する、といった介入によって、左室機能が改善する可能性がある。

問診・各検査では、以下を丁寧に確認する。

  • 飲酒量と飲酒歴
  • 抗がん薬、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬、抗精神病薬、抗不整脈薬、違法薬物などの使用歴
  • 持続性頻拍、心房細動、頻回心室性期外収縮を疑う症状の有無
  • 妊娠・分娩との時間的関連
  • ウイルス感染や発熱、胸痛など心筋炎を疑う先行症状
  • 甲状腺疾患、糖尿病、副腎疾患などの内分泌疾患
  • 神経筋疾患、難聴、骨格筋症状、CK高値
  • 皮膚、眼、呼吸器、関節、腎、神経症状などの全身性疾患を示唆する所見
  • 心筋症、心不全、若年突然死、心移植、ペースメーカー・ICD植込みの家族歴

採血では、血算、電解質、腎機能、肝機能、血糖、HbA1c、脂質、BNPまたはNT-proBNP、トロポニン、甲状腺機能、鉄・フェリチン・トランスフェリン飽和度などを基本として評価する。

自己抗体や炎症性疾患に関する検査は、全例に同じ項目を網羅的に測定するのではなく、発熱、関節症状、皮疹、間質性肺疾患、腎障害、末梢神経障害、原因不明の炎症反応上昇など、臨床所見に応じて追加する。この場合、循環器内科単独で行うのではなく、必ず専門診療科と連携を取る。

大切なのは、検査項目を増やすことではない。心不全という表現型の背後に、治療可能な原因がないかを、病歴、診察、心電図、画像、血液検査を統合して考えることである。

心臓サルコイドーシスを見逃さない

原因不明のDCM表現型を評価する際に、私が特に重視しているのが心臓サルコイドーシスである。

心臓サルコイドーシスは、左室機能低下による心不全だけでなく、高度房室ブロック、心室性不整脈、突然死を来し得る。しかも、診断されれば免疫抑制療法の適応を検討でき、不整脈や突然死のリスクに応じてペースメーカー、ICD、CRT-Dなどのデバイス治療を考える必要がある。したがって、診断の有無は患者の予後と診療方針を大きく左右する。ouci.dntb.gov+1

心臓サルコイドーシスを疑う手掛かりとしては、以下がある。

  • 原因不明の房室ブロック、特に比較的若年での高度房室ブロック
  • 持続性心室頻拍、頻回の心室性期外収縮、原因不明の失神
  • 原因不明の左室収縮不全、右室収縮不全、局在性壁運動異常
  • CMRでの非虚血性LGE、特に多発性・斑状の所見
  • 基部中隔の菲薄化
  • 肺門・縦隔リンパ節腫大、肺病変
  • 眼病変、皮膚病変、神経病変などの心外病変
  • 原因不明の炎症反応上昇、血清ACE上昇、リゾチーム上昇など

しかし、これらの所見が乏しいからといって、心臓サルコイドーシスを除外してよいとは考えていない。

心臓サルコイドーシスは心筋病変が斑状に分布し、心外病変が明瞭でないこともある。血清マーカーが正常であっても、炎症反応が陰性であっても、明らかな房室ブロックや心室頻拍がなくても、心臓病変が存在する可能性は残る。

そのため私は、冠動脈疾患、明らかな弁膜症、持続性頻拍、明らかな薬剤性・アルコール性心筋障害、明らかな内分泌異常などを評価しても説明できないDCM表現型を認めた場合、原則としてFDG-PET/CTまたはガリウムシンチグラフィを行い、心筋の炎症活動性を評価する方針としている。

FDG-PETは、活動性炎症を反映する異常FDG集積を評価できる。心臓だけでなく全身を評価できるため、肺門・縦隔リンパ節、肺、皮膚などの心外病変を見つけ、生検可能な部位を探すうえでも有用である。FDG-PETを適切に解釈するには、生理的心筋FDG集積を抑制するための前処置が不可欠であり、施設の標準プロトコルに沿って実施する必要がある。

