心臓超音波検査は、心不全だけでなく、あらゆる心疾患にかかわる重要な検査です。
心不全の基礎となる疾患の推定や、弁膜症の有無、心拍出量の推定などなど、さらに、初診時、急性期、慢性期のすべての状況、あらゆる時期において有用な検査となります。
日常診療の心臓超音波検査
観察する一般的な項目についてから始めます。
生理検査技師が行うルーティンの検査というよりは、主治医が自分の患者を少し時間をかけてしっかりとやるとしたら、こうしてほしいという思いでお話ししていきます。
エコー全般にいえることですが、みえにくい人、観察がどうしても不十分な時には、見える範囲で何とか観察していくということになります。
エコー観察における脈
心エコーを行うときに、測定値に影響を与えるのが、心拍数ならびに不整脈です。
同じ心機能であっても、心拍数 50と100では測定値は変わりますし、心房細動などのイレギュラーな脈では、特に低心機能であればあるほど、1心拍毎に測定値は変化します。
そのため、検査時には、心拍数をはじめとした脈の把握は重要です。
また、測定は、洞調律の場合には、1心拍毎に変化するということはないので、おおむね3心拍程度観察して測定します。
心房細動の時には、概ね平均値に近く、安定した5心拍目がよいとされていますが、いろいろな測定を安定した5心拍毎に測定するのは、時間的に困難なことも多いので、個人的には3心拍目で許容できると思います。
心房粗動のときには、2:1で固定していれば、それで測定するしかありませんが、不安定な場合には、3:1か4:1の時に測定するでいいと思います。ただ、測定にばらつきが出るので、ざっとエコーをして心機能や弁膜症を評価したうえで、心房粗動そのものを治療してから、再度しっかりとエコーをしたいところです。
ちなみに、低心機能の頻脈性心房細動や粗動を、電気ショックなどで洞調律に戻した場合には、経時的に心機能が改善してくることがあるので、翌日にも心機能をチェックしたほうが良いとは思います。
一番初めに観察するのは、個人的には、心窩部からの観察です。
心窩部からは、下大静脈と両心房が良くみえます。
心窩部から下大静脈を評価します。
下大静脈の血管径は、普通の状態と吸気の2つの状態で評価します。
普通の状態での、まず下大静脈短径を測定します。大体5-10mm程度であろうと思います。
次に、吸気時にどれだけ下大静脈がペタッとしぼむかどうかをみます。
吸気というよりは、正しくはSniffといって、鼻水を吸うよう(外人が嫌うやつです)に、鼻を「ずっ」としてもらいます。
すると瞬間的に胸腔内が陰圧になって、下大静脈の血液がすっと心房内へ吸われていきます。
この組み合わせで、右房圧をおおよそ推定できるとされています。
具体的には、
IVCによる右房圧推定(標準)
- IVC内径 ≤21 mm かつ 呼吸性虚脱 >50% → 3 mmHg(0–5)
- IVC内径 >21 mm かつ 呼吸性虚脱 <50% → 15 mmHg(10–20)
- 上記の中間所見 → 8 mmHg(5–10)
この時に注意するのは、特に若い女性などで静脈のコンプライアンスが非常に高い人です。
血管が柔らかいと、非常に低圧でも血管は拡張しますし、時には、呼吸性変動がなくなります。
他の心エコーの観察や年齢などから、まったく心臓に異常がなさそうな若い人であれば、下大静脈の拡張は、右房圧が高いということではなく、下大静脈のコンプライアンスが高い(しなやかすぎる)ことが原因であると推定されます。
逆に、下大静脈のコンプライアンスが非常に低く、硬い状態であれば、高い圧でも血管は拡張しないはずですが、あまりこのような人は見たことがないので、下大静脈が硬化することは基本的にはないのだと思われます。
心房中隔及び心房を中心にした観察
心窩部からは、心房中隔がよくみえます。もちろん、太った人などはなかなか見えないですが。
この心房から左肩のほうに向けてみていくと、心房中隔がきれいにみえて、特に心房中隔欠損の有無の評価ができます。
他には、心房中隔瘤の評価や、ごくまれに腫瘍も観察されます。
