高血圧:血圧調整と塩

本態性高血圧の患者で、血圧が高くなり始めるきっかけとして、塩分摂取量と塩分に対する感受性が最も重要であろうと考えています。

血圧と塩分排泄の関係

高血圧の初期形成に最も重要な要素は、塩分感受性と食塩摂取量であろうと考えています。 塩分を過剰摂取した場合、生体は過剰な塩分解消するためめに腎臓からの塩分排泄能を上げようとし、その結果、血圧が上昇すると考えられているからです。

動脈硬化が進行すれば、血管の不全自体が血圧を上げるということにもなるでしょうが、血圧が高くなり始める初期の段階においては、血圧を高く設定するほうが合理的な状態になると考えおり、それが過剰な塩分を排泄しようとしている状態だと考えられます。

その根拠を示していこうと思います。

INTER SALT研究:

1988年に纏められたINTER SALT研究(#1)において、塩分を多くとる民族と極端にとらない民族では、収縮期血圧に大きな差があり、その後の追加検証(#2)で、塩分を1日2g以下の民族では高血圧の患者はみられず、加齢性の血圧上昇も見られなかったと報告されています。

#1. BMJ. 1988 Jul 30; 297(6644): 319–328. : Intersalt: an international study of electrolyte excretion and blood pressure. Results for 24 hour urinary sodium and potassium excretion. Intersalt Cooperative Research Group – PMC

#2. Mancilha-Carvalho JJ, et al. J Hum Hypertens. 1989; 3: 309-14.

INTER SALT研究(下図1)で、統計学的に年齢と性別(a)、また、年齢・性別・BMI・アルコール摂取量(b)で調整したときに、塩分摂取量と収縮期血圧には有意な相関を認めており、さらに、極端に塩分摂取が少ない4民族を除いても(c)、塩分摂取量と収縮期血圧には有意な相関を認めています。

図1. INTER SALT研究(BMJ. 1988 Jul 30; 297(6644): 319–328.より改変

この論文では、降圧薬を内服している患者が含まれているようですが、私が読んだ限りでは、何%が降圧薬を服用しているのか明示されていないため、解釈にはかなり慎重な対応が必要です。 なぜなら、塩分排泄が多い、つまり塩分摂取量が多くても血圧は低い状態となってしまい、本来なら図の右上に位置するところが、右下に位置してしまうからです。ただ、今回示している内容は、そういう状況を含めてもなお、塩分排泄と収縮期血圧は相関している(降圧薬がなければもっと強く相関する)ため、十分参考する価値があるとしています。

次に、塩分摂取と血圧の相関ではなく、塩分制限の降圧の効果をみた、最近のメタアナリシスで、減塩による降圧、NaCl 1g減少あたり収縮期血圧1mmHg程度低下することが認められています(#3)。

#3. He HJ et al. BMJ. 2013 Apr 3;346. Effect of longer term modest salt reduction on blood pressure: Cochrane systematic review and meta-analysis of randomised trials | The BMJ

これらの結果から、塩分摂取と高血圧には相関があり、減塩により降圧がみられているので、単なる相関ではなく、因果関係がある可能性が非常に高いと考えられます。
(直接の因果関係のない相関関係であれば、減塩しても血圧は下がらないため)

さらに、塩分摂取量(=排泄量)が高血圧の原因となるかどうか、つまり因果関係の部分について、論理的に検証します。この説明に重要なのが、Guttonが表した圧・利尿曲線になります。

減塩と腎臓の関係:圧-利尿曲線

圧-利尿(ナトリウム排出)曲線は、ナトリウムの排泄量(=摂取量)と平均血圧の関係をみたものです。

図の正常とされている曲線、つまり高血圧のない人でなく、腎機能が正常であれば、過剰に摂取された塩分を排出するのに、血圧はあまり上がらないことが示されています。

一方高血圧患者では、上の図のB-Dの間で一次関数、つまり直線に近い線で、ある程度の傾きを持っています。これは、通常の生活での塩分摂取量から塩分過多といわれるレベルの量で変化する時に、血圧がそれに比例して上昇するということを示しています。これは高血圧患者だけでなく、日本人に多い、いわゆる塩分感受性高い人や、非感受性でも何らかの原因(昇圧に関与するホルモンが高い、血管が硬くなってきているなど)で血圧が上がりやすくなっている人に関しては、上の図の高血圧患者と同じような変化をとるといわれています。