ガリウムシンチグラフィも活動性炎症の評価に用いられる。FDG-PETが利用できない場合や、各施設の検査体制によっては有力な選択肢となる。ただし、検査が陰性であっても、非活動性あるいは線維化主体の心臓サルコイドーシスを完全に否定できるわけではない。

PETやGaシンチの結果は単独で判断せず、CMRのLGE、心電図所見、房室ブロックや心室性不整脈、胸部CT、心外病変、経時的な病態変化などを統合して解釈する。心臓サルコイドーシスは「陽性か陰性か」の二択で単純に切り分けられる疾患ではなく、複数の情報から診断の確からしさを積み上げる疾患である。

アミロイドーシスなどの浸潤性・蓄積性疾患

浸潤性・蓄積性心筋症も、心不全の原因として意識する必要がある。

心アミロイドーシスは、典型的には左室壁肥厚、拡張障害、両心房拡大、低電位、特徴的なstrain所見、CMRでのびまん性造影異常などを契機に疑う。DCM表現型の中心的な鑑別とは限らないが、非典型的な形態をとることもあり、病歴、心電図、エコー、CMRから疑わしい所見があれば検索を進める。

アミロイドーシスを疑った場合には、単クローン性蛋白の検索と、必要に応じて骨シンチグラフィ、組織診断、血液内科との連携を行う。ALアミロイドーシスとATTRアミロイドーシスでは治療戦略が異なるため、早期に病型を見極めることが重要である。

また、Fabry病、鉄過剰症、ミトコンドリア病、筋ジストロフィー関連心筋症なども、表現型と心外所見に応じて鑑別する。CMRのT1 mappingやT2*などは、こうした疾患を疑うきっかけとなることがある。

遺伝性DCMを考える

原因不明のDCM表現型では、家族歴と遺伝性の評価を必ず意識する。

家族内に、拡張型心筋症、心不全、若年突然死、心移植、ペースメーカー・ICD植込み、心房細動、房室ブロック、心室頻拍が集積していないかを確認する。可能であれば、3世代程度まで家系図を作成して情報を整理する。

若年発症、家族歴、伝導障害、心室性不整脈、骨格筋症状、CK上昇、CMRでの非虚血性LGEなどがあれば、遺伝性心筋症を積極的に考える。

遺伝学的検査は、単に遺伝子名を知るための検査ではない。発端者の不整脈リスク評価、ICDを含むデバイス治療の検討、血縁者のスクリーニング、将来の家族計画や遺伝カウンセリングにつながる可能性がある。

もちろん、遺伝学的検査の結果は慎重に解釈する必要がある。病的意義が確立していないバリアントが検出されることもあるため、遺伝カウンセリングを含め、心筋症診療に習熟した施設や専門家と連携して進めることが望ましい。

実際の診断フローチャート

DCM表現型を認めたときの診断の流れを、実用的にまとめると以下のようになる。

左室拡大+左室収縮能低下を認める

心エコーで形態・収縮能・弁膜症・右室機能・肺高血圧・血栓を評価する

病歴、身体所見、家族歴、12誘導心電図、Holter心電図、基本採血を行う

冠動脈CTまたは冠動脈造影で冠動脈疾患を評価する

CMRで心室形態、LGE、T1・T2 mapping、浮腫、瘢痕、浸潤性・蓄積性所見を評価する

二次性心筋症を系統的に検索する
・頻脈誘発性心筋症
・アルコール性、薬剤性、毒性心筋障害
・甲状腺などの内分泌異常
・鉄過剰、栄養・代謝性疾患
・心筋炎、自己免疫・炎症性疾患
・周産期心筋症
・神経筋疾患、ミトコンドリア病