また、右室側の心膜の状態の観察もできますので、心膜炎がないかどうかを意識してみてください。
比較的観察しやすい人であれば、左右の心房と心室、さらに大動脈弁を含んだ5腔の観察が可能で、細かい計測は無理ですが、弁膜症なども含め、一気に観察することができてしまいます。
特に、この角度からの観察が最も三尖弁閉鎖不全の逆流速度を正確に測ることができる人もいます。
腹部大動脈の観察
腹部大動脈もみてしまいましょう。
動脈瘤の有無や動脈硬化の程度もわかります。大動脈弁閉鎖不全の重症かどうかを判断するのに、大動脈の拡張期逆流波形というのがあります。心窩部から大動脈弁閉鎖不全を認めた時に、そのまま腹部大動脈に拡張期の逆流があるかどうかもあわせて観察して見ましょう。
傍胸骨左室長軸像(左心室の観察)
心窩部からの観察が終わったら、患者さんを完全に左側を下にした横臥位にします。 (左室心尖部の観察以外は、完全な横臥位でいいと思います)
その状態で、胸骨の左縁をできるだけ上から観察していきます。
心臓がみえず、上行大動脈しかみえない高さから観察を開始します。
まず、上行大動脈の血管径を測定します。30mm以下なら正常で、35mmを超えていると要注意です。
45㎜を超えていると大動脈瘤の診断になりますので、迷わずに全身のCTでほかの部位に治療が必要な動脈瘤がないかチェックしましょう。
そのまま、肋間ごとに観察をしていきます。コツは、肋間ごとに、プローブを上下に大きくゆっくり動かすことです。
上縁ぎりぎりから見下ろしたり、肋骨下縁ギリギリから見上げたりしたときにだけ、きれいに心臓が描出されることがあります。
呼吸も大事で、まずは普通に息をしてもらって観察して、基本的には呼気止めで、静止画か動画を残します。ただ、吸気のほうがきれいに見えたりすることもあるので、そのあたりはケースバイケースかと思います。
肋間ごとにプローブを大きく上下に動かして、きっちりすべてを描出するように気を使ってみてください。
胸骨左縁長軸像
さてまずみるのが、傍胸骨左室長軸像です。
この描出では、左室と左房、大動脈基部を主にみることができます。
さらに、左室と左房の間の僧帽弁、左室と大動脈の間の大動脈弁の観察も重要です。
描出において重要なことは、できるだけ頭側から見下ろすように観察するということです。
肺気腫などでみえない患者さんの場合には仕方ないですが、足側より描出では、左室の心尖部が画面の向かって左上方向にそるような描出になります。これは、左室長軸としては適切ではありません。できる限り頭側(上のほう)から描出して、左室の心尖部が画面の左側やや上くらいになるようにします。(こうすると心尖部は画面に入りきりませんが、それで大丈夫です)
左室観察
左室のおおよその動きと大きさの指標となる左室拡張末期径、左室収縮末期径、左室駆出率を測定します。
まず、測定する際の描出のコツは、左室の基部近くがきれいに描出できていることと、乳頭筋および腱索がみえていないことです。
乳頭筋や腱索がみえていたら、中隔側か、側壁側のどちらかによっているということです。2腔像ではありませんが、この像も基本的に乳頭筋は見えないように描出します。そして、もっとも左室の拡張末期径が大きくなる像を、これも上下にプローブを動かして、しっかりと描出してください。
拡張末期径などの測定に関しては、基部の近くで測定します。また、S状中隔や下壁基部瘤などで測定の対象となる部位に異常がある場合には、その部位から心尖部にずらして測定します。
左室に局所的な壁運動の異常があるときには、この像で測定する駆出率は参考程度の値になりますが、一応この像でみえる範囲で測定してください。
ちなみに、左室の拡張末期径と収縮末期径を測定すれば、あとは、teichholz法というのがあって、左室の駆出率は、その計算式によって自動的に計算されます。この値は、左室の局所的な壁運動異常がなければ、信用性の高い数値となります。
腱索が太くてどうしても画像内に入ってしまう場合や、収縮末期の後壁の内側が同定しにくい時が結構あります。何回も静止させた画像を動かしながら、収縮末期の後壁をしっかりと同定して測定しましょう。まず、収縮末期を同定し測定してから、拡張末期を測定するというほうが確かな時もあります。あくまでCase by caseです。