もちろん、塩分1gあたりに上昇する血圧には、個人差、または、民族差がみられますが、少なくとも塩分摂取により血圧が上がることは確かです。

塩分摂取と生体の反応

高血圧の状態では、塩分の摂取に対応して、血圧がコントロールされていることがGuytonにより示されています。

ここで、塩分排泄の正常な反応を説明します。
上の図で正常とされている場合には、過剰な塩分摂取をしても、血圧をほぼ変化させずに過剰な塩分を腎臓から尿として体外に排泄することができます。

その機構について私が想定している機序を説明します。

塩分摂取による腎臓・体液の変化

生理学的な事実と一部思考実験を合わせた想定になります。
この機会に私のバイブルであるLevickの生理学と、腎臓の参考書を紹介しておきます。
参考:①心臓・循環の生理学 著 J. Rodney Levick  訳 岡田隆夫
    ②シュライヤー 腎臓病と病態生理 Robert W. Schrier 訳 和田健彦,花房規男
 
口から摂取した塩分は腸管のENaCといわれるナトリウムのチャンネル等を通して血管(門脈)へ吸収され、肝臓を通過して、心臓、そして全身に分布します。

この時に塩分摂取後の血液は、その前に存在している血液よりも少しナトリウム濃度が高くなっています(測定できませんが、そうなっているはずです)。

するとどうなるかというと、組織(の間質)と血管の物質のやり取りは、毛細血管で行われますが、毛細血管の内側と外側のナトリウムの濃度は等しくなるようにナトリウムと水分が動きます(実際は陰性に荷電しているアルブミンのDonnan効果により若干血管のほうが高い)。
ナトリウム摂取後に、もともとの血管内のナトリウム濃度より若干ナトリウム濃度が高い血液が流れると、血管のナトリウムが組織間質に、組織間質の水が血管内に移動することで、静脈の血液量が若干増加します。すると、短期的には静脈から心臓に戻る水分量が増えるので、必然的に心臓から出ていく血液も増えます(ただし、あくまで短期的な変化で、すぐに是正されます)。

すると、腎臓へ流れ込む血液量も増えます。この血液増加とさらに、増加したNaCLのうちのCL濃度が刺激となって、腎臓から分泌されるレニンが低下します。

レニンは、最終的にアンギオテンシンII,アルドステロンという、血圧をあげたり、腎臓で塩分の再吸収を促して、体に塩をため込もうとするホルモンを増加させます。そのため、レニンが低下するということは、血圧の上昇の抑制、塩分の再吸収の抑制(≒塩分排出促進)という結果をもたらします。

すなわち、塩分摂取で増加した一過性の血管内の血液の増加とCl濃度の上昇により、昇圧ホルモンのレベルを低下させ、血圧の上昇を緩和させるように働きます。

また、アンギオテンシンIIは、腎臓の中の血流の分布をコントロールします。腎臓の支給隊の構造は一様ではなく、腎臓の中心にある糸球体のほうが塩分を積極的に再吸収する機構が発達している一方、外側の糸球体は、再吸収機構が弱くなっています。アンギオテンシンIIは、腎臓の外側の塩分再吸収能の低い部分への血流を低下させます。そのため、アンギオテンシンIIが低下すると、外側への血流が増加し、結果として塩分の排泄は多くなります。

つまり、アンギオテンシンIIは塩分を再吸収させるために、腎臓の中心に血流を集める作用を持っており、アンギオテンシンIIが作用していない状態であれば、相対的に腎臓の外側の血流が維持されるため、塩分の排泄が促進します。

交感神経とホルモンの変化

ほかにも、動脈の血液量が一過性に増加すると、収縮期の血管径の増加が若干大きくなります。一部の動脈(頚動脈や大動脈など)では、この大きさの変化を感知する受容体があり、血液の増大によって、交感神経が減弱して、血圧を下げたり、レニンを減らすような変化をもたらします。さらに、心臓にも戻ってくる血液量の変化を感知する受容体があり、心臓に戻ってくる血液が増えると心臓が張り、それを感知して、塩分と水分を体の外に排出させるように働くホルモンを分泌します。このホルモンは血管を拡張させる作用もあり、心臓に戻る血液を減少させる効果もあります。

このように、レニンなどのホルモン、交感神経、心臓のホルモン(ANPなど)などが、一時的に変化することで、増加した塩分を適切に体外へ排泄するように対応します。

塩分摂取に伴うホルモンの変化は利尿効果をもたらす変化のようにみえますが、全体的には塩分を過剰に摂取したときに、体は水分を外に出さない=利尿を減らすことで塩分を薄めます。

塩分が上昇すると、血液の浸透圧が上昇します。すると、バゾプレシンという抗利尿ホルモンが上昇し、このホルモンは腎臓に作用して尿量を減らし、血管を収縮させて血圧を上昇させる効果があります。また、喝中枢というものも刺激