原因不明のDCM表現型では、FDG-PET/CTまたはGaシンチで
心臓サルコイドーシスを含む炎症活動性を評価する

家族歴、表現型、CMR・心電図所見から遺伝性心筋症を評価し、
必要に応じて遺伝カウンセリングと遺伝学的検査を行う

得られた情報を統合し、病因に基づいた治療とリスク層別化を行う

この流れは、検査を機械的に並べるためのものではない。心不全を生じさせている原因を見つけ、その原因に応じて治療を変えるための流れである。

おわりに

「特発性拡張型心筋症」は、原因検索を止めるための言葉ではない。

冠動脈疾患を除外した後にも、患者の左室拡大・収縮不全を説明できる原因が残っていないかを問い続ける必要がある。心不全は重篤な臨床状態であり、症状とEFだけを見て薬物治療を開始すれば十分、というものではない。

とくに心臓サルコイドーシスのように、診断されれば免疫抑制療法、不整脈治療、デバイス治療、経過観察の方法まで変わる疾患を見逃してはならない。

私は、原因不明のDCM表現型を認めたときには、可能な限り病因検索を進める。冠動脈疾患を評価し、CMRで心筋を読み、二次性疾患と遺伝性疾患を検討し、必要であればFDG-PET/CTまたはガリウムシンチグラフィで炎症活動性を評価する。

心不全診療で最も避けるべきなのは、「原因不明のDCM」と名付けた時点で思考を止めることである。治療可能な病因を見逃さないために、心不全の原因に最後まで踏み込む姿勢が必要である。


第49回 : 心不全での初期の診断が重要な理由:心臓移植は「根治」ではない

本稿のポイント

  • 心臓移植は心不全の「根治」ではなく、生涯にわたる免疫抑制療法と拒絶反応・感染症・悪性腫瘍リスクを伴う「新たな病態への移行」である。
  • 移植という最終手段があるからこそ、初期診断を軽視してよいわけではなく、むしろ治療可能な原因を見逃さないための徹底した初期診断が重要になる。
  • サルコイドーシスなど治療可能な原因を早期に特定できれば、移植に至らずに済む可能性がある。

心臓移植は「根治」ではない

重症心不全の最終手段として心臓移植が存在するが、これは病気が「治った」状態を意味しない。移植後は拒絶反応を防ぐために生涯にわたり免疫抑制薬を内服し続ける必要があり、その結果として感染症や悪性腫瘍のリスクが高まる。移植後の冠動脈疾患も重要な問題である。
このように心臓移植とは、心不全という病態から、免疫抑制薬関連のリスクを抱えた「新たな病態」へ移行することを意味する。

心臓移植は、重症心不全状態として、安静時を含む呼吸困難や倦怠感、カテコラミンの常時投与、何らかの心室補助を行う機械などから離脱ができるため、非常に有効な治療ではある。しかし、これを「心不全の根治療法」と誤解してはならない。移植後も患者は別の医学的問題と一生付き合っていくことになる。

だからこそ初期診断が重要になる

移植という最終手段が存在するからといって、初期診断を簡略化してよいわけではない。むしろ、拡張型心筋症の診療で除外診断のプロセスを徹底する理由はここにある。原因の中には、心臓サルコイドーシスのように適切な治療(ステロイド治療など)によって心機能の改善が期待できるものが含まれている。

初期診断の段階で治療可能な原因を見逃さず特定できれば、患者を移植という選択肢に進ませずに済む可能性がある。逆に、初期診断が不十分なまま「拡張型心筋症」として一括りに管理してしまうと、本来治療可能であった病態を治療する機会を失うことになる。

このような背景から、心不全診療における初期診断の徹底は、単なる検査の網羅ではなく、患者の将来の選択肢を守るための重要なプロセスであると言える。


第50回 : 成長後に発症する拡張型心筋症の原因遺伝子:PRMT1欠損マウスの知見

本稿のポイント

  • Murataらの研究(iScience, 2018)は、PRMT1遺伝子欠損マウスが成長後に遅発性に拡張型心筋症を発症することを報告した。
  • この知見は、見た目が正常な心臓であっても、特定の遺伝子異常により将来的な発症脆弱性を内在している可能性を示唆する。
  • 高血圧・糖尿病に伴う心筋症においても、背景にこうした個体差・素因(遺伝的脆弱性)が関与している可能性が考えられる。