左室の壁運動異常に関しては、この段階でも評価はできますが、心尖部から行うほうが系統的にみることができます。
この段階で、特に注意してみるべきは、左室の中隔と基部後壁の異常です。
中隔が薄い場合:
サルコイドーシスのことが多いですが、心筋梗塞もないわけではありません(中隔枝限定の心筋梗塞)。肥大型心筋症のカテーテル治療(アルコール焼灼術)の跡ということもあります。
また、心室中隔欠損に大動脈弁がはまり込んでいることもあり、このような場合にも、この中隔基部のポウチ(袋)状の異常から疑うことになります。
他には、肥大型心筋症で肥大していた部分が薄くなっていくような拡張層肥大型心筋症という場合もあります。
中隔が厚い場合(全体は普通程度の厚み):
S状中隔や肥大型心筋症が疑われます。この部分がぶ厚いときには、ここで加速血流がないかどうかを評価することが必要です。また、僧帽弁が中隔の肥大と収縮による加速血流によって、中隔側に引き寄せられる現象が起きます(収縮期前方運動、SAM, systolic anterior motion)。pseudoSAMというのもあって、僧帽弁と腱索が中隔側に動くものの、僧帽弁逆流が起きていないものをいいます。基本的には、程度と僧帽弁の弁尖の長さなどの問題であり、起きている現象の原因としては同じです。
この現象が、バルサルバ負荷(いきみ)の時にだけ見られることもありますので、思いっきり息を吸っておなかに力を入れてもらいましょう。急に、加速血流がでることがあります。
下後壁基部の瘤化
サルコイドーシスの場合には、下後壁基部などの、心筋梗塞では説明できない心室瘤がみられます。特に後壁の基部の瘤はこの像が最もみやすいと思います。
心尖部は可能な範囲で観察
心尖部の異常は、基本的に左室と左房のみがみられる心尖部2腔像でみるのが基本になりますが、この像か、肋間を少し下げると、観察することが可能ですので、みえる範囲で観察してみて下さい。
瘤と緻密化障害に注意しましょう。
緻密化障害は、左室の心尖部を中心に、柱のような構造物がみえます。本来であれば、左室内腔はつるっとした感じにみえますが、ぼこぼこと柱のような構造物が見える時があり、これを緻密化障害といいます。
緻密化障害は、左室の収縮機能低下の原因の一つですが、特に収縮機能低下のない、ただ、緻密化障害があるだけの人も、特に無症状の成人で結構います。
しっかり収縮していればいいですが、心尖部の動きが多少でも悪いと、血栓症の原因になります。
かならず、カラードプラーをゲインを落として、低流速のカラーまでみえるようにして観察しましょう。
傍胸骨左室長軸像(心房と弁の観察)
傍胸骨左縁から左室長軸を観察したら、次は、心房を観察して、最後に弁をみます。
左房観察
心房は、この断面で計測することが一般的ですので、収縮期で左房がもっとも大きくなった時に、きっちりとみえるように描出して、左房径を測定しましょう。心尖部2・4腔像での左房容積のほうが重要ですが、左房径のほうが簡便で、ある程度の大きさの把握や経時的にみるには有用です。
左房の大きさは非常に重要です。
左房の大きさは、左房内圧の平均値を表していると考えていいと思います。
つまり、安静時に左房圧が高い人はもちろん、少しの労作でもすぐに左房圧が上がって、1日のトータルの左房圧が高い人も左房は大きくなると考えています。イメージとしては、1日の左房圧の積分値が左房径であるという感じです。
ただ、この断面で測定できる左房径は、目安にはなりますが、場合によっては、この左房径が正常でも、長軸方向に進展して左房容積が拡大していることもありますので、あくまで目安として測定し、あとは心尖部からの断面でしっかりと左房の大きさを評価することが重要です。
僧帽弁と大動脈弁の観察
この断面でみる左室に次いで重要なのが、弁です。
僧帽弁と大動脈弁については、この断面と短軸の断面で評価できます。
まずは、カラーをつけずにしっかりと弁自体を観察することが重要です。
