はじめに
高血圧の「診断」には大きく2つの意味があります。
ひとつは「本当に高血圧かどうかを見極めること」、もうひとつは「高血圧だとしたら、その原因が治療可能なものか、つまり二次性か特発性かを判断すること」です。
実際の臨床で問題になる点は大きく3つあると思います。
第一に、どの血圧値を基準に高血圧と診断するのか。
第二に、高血圧と診断した際、どのような患者に二次性高血圧の除外を行うべきか。
第三に、除外診断を行う場合、どこまで精査を進めるべきか、ということです。
高血圧と診断するために、どの血圧で評価するのか
まず「診断に用いる血圧」についてですが、私は原則として家庭血圧を中心に、可能であれば24時間自由行動下血圧(ABPM)を加えて評価しています。
ちなみに、日本高血圧学会の2025年ガイドライン(JSH2025)では、診察室血圧と家庭血圧の両方を診断に用いることが推奨されています。
診断基準は従来から大きく変わっておらず、以下の通りです。
- 診察室血圧:収縮期血圧 140 mmHg以上 または 拡張期血圧 90 mmHg以上
- 家庭血圧:収縮期血圧 135 mmHg以上 または 拡張期血圧 85 mmHg以上
- ABPM(日中平均):130/80 mmHg以上で高血圧とみなすのが一般的な基準
ここでいう診察室血圧は「ただ診察室で測った値」ではなく、測定条件が定められています。
静かな環境で5分以上の安静座位、適切な姿勢とカフサイズ、複数回測定などが必要であり、これを満たさない血圧値は、厳密には正式な診察室血圧とは言えません。
血圧測定ブースを設けて条件を整えられれば理想ですが、実際の外来では難しいのが現状です。
病院内の自動血圧計で患者が自由に測定した値や、診察室で座ってすぐに測った値は、ガイドラインでいう「診察室血圧」には該当しません。
家庭血圧の測定方法と注意点
私は、高血圧の診断時だけでなく、診断後の血圧の評価も家庭血圧をもとに行っています。
測定の基準としては、朝は起床後・排尿後で、服薬前・朝食前、適切な室温の状態で座位にて測定するよう指示しています。
血圧計は上腕で測定するタイプを第一に勧めています。
購入の際には、マンシェットの大きさが体格に合っており、上腕をしっかりと覆えるもの(周長の8割以上)で、膨らむ部分も腕の長さの半分程度以上あることが望ましいです。
どうしても上腕測定が面倒で手首でしか測れないという人には、やむを得ず手首式を認めています。
その際は必ず心臓と同じ高さで測定すること、測定部位により血圧値が異なり、一般的には上腕の血圧で評価されているため、手首では正確な評価が難しいことを説明しています。
血圧の測定回数に関しては、原則2回以上の測定を指示し、2回の血圧が概ね同程度であれば2回目の血圧を記録してもらいます。
値が大きくずれる場合には、同程度の値になるまで複数回測定し、4回以上安定しない場合には、心房細動などの不整脈や測定環境・血圧計の問題を疑い、再評価が必要と考えています。
24時間自由行動下血圧測定(ABPM)の位置づけ
特に治療開始前の診断の段階では、24時間自由行動下血圧測定は有用です。
日中平均、夜間(睡眠時)平均の2種類を主に見ていて、JSH2025と整合する基準として、以下のように評価します。
- 24時間平均血圧:125/75 mmHg以上で高血圧
- 日中(覚醒時)平均血圧:130/80 mmHg以上で高血圧
- 夜間(睡眠時)平均血圧:120/70 mmHg以上で高血圧
ABPMで日中平均が130/80以上、または夜間平均が120/70以上であれば、高血圧として塩分制限など生活習慣改善を指導し、140/90を大きく超えるような場合には薬物治療を検討する、という運用にしています。
二次性高血圧の診断方針
誰に二次性高血圧を疑うか
家庭血圧やABPMを実施し、高血圧と診断したら、次に「二次性か特発性か」が問題となります。