PRMT1遺伝子欠損マウスの知見

Murata Kらによる研究(iScience, 2018)では、PRMT1という遺伝子を心筋特異的に欠損させたマウスが、出生直後には正常に見える心機能を示すにもかかわらず、成長後に遅発性に拡張型心筋症を発症することが報告された。

この研究の重要な点は、心筋に内在する特定の分子機構の異常が、ただちに心機能障害として表面化するのではなく、時間経過とともに(成長後に)初めて拡張型心筋症として顕在化するという点である。これは、拡張型心筋症の発症が単一の急性イベントではなく、潜在的な脆弱性の蓄積を背景にした遅発性の現象である可能性を示している。

個体差・素因という視点

この知見は、なぜ一見正常に見える心臓を持つ人の一部が拡張型心筋症を発症し、他の人は発症しないのか、という臨床上の疑問に対する一つの仮説を提供する。すなわち、心筋細胞レベルでの遺伝的・分子的な「発症しやすさ(脆弱性)」が個体ごとに異なり、それが将来の発症リスクを左右しているという考え方である。

この仮説を敷衍すると、高血圧や糖尿病に伴って発症する心筋症についても、単に血圧や血糖の管理が不十分だったから発症するというだけでなく、背景に心筋自体の遺伝的脆弱性が存在し、それが高血圧・糖尿病という負荷によって顕在化した、という見方も可能になる。

もちろんこれは基礎研究レベルの知見であり、臨床応用には距離があるが、拡張型心筋症という疾患概念をより深く理解するための重要な視座を与えてくれる。


第51回 : 心房機能と心房性不整脈による心不全

本稿のポイント

  • 心房の本来の機能は、心室の拡張末期圧を低く保つことであり、心房収縮による急速な血液移動が心筋の粘性の影響を避け、圧上昇を抑制する。
  • 心房細動・心房粗動・心房頻拍は頻脈そのものよりも心房収縮の消失・無秩序化によって心不全を誘発しうる(頻拍誘発性心筋症)。
  • 心房頻拍は見逃されやすく、不整脈治療後の心機能改善効果が最も期待できるタイプでもある。

頻脈性不整脈と心不全の関係

頻脈性不整脈は慢性的な心不全の原因にもなり、既存の慢性心不全の急性増悪の原因にもなる。心房細動・心房粗動・心房頻拍があると拡張型心筋症様の病態(頻拍誘発性心筋症)を生じることがあるが、その機序は十分には解明されていない。重要なのは、それほど心拍数が速くなくても心筋症を発症する例があるという点である。

心房の本来の機能

心房の機能は、心室の拡張末期圧を低く保つことにある。左室の収縮から拡張への移行は、心筋が弛緩し左室内圧が左房圧より低くなることで生じる血液の受動的な流入によるものであり、左室が「積極的に拡張する」わけではない(ただし拡張期極早期には心筋のねじれの反発による一過性の陰圧化が生じ、この時だけは積極的な拡張といえる)。心房の収縮刺激(洞結節由来)が生じると、同じ容積変化でも血液が急速に流入するため、心筋の粘性の影響を受けにくく、拡張末期圧の上昇が抑えられる。

心房細動・心房粗動・心房頻拍による心不全

心房細動になると心房は収縮・拡張をともに失う。心房粗動や心房頻拍では多少の収縮はあるが、そのタイミングは心室の拡張末期と一致せず、心室収縮期に起こることもあるため、心房に貯められた血液が静脈系へ逆流するなど、非効率な血行動態となる。多くの心臓ではこれらの不整脈があっても動悸程度で済むが、一部の心臓では慢性的な不全心に至る。両心室の収縮不全と拡大がみられることが多いが、それ以外に特徴的な所見はない。