私のエコーの2番目の師匠にあたる先生の名言が、「弁膜症をカラーで診断するのは素人。」でした。つまり、しっかりつBモードで、弁の性状や動き、動く範囲、弁輪などをみれば弁膜症があるかどうか、重症度までわかるようになります。
まず、大動脈弁とその周りの基部の大きさなどをしっかりと観察してください。
重要なのは、プローブを動かして、弁全体をみることです。弁を見る時には、弁を中心にプローブを動かします。基本断面だけ固定してで、動きをみていては絶対に見逃す異常が出てきます。
弁輪は拡大していないか、きちんと拡張期にあわさっていそうか、石灰化していないか、可動制限はないかをみます。それらをみて、狭窄や逆流があるかどうかを事前に予測してからカラーをいれます。すると変異している逆流などもみのがさずにしっかりと評価できるようになります。
僧帽弁も同じです。
弁輪をみて、弁自体をみて、弁の閉鎖時と開放時の形態に異常はないか、動きに制限はないかをみます。
特に、最近は僧帽弁閉鎖不全が多く、狭窄症をみる機会が減っているためか、若い先生や技師さんで、僧帽弁の開放制限を見逃すことが多いように思います。確かに、数としては非常に少ないですが、例えば僧帽弁狭窄症とまではいかないが、開放が何らかの理由で制限されていることもあります。閉鎖時だけでなく、開放時の動きも注意してみてください。
これも事前に逆流と狭窄の予測を立ててから、カラーを入れます。
私は、一度僧帽弁閉鎖不全を見逃したことがあります。感染性心内膜炎の治癒後で、弁に穴が開いていて、その穴から逆流があり、後で見直すと、この断面で、後壁側に偏移して逆流している動画が残っていました。やっているときには、まったく気付いていませんでした。
ということもあるので、カラーはカラーでしっかりとみてください。
それぞれの弁膜症については、別項目でお話ししたいと思います。
傍胸骨右室像(右心系の観察)
次に、傍胸骨左室長軸像のままプローブを大きく上下に振ると、右室流出路や肺動脈、または、その逆では三尖弁を中心にした右室2腔像をみることができます。
肺動脈および右室流出路の観察
肺動脈の観察は、この断面でも、次の大動脈弁短軸像でもどちらでも観察しやすいほうで観察してください。次の大動脈弁短軸レベルでの像による観察のほうが一般的かも知れません。また、右室や右房、三尖弁も、同じ大動脈弁の短軸レベルや4腔像などのみえやすいほうでしっかり観察してください。
肺動脈弁の疾患は、まれですが、時折、右室流出路に弁下部狭窄といって、線維性の構造物によって肺動脈弁の下の右室流出路に高度な狭窄が起きていたり、肺動脈弁自体に狭窄が起きていたりすることもあります。
ほとんど、異常がないことのほうが多いですし、また、弁自体も薄いのであまり弁自体を観察することはできませんが、流出路の観察と弁の通過血流のカラードプラ―は当てておきます。
肺動脈弁の流出路のカラードプラ―で肺動脈弁逆流を観察します。よほど心不全か先天性疾患でもない限り、多少の肺動脈弁逆流がみられる程度だと思います。
この肺動脈弁の逆流に、連続波ドプラー(CW)をあてます。CWは、ドプラ―のガイドビーコンのライン上の最も早い血流を測定します。逆流波の拡張末期のCWの速度は、拡張末期の肺動脈と右室の圧較差を示唆します(ベルヌーイの法則といいます、また、別で説明します)。つまり、右房圧がわかれば、右房圧は右室の拡張末期圧と近似できますので、この肺動脈弁逆流の拡張末期の最大速度から肺動脈拡張末期圧が推定できます。 肺動脈拡張末期圧は肺動脈楔入圧と近似できます。このことから、下大静脈系やLiver Stiffnessといったエコー指標から、右房圧を推定し、さらにこの肺動脈逆流波を追加することで、肺動脈楔入圧まで推定することができます。
また、流出路の通過血流の速度時間曲線の積分(VTI, Velocity time integral)から右室の心拍出量を求めることができます。