以下のようなケースでは、二次性高血圧を意識して評価する必要があります。
二次性高血圧の主な原因
代表的な原因疾患は以下の通りです。
- 腎実質性高血圧(慢性腎臓病:糖尿病性腎症、糸球体腎炎、多発性嚢胞腎など)
- 腎血管性高血圧(腎動脈狭窄:粥状動脈硬化・線維筋性異形成など)
- 甲状腺機能異常(甲状腺機能亢進症・甲状腺機能低下症)
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群
- 原発性アルドステロン症
- クッシング症候群(ACTH依存性・非依存性)
- 褐色細胞腫・パラガングリオーマ
- 原発性副甲状腺機能亢進症
- 薬剤誘発性高血圧(グルココルチコイド、甘草含有製剤、経口避妊薬、NSAIDs、カルシニューリン阻害薬など)
初診時にどこまで除外するか
二次性高血圧については、「誰にどこまでするのか」が実臨床では悩ましいところです。
簡便に実施でき、診断もしやすく、治療方針も明確なものについては、全高血圧患者の初診時にスクリーニングしてよいと考えています。
具体的には、上記のうち
- 1(腎実質性)
- 2(腎血管性)
- 3(甲状腺機能異常)
- 9(薬剤性高血圧)
検査としては、以下を基本とします。
- 一般的な血液検査・尿検査(腎機能、電解質、糖代謝など)
- 甲状腺機能検査(TSH、FT4など)
- 腎エコー・MRAなどで腎血管の評価
睡眠時無呼吸の評価
閉塞性睡眠時無呼吸症候群については、昼間の眠気の有無や、運転中など本来眠らない状況で寝てしまうかどうかを問診します。
疑わしい場合には、原則として脳波を含む睡眠ポリグラフ検査が望ましいですが、典型的な症状・体型の症例では簡易検査から開始することもあります。
現状、有効な治療はCPAPが中心ですが、CPAPによる降圧効果は限定的であり、心血管イベントリスク低減など、より広い観点で治療を位置づける必要があります。
内分泌性二次性高血圧の評価
高齢ではない患者や、初診時に 180/110 mmHg など著明な高血圧を認める患者に対しては、原発性アルドステロン症・クッシング症候群・褐色細胞腫などを疑った検査を行います。
ひとまずは以下を基本とします。
- 血液検査・尿検査によるホルモン評価(レニン・アルドステロン、ACTH、コルチゾール、メタネフリンなど)
- 腹部エコーまたはCT/MRIでの副腎・腫瘍の評価
これらのホルモン検査は採血条件が腎や甲状腺の評価とは異なり、内服薬の調整など準備が煩雑になる点には注意が必要です。
レニン・アルドステロンおよびACTH/コルチゾールの血液検査については、可能であれば治療開始前、またはカルシウム拮抗薬のみ服用中の状態で行うのが望ましいとされています。
一般には10分以上の座位安静後に採血し、カリウム補正も行ったうえで評価することが望ましいとされています。
ただ、すでにARBなどの内服を開始していて、CCB単剤への変更は難しい場合などは、内服していることを前提として結果を評価するようにしています。
腎動脈狭窄による二次性高血圧
腎動脈狭窄は、単純な狭窄であればカテーテル治療(血管形成術)による改善が期待でき、腹部の画像検査で除外診断が比較的可能なため、若い患者では一度は評価してよい病態です。
腎動脈が狭窄すると腎臓への血流が低下し、腎臓は「全身の血流不足」と判断してレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)を活性化します。
腎動脈の圧受容器や交感神経が刺激され、全身の交感神経活動亢進とレニン分泌増加を介して血圧が上昇し、長期的には心機能にも影響を及ぼします。
レニンの増加によりアンジオテンシンI→アンジオテンシンIIが生成され、このアンジオテンシンIIが強い昇圧作用を持ちます。
このため、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が降圧薬の一翼を担っており、心血管保護にも重要な役割を持っています。