診断には電気的除細動やカテーテルアブレーションで不整脈を停止させ、その後に心機能が改善するかを確認する以外に方法がない。心房頻拍は心房240回/分・2:1伝導で心室が120回/分程度となることがあり、急性期心不全で頻用される洞調律時心拍数120程度という所見に紛れて見逃されやすいため、注意が必要である。心房頻拍を合併した不全心は、不整脈治療後の心機能改善が最も期待できる印象がある。正常伝導路を損傷するリスクがあっても、止めるべき不整脈と判断したらカテーテルアブレーションを躊躇すべきではない。
自験例ではあるが、心房頻拍を伴う拡張型心筋症様の重症心不全患者が紹介となり、心房頻拍を停止させるため電気生理とアブレーションの方針となった。電気生理で、不整脈チームからは、洞結節の非常に近い場所を含むリエントリーであり、洞結節を焼灼するかもしれないとのことであったが、心不全チームとして、CRTになってもいいからと、GO-signを出した。
結果は、洞結節を焼灼せずに心房頻拍のみ停止。その後、心機能は1週間程度でLVEF 30%程度にまで改善。さらに1か月程度で 50%程度にまで改善し、軽度の不全心というレベルになった。


第52回 : 不全心・不整脈の原因としての筋ジストロフィー

本稿のポイント

  • 筋ジストロフィーは骨格筋・心筋・平滑筋が壊死する遺伝子疾患であり、循環器内科医が遭遇しうるのはベッカー型・エメリー・ドライフス型などである。
  • 診断確定は専門施設が必要だが、疑うこと・全身診察・家族歴聴取という内科的基本姿勢が不可欠である。
  • エメリー・ドライフス型は房室ブロックを中心とした不整脈を高頻度に合併するため、ペースメーカ植込み例では常に二次性疾患の可能性を考慮する。

筋ジストロフィーとは

筋ジストロフィーは遺伝子異常による疾患で、横紋筋・心筋・平滑筋が壊死をきたし、筋肉量低下・筋力低下からさまざまな障害を生じる。罹患部位や障害パターンによりデュシャンヌ型・筋緊張型などに分類され、近年は原因遺伝子による分類も進んでいる。同一の遺伝子異常でも表現型が異なる場合や、同じ表現型で遺伝子異常が異なる場合があり、蛋白機能解析を含めたさらなる研究が必要とされる。

筋ジストロフィーを含む不全心の原因となる全身疾患は、循環器内科医のみで確定診断することはできない。しかし「疑うこと」、全身の診察、家族歴の聴取という内科の基本姿勢は不可欠であり、専門施設(国立精神・神経医療研究センターなど)への紹介が診断確定の鍵となる。

ベッカー型筋ジストロフィー

小児科医以外が心不全として遭遇する可能性が最も高いのはベッカー型筋ジストロフィーである。これはデュシャンヌ型の緩徐進行型にあたり、関節症状を伴わない。デュシャンヌ型・ベッカー型はいずれもジストロフィンという、細胞質・細胞膜・基底膜をつなぎ電解質などの情報伝達に関わる蛋白の異常による。カルシウムの過剰流入が筋細胞壊死を招くという報告がある。ベッカー型ではジストロフィンが部分的に機能を保つため、デュシャンヌ型より症状の進行が遅く限定的である。

ベッカー型の症状は近位筋(腰帯筋、大殿筋、肩甲帯筋)から対称性に筋力低下が広がる。歩行困難に加え、同程度の心不全重症度の患者と比較しても栄養状態が悪く、リハビリテーションが進みにくい傾向がある。