やり方は、右室流出路の入ってすぐぐらい、ほぼ肺動脈弁くらいの位置にパルスドップラー(PW)をおいて、VTIをトレースします。そして、流出路の直径から、流出路が円形であると仮定して面積を求め、VTIと面積をかけると心拍出量となります。ちなみに、この時にカラードプラーをあてて、流出路全体に加速がないことを確認する必要があります。
原理的には、心室のような容器から理想的な流体が円柱状の流出路に入った少し先でその断面の速度は一定になるという物理法則を利用しています。実際には、血液は粘性があり、血管壁も抵抗があるので、あくまで理論上ということではありますが、実臨床ではそれらを踏まえたうえで、流出路の中心の一点で速度を計って、それを時間で積分したもの(VTI)を、さらに面積でかけ、心拍出量とするようにしています。
シャント疾患がなければ、右室と左室の心拍出量はほぼ一致します。(正確には、一部気管支動脈の分岐が左房に還流したり、肺動脈の血流が、肺循環で肺間質のリンパから回収され、静脈から右房へ還流されたりするために、正常でも完全に一致はしません)
この右室流出路の血流は、左室の流出路や大動脈弁の狭窄時に、心拍出量を推定する手段となりまし、心房中隔欠損症などのシャント疾患のおけるシャント率の計算に用いられます。
三尖弁の観察
また、三尖弁の逆流もこの断面でとれるようであれば、観察しておきます。
三尖弁の逆流の速度を、CWで測定すると、その差は、右房と右室の圧格差になりますので、最大値をとって、それに右房圧を加えると肺動脈収縮圧になります。肺動脈圧が高くなると結構誤差も生じますが、肺高血圧があるかないか、あるとして、5段階評価でどのくらいかは、絶対値としてわかりますし、また、心不全では、同じ個人で追いかけると、左房圧を反映して、肺動脈圧が変化しますので、心不全の増悪や、治療効果を判定することができます。
三尖弁逆流の最高値は、人によってどの断面でとれるかは違うので、三尖弁逆流がみえるすべての断面(心窩部、右心2腔、大動脈短軸レベル、心尖部)で測定しておいてください。
短軸像(大動脈弁レベル)
傍胸骨長軸で左室・右室、弁を観察したら、次は、短軸を観察していきます。
基本断面は大動脈弁が正面視できる像ということになります。
正面視できているかどうかは、大動脈弁の弁輪がほぼ円にみえて、かつ3つの弁が均等にみえている像ということになります。いつも、3つの弁をしっかりとだす意識を持っていると、大動脈弁狭窄の時に、弁尖の枚数の確認を怠ったりということがなくなります。
(大動脈弁の弁数は、正常3尖、たまに2尖、極々たまに4尖、人生に一度みるかどうか、いやみることはない1尖です。私は4尖弁まではみたことありますが、1尖弁は私の師匠がみたことがあるというくらいで、他に見たことのある人すら知りません)
何度も繰り返しになりますが、あくまで基本的な断面が大動脈弁の正面視ということですので、これもプローブをゆっくりと大きく動かしながら、Bモードで観察可能な範囲を全てしっかりとみるということが重要です。 上行大動脈や左室の流出路、肺動脈弁付近、右房や右室や心房中隔、また、カラーも入れて、中隔欠損や動脈から右心系へのシャント(心室中隔欠損や大動脈弁の弁腹穿孔など)がないかゆっくりと観察してください。また、常に心嚢液と心膜は意識してください。
大動脈弁の観察
まず、大動脈弁からみていきます。大動脈弁輪や上行大動脈の拡張の有無に関しては、すでに長軸像でみていると思いますので、それを踏まえて弁と弁輪を観察していきます。弁自体は、まず弁尖の確認、石灰化、開放制限の有無をみます。長軸で、ある程度狭窄や閉鎖不全の状態はチェックしていると思いますので、それを確認する感じです。詳細は、各弁膜症の項目で述べます。特に、重症度とともに、弁膜症の原因の確認は重要です。
上行大動脈に関しては、もし慢性的な解離があれば、長軸と短軸でしっかりと観察します。血管径はCTのほうがわかりますが、しっかり測定し、特にエコーではカラードプラ―での解離の流入と流出の場所を確認します。造影CTで血流の有無はわかりますが、これはエコーにしかできないことです。