さらに、アルドステロンが分泌され、ナトリウム・水再吸収を促進して血圧を上昇させると同時に、心血管・腎保護に対して有害な作用を及ぼします。
アルドステロン拮抗薬(MRA)は心不全治療に有用であり、降圧薬としても有効です。
両側腎動脈狭窄や単腎の腎動脈狭窄では、ACE阻害薬・ARBによる急激な腎機能悪化や過度の降圧に注意が必要であり、原則としてこれらの薬剤は慎重投与または禁忌とされます。
原発性アルドステロン症
原発性アルドステロン症は、副腎からアルドステロンが過剰に分泌される疾患で、持続性高血圧と低カリウム血症を特徴とします。
アルドステロンの慢性的高値は、心肥大・心不全・腎機能低下などを増悪させることが知られています。
診断の第一歩は、レニンとアルドステロンを同時に測定し、アルドステロン/レニン比(ARR)を評価することです。
ARRが高値であれば原発性アルドステロン症を疑い、腹部CTなどで副腎腫瘍の有無を評価し、必要に応じて副腎静脈サンプリングなどを行います。
通常はレニン・アルドステロンに影響する薬剤(ACE阻害薬・ARB・β遮断薬・利尿薬など)を可能な限り中止し、カルシウム拮抗薬やα遮断薬などへ一時的に切り替えたうえで検査することが推奨されます。
褐色細胞腫
褐色細胞腫はカテコラミン産生腫瘍で、動悸・発汗・頭痛の三徴が有名です。
診断には血中または尿中のメタネフリン・ノルメタネフリン測定と、腹部CT/MRIによる腫瘍検索が用いられます。
罹患率は低いため、「血圧が高い」というだけで全例をスクリーニングすることは現実的ではありません。
高血圧に加えて典型的な自律神経症状(動悸・頻脈・発汗)を伴う症例や、発作性の血圧上昇を認める症例などで検査を考慮します。
補足:白衣高血圧と仮面高血圧
高血圧の診断には、正しく測定された診察室血圧ないし家庭血圧の評価が重要です。
この2つの血圧値が乖離する場合、白衣高血圧と仮面高血圧を念頭に置く必要があります。
- 白衣高血圧:診察室血圧は高いが、家庭血圧は正常
- 仮面高血圧:診察室血圧は正常だが、家庭血圧が高い
白衣高血圧は安静時の平均血圧は正常であるものの、交感神経過活動の素地があるとされ、将来的な持続性高血圧のリスクは正常血圧より高いと報告されています。
治療は不要でも、家庭血圧の定期的チェックは推奨されます。
仮面高血圧は、診察室血圧が正常であるため発見が難しい一方、心血管リスクは持続性高血圧に近いとされます。
特に早朝高血圧や夜間高血圧を含むケースが多く、家庭血圧やABPMによる評価が不可欠です。
補足:早朝高血圧と夜間高血圧
通常、夜間就寝中の血圧は日中より10–20 mmHg程度低下するのが正常です。
早朝高血圧には、夜間高血圧が持続しているタイプと、早朝に急激に血圧が上昇するモーニングサージタイプがあります。
早朝高血圧の原因としては、睡眠時無呼吸症候群、慢性腎臓病、糖尿病、塩分負荷の持ち越しなどが挙げられ、心脳血管イベントリスクが高い群とされています。
腎不全や糖尿病、既存の動脈硬化性疾患・心疾患を有する患者では、診察室血圧が正常でも家庭血圧・ABPMで早朝および夜間の状態を評価することが望ましいです。
補足:24時間自由行動下血圧測定の実際
ABPMは、診察室血圧やスポットの家庭血圧では分からない日内変動や夜間血圧を把握できる、非常に有用な検査です。
小型の自動血圧計を装着し、15〜30分ごとに自動で測定することで、24時間の血圧プロファイルを得ます。
- 24時間平均血圧
- 日中平均血圧
- 夜間平均血圧
- ディッパー/ノンディッパー/過剰降圧型などの日内変動パターン
を評価し、診断と治療方針に生かします。
初診で緊急性のない高血圧では、まず1週間の家庭血圧を確認し、それでも判断が難しい場合や、二次性・仮面高血圧が疑われる場合にABPMを検討する、という運用が現実的です。