エメリー・ドライフス型と不整脈

エメリー・ドライフス型では房室ブロックを中心とした不整脈が高頻度にみられ、肩から上肢・下腿にかけての筋力低下が特徴的である。心不全や不整脈(特にペースメーカ植込み例)を診療する際は、常に二次性疾患の可能性を念頭に置く必要がある。

筋ジストロフィーは厚生労働省の指定難病である。近年はデュシャンヌ型に対するステロイド治療や、遺伝子のスプライシングを利用してジストロフィンの一部機能を発現させる治療法(デュシャンヌ型をベッカー型に近づけるイメージ)の開発が進んでいる。

 特殊症例:
ライターガス吸入で起こる急性心筋障害

劇症型心筋炎に類似する複合病態

以前、ライターガスを吸入した後に、劇症型心筋炎に類似する急激な心機能低下を呈した患者を経験した。

ライターガスの主成分は、一般にブタン、イソブタン、プロパンなどの揮発性炭化水素である。これらの吸入は、単なる中毒や窒息にとどまらず、致死性不整脈、急性心筋虚血、急性心不全、心筋炎様の重症心筋障害を引き起こしうる。

ただし、ライターガス吸入後の急性心機能低下を、すべて心筋炎と呼ぶことには慎重であるべきである。ウイルス性心筋炎のような一次性炎症だけでなく、炭化水素による直接心筋毒性、低酸素、冠攣縮、微小循環障害、不整脈、カテコラミン過剰が重なった複合病態である可能性が高い。

心筋に起こる変化

ライターガス吸入後の急性循環不全には、複数の機序が関与する。

  • ブタンなどの揮発性炭化水素による直接的な心筋毒性
  • 酸素置換と呼吸抑制による低酸素血症
  • 高炭酸ガス血症とアシドーシスによる心筋抑制
  • カテコラミン感受性亢進による致死性心室性不整脈
  • 冠攣縮または微小循環障害による心筋虚血
  • 身体的・精神的ストレスによるストレス心筋症様障害

これらは独立した現象ではない。低酸素とアシドーシスは心筋の電気的安定性を低下させ、心室性不整脈を誘発しやすくする。そこに炭化水素によるカテコラミン感受性亢進が加わると、恐怖、興奮、運動、疼痛、救急搬送時のストレスに伴う交感神経活性化を契機として、心室頻拍や心室細動が生じうる。
Rare but relevant: Hydrocarbons and sudden sniffing syndrome – PMC

カテコラミンへの過敏性

揮発性炭化水素吸入で最も重要な特徴の一つは、心筋がカテコラミンに対して過敏になることである。

通常であれば問題とならない程度の内因性カテコラミン上昇でも、重症心室性不整脈が誘発される可能性がある。この病態は、吸入後の突然死との関連から、sudden sniffing death syndromeと呼ばれる。

炭化水素は心筋細胞膜やイオンチャネルにも影響し、伝導遅延、再分極異常、QT延長、心室性期外収縮を引き起こしうる。電気生理学的な不安定性に低酸素、アシドーシス、カテコラミン過剰が加わることで、致死性不整脈の危険性はさらに高くなる。

低酸素と心筋虚血

ライターガスを高濃度で吸入すると、肺胞内の酸素が置換され、低酸素血症が生じる。袋を用いた吸入、密閉空間での吸入、長時間または反復吸入では、低酸素はより重症化する。

低酸素血症は心筋細胞への酸素供給を低下させる。呼吸抑制による高炭酸ガス血症、アシドーシス、血圧低下、不整脈が加われば、心筋の酸素需要・供給バランスは急速に破綻する。

冠動脈に器質的狭窄がなくても、冠攣縮、内皮障害、微小循環障害、低酸素、低灌流が重なれば、急性冠症候群に類似したST変化、トロポニン上昇、壁運動異常を来す。ブタン・プロパン曝露後に、冠動脈閉塞を伴わない急性広範心筋虚血を呈した症例も報告されている。