次に、先ほど少し話したように、しっかりつ大動脈付近から右心系への短絡がないかどうかを観察します。大動脈弁を中心に、カラーを当てて全心周期でシャント血流がないかどうかを見ていきます。時折、心室中隔欠損症(VSD)で、空いた穴に大動脈弁の右冠尖がはまり込み、ポーチ上に見えることがあります。しっかりとはまっていて、しかも大動脈弁逆流が起こっていないときには、この所見は、意識してみないと見逃すことがあります。通常は、弁がはまり込んでしまうために、弁の閉鎖不全がおこり、大動脈弁逆流となることが多く、大動脈弁閉鎖不全症の原因として重要です。
心房中隔・右房・三尖弁の観察
次、心房中隔を観察して、中隔欠損や心房中隔瘤、心臓腫瘍などがないかしっかり見ていきます。
かなりレアな疾患ですが、三心房心という右房が隔壁で2つに分かれているような疾患もありますので、注意しましょう。
右房をみて、三尖弁をみます。弁を見るときは、常に、まず弁輪の大きさ、弁自体の異常の有無、弁の動きをしっかりと観察します。
この像で三尖弁の逆流と、逆流の連続波ドプラ―から肺動脈収縮期血圧の評価を行います。
あまりないですが、もちろん狭窄などないか確認してください。
右室・ペースメーカ・右室流出路の観察
次いで、右心を評価します。この断面で、右室のサイズを測定することもあります。特に、大きさと動きは重要です。大きさは、収縮機能の低下を示唆します。
また、ペースメーカの植え込みの人に関しては、この像がしっかりと見えます。
普段から見る癖をつけましょう。いざ、ペースメーカ関連の感染性心内膜炎を疑ったときに、普段からみておかないと評価できません。
最期に、肺動脈弁の近辺を観察します。弁自体は、薄いのであまり見えません。
右室流出路から肺動脈弁の分岐部までを観察します。
大きさと、カラーを入れて、狭窄や閉鎖不全の状態を評価します。基本的にはこの断面で、右室流出路の通過血流からの心拍出量の推定と、肺動脈楔入圧の推定を行います。
また、時折、大動脈開存があると、肺動脈へ全心周期に流れ込む血流をカラードプラ―で認めます。しっかりと肺動脈の分岐くらいまで観察します。もちろん、みえない人は仕方ないですが。
左室短軸
大動脈弁の正面視レベルを観察したら、そのまま僧帽弁の短軸像での観察に移ります。
僧帽弁 短軸像での観察
僧帽弁の観察は、しばしば低めの肋間から行っていて、弁が閉まったときの短軸をみてないことがあります。同じことを繰り返しますが、心エコーは常に上のほうから、しっかりとプローブを動かして観察しましょう。最初は、基本となる断面を出すことに必死で、また、計測するとこに集中してしまいますが、大事なのはしっかりと全体を観察することです。常にプローブを動かして、全体を観察しましょう。その観察の中で、基本となる断面は出てきますから、ゆっくりと観察したのちに基本断面で計測したり、検査記録として必要な動画ないし静止画を保存しましょう。
長軸で、僧帽弁に関する異常は確認していますので、閉鎖不全も狭窄もない人に関しては、そこまで必死にみなくても大丈夫です。
狭窄の時には、弁口面積の計測と弁の癒着の状況をチェックします。最終的には、カテーテルによる治療の適応となるかどうかのスコアリングもできるようになれれば、完璧です。(私は自信がありません)
また、閉鎖不全症では、弁自体の異常による場合には、しっかりとどの弁のどのような異常によって逆流が生じているかをしっかりとカラーも併せて、診断しましょう。また、詳細は各弁膜症の疾患でお話ししたいと思います。
左室流出路における大動脈弁逆流の観察
大動脈弁閉鎖不全の時の逆流は短軸で、大動脈弁から心尖部までふっていくと、ある程度追いかけることができます。長軸や心尖部からみると逆流のカラードプラ―は流入血流と途中で合流するため、現時点では大動脈弁逆流を到達距離で判定することはしませんが、短軸であれば、合流するあたりまでは、大動脈弁逆流のカラーを追うことができます。特に、真ん中からまっすぐに逆流する大動脈弁逆流に関しては、そのカラーの幅と、面積が重症度評価の一指標となりますので、重要です。
左室短軸像の観察
左室の動きに関しては、肋間ごとに大きく上下に振って、しっかりと左室が円になるように僧帽弁レベル・基部・乳頭筋・心尖部やや頭側などの基準段面でみていきます。
左室の短軸像は、左室の収縮をみる像です。全体的な収縮もそうですが、壁運動が低下している場所があるかどうかをしっかりみます。また、心室中隔の状態をみて、右室と左室の圧の相対的な変化をみます。
まずは、左室が拡張期も収縮期もしっかりと円形になっていることを確認します。そのうえで、心筋の厚みの変化をみます。参考としては、拡張期と比べて収縮期に心筋が30%以上厚くなると正常です。10-30%になれば、収縮低下となり、10%以下であれば、高度な収縮低下、または、無収縮となります。さらに、心筋梗塞や拡張相肥大型心筋症などで、奇異性収縮といって、収縮期に逆方向(外側)へ動くこともあります。
心室瘤はずっと外側へ膨らんでいるもので、奇異性収縮は、拡張期には、通常の位置に戻る(円形になる)が、収縮期にぶぅっと外側へ動くものをいう感じです。奇異性運動しているものも、瘤といっても間違いではないように思いますが、臨床的な背景は異なります。
また、短軸には、各学界からどのように部位別にみていくかという16分類とか17分類といった分類がありますが、大事なのは、冠動脈が閉塞したときに説明しうるかどうか、それとも冠動脈の閉塞では説明できない収縮異常かどうかの意識を持つことです。
急性心筋梗塞の時というよりも、心電図などの検査で異常が見つかって、心エコーなどの検査をした時に、冠動脈の異常で説明うる壁運動低下なのか、それとも冠動脈の異常では説明できない異常なのかという視点が重要ということですが、そのため、前下行枝が閉塞したら、この領域というように、冠動脈とそれが支配する領域がどこかを意識してください。
私の分類は、心臓を基部(basal)・乳頭部(中間部,mid)・心尖部領域(apical)・心尖部(apex)にわけて、それぞれを基部(basal)から心尖部領域(apical)を前壁(anterior)、前壁中隔(anteroseptor)、側壁(lateral)、後壁(posterior)、下壁(inferior)、下壁中隔(inferoseptor)の6つに分けた18領域に、心尖部を加えて19領域がいいかとおもいます。17とか16領域では、apicalを4つに分けていますが、逆にややこしいように思います。特に、最終の所見は日本語で書くことが多いので、3つと6つの組み合わせと心尖部にわけて、書くほうが書きやすいように思います(個人的な感想です)
心室中隔の動きは、左室と右室の圧の相対的な上下関係をみることができます。
肺高血圧が進むと収縮期に右室圧が左室圧よりも高くなりますので、右室が円形に近くになり、収縮期に心室中隔が左室を押し込み、左室は円形にならずにへこんだ形になります。
また、右室自体が悪くなるような疾患であれば、右室の収縮期圧は上がらず、右室拡張末期圧があがるため、拡張期に右室が円形に近づくため、拡張期に心室中隔は左室に対して押し込み、へこんだ形になります。
このように収縮期か拡張期のどちらに左室がへこむかを見ることで、右室と左室の圧の相対的な変化みることができます。
また、必要であれば、バルサルバ負荷などをかけて、揺さぶってみましょう。正常に見えても、負荷時に異常を示すこともあります。
心尖部からの観察
短軸像をしっかりと各肋間ごとにプローブをゆっくりと動かして心尖部短軸まで観察したら、そのまま心尖部からの観察です。
ここまで観察すると、そろそろエコーのゼリーがなくなってきていると思いますので、一度エコーゼリーを塗りなおしましょう。
さらに、心尖部からの観察は完全に横臥位になっていると普通のベッドでは観察できません。
心エコー用の、心尖部観察するときにベッドの一部がはずれる(下がる)ようになっているベットであれば、そのまま観察を続けましょう。
普通のベットで観察しているときには、右の半身に枕を入れるくらいの緩い横臥位にして観察していきましょう。
さて、心尖部であることの確認は、心尖部が動かないことです。心臓の拍動のたびに心尖部が動いてみえたりみえなかったりするときには、心尖部より少し心基部気味で観察しています。肺がかぶったりしてどうしても描出できないとき以外は、しっかりと心尖部が固定されているところまで下げて観察しましょう。
心尖部からの観察は、4つの断面で行います。
4腔像(4ch,4chamber view)、5腔像(5ch)、2腔像(2ch)、3腔像(3ch)です。
心尖部4腔像
まず、4chからです。この断面では、左房・左室、右室・右房とバランスよく描出します。左室流出路から大動脈弁が描出されると振りすぎですので、しっかりと、4つの心房心室の交点がでるようにしましょう。(どうしても描出できない人はもちろんいますが)
この像では、全体の動き、僧帽弁、三尖弁の確認をします。他でも計測していますが、三尖弁の逆流速度は必ず計測しましょう。また、左室流入血流波形(3chでも測定)や、組織ドプラ―、肺静脈の流入血流の測定を行う断面でもあります。
また、右心機能の評価として、三尖弁逆流のCW(TRPG)や、TAPSE、右室の三尖弁輪のs’を測定します(詳細は右心機能評価参照)。
心房と心室が長軸方向に同軸上できれいに観察できればいいですが、ずれることが多いので、心室・心房ともに、計測を行うときには、弁輪を中心にして、それぞれの腔と弁輪がきれいに見えるように調整してから測定しましょう。特に心房は、心尖部からずれたほうが長軸方向にきれいに見えることが多いので、容積の計測時などは心尖部にこだわらずに、弁輪をベースにした長軸が最大になるようにしっかりと描出しましょう。
左室流入血流や組織ドプラ―、各弁膜症、右心機能の評価は別項目でお話しします。
この断面で稀ではあるが、ないことはないのが、Epstein奇形です。全体的な疾患概要は別項目として、この疾患は、右心系の異常のため、僧帽弁輪より三尖弁輪の弁輪のほうが心尖部によっているのが特徴のひとつです。多少、弁輪の心尖部方向への高さが違う人は結構います。気を付けてみていきましょう。
心尖部5腔像
少しずらして、5chをみます。この断面で、左室流出路血流の時間速度積分(VTI)の測定ができますし、大動脈弁閉鎖不全などの大動脈から左室流出路、左室の連続性に異常のあるひとの観察ができます。S状中隔の人は、4chをどう頑張ってもうまくだせず、5chになる人もいます。そういう人は、個別に見たい部位を適切な描出でみていきましょう。
心尖部2腔像
次に2chです。きちんとした2chを描出できているかどうかは、僧帽弁の動きで分かります。僧帽弁の前尖が中央にみえて、後尖が左右にみえ、前尖が上下に動いているのがみえていれば、きちんと描出できています。
この断面で重要なのは、心尖部の観察です。心尖部に関しては、もちろんすべての像で確認しますが、この像による観察がもっとも重要です。心室瘤や血栓などないかしっかり観察しましょう。ひとによっては少しプローブをずらすほうが見やすい人もいます。
この断面と4chの断面を組み合わせて、左室や左房の3次元的な体積を求めます。これをSimpson法といいます。
個人的に、このSimpson法で左室の拡張期末期・収縮期末期の内腔のトレースは、2chの収縮期から行うほうがやりやすいと思っています。2ch収縮期→拡張期、次に4chの収縮期→拡張期です。また、心房に関しても、2chのほうからトレースしたほうが、やりやすいように思います。いろいろと、自分のやりやすい、正確に描出できるやり方を試してみて下さい。
僧帽弁に関しても、閉鎖不全がある人は細かく動かしてしっかりどの弁のどのような異常によるか、しっかりと確認しましょう。
心尖部3腔像
左室と左房、大動脈弁を中心にみます。
基本的には、傍胸骨長軸像と同じですが、しっかりつ心尖部まで見ることと、左室流出路の血流や左室流入血流の測定を行います。
この画像の観察が終えると、ひとまず一般的な観察は終わりです。
他に、追加するとしたら、右の傍胸骨の結構頭側から大動脈弁を見下ろす感じでみる断面です。石灰化が強く、心尖部から大動脈狭窄の通過血流の最高速度を測定できないときには、右の頭側から見下ろす感じでみてみましょう。
あと、ごくたまに右側臥位にしたほうが見えやすいときもあります。どうしてもみえないというときには試してみましょう。