劇症型心筋炎との境界

ライターガス吸入後には、急速な左室収縮能低下、心原性ショック、肺うっ血、トロポニン上昇、心電図異常、炎症反応上昇を認めることがある。この臨床像は劇症型心筋炎に酷似する。

しかし実際には、以下の病態が複合している可能性が高い。

直接心筋毒性
+ 低酸素・アシドーシス
+ 冠攣縮・微小循環障害
+ 心室性不整脈
+ カテコラミン過剰

炭化水素による直接毒性に加え、酸化ストレス、ミトコンドリア障害、炎症反応、免疫介在性反応が関与し、心筋細胞壊死と炎症を伴う毒性心筋炎が成立する可能性もある。炭化水素関連毒性心筋炎はまれであるが、重篤な急性心不全やショックを呈しうる。

したがって、「ライターガス吸入を契機とした劇症型心筋炎」という診断名を用いる場合でも、病態生理としては「炭化水素による毒性心筋障害に、低酸素性障害、虚血性障害、不整脈性障害、カテコラミン関連障害が重なった状態」と理解するのが妥当である。

診断を補強する所見

病態を整理するうえで、以下の情報が重要である。

  • 吸入物の成分:ブタン単独か、イソブタン、プロパン、溶剤、添加剤を含むか
  • 曝露方法:袋を用いたか、密閉空間か、反復または長時間の曝露か
  • 初診時血液ガス:低酸素血症、高炭酸ガス血症、アシドーシス、乳酸上昇の程度
  • 心電図・モニター記録:QT延長、心室性期外収縮、心室頻拍、心室細動、房室ブロックの有無
  • 冠動脈評価:閉塞性冠動脈疾患の除外、冠攣縮を示唆する所見の有無
  • 心エコー:びまん性か局在性か、Takotsubo症候群様かを含む壁運動異常の分布
  • 心臓MRI:心筋浮腫、非虚血性遅延造影、虚血性パターン、ストレス心筋症様パターンの確認
  • 心筋生検:リンパ球性・好酸球性炎症、心筋細胞壊死、浮腫、線維化の有無
  • 回復経過:数日から数週での急速な左室機能回復は、心筋stunning、ストレス心筋症、可逆性毒性の関与を示唆する

心筋生検で炎症細胞浸潤と心筋細胞壊死が証明されれば、炎症性心筋炎としての診断確度は高まる。一方、炎症所見が乏しく、急速な機能回復を認める場合には、低酸素性心筋障害、可逆性毒性心筋症、虚血性stunning、ストレス心筋症の寄与をより強く考える。

急性期管理の要点

ライターガス吸入では、急性期の主な死因は低酸素と致死性心室性不整脈である。酸素化と換気の確保、持続心電図監視、電解質補正、血液ガスと乳酸の反復測定、虚血性心疾患の評価、急性心不全および心原性ショックに対する標準的集中治療を直ちに行う必要がある。

炭化水素曝露ではカテコラミンに対する心筋感受性が亢進している可能性があるため、アドレナリンを含むカテコラミンの使用は不整脈を助長しうる。もっとも、心停止や重症ショックで昇圧薬・強心薬が必要な状況では、必要な蘇生・循環管理を遅らせてはならない。使用する場合には必要最小限の用量とし、心電図および不整脈の厳重な監視下に管理する。

まとめ

ライターガス吸入後の急激な心機能低下は、単一の心筋炎では説明できない複合病態である。直接心筋毒性、低酸素、アシドーシス、冠攣縮・微小循環障害、カテコラミン感受性亢進、心室性不整脈、ストレス心筋症様障害が重なり、劇症型心筋炎に類似した臨床像を形成する。

症例の考察では、「ライターガス吸入を契機とした劇症型心筋炎」と記載したうえで、「炭化水素関連毒性心筋障害に低酸素性・虚血性・不整脈性・カテコラミン関連の心筋障害が複合した可能性」を示す表現が、最も臨床病態に即している。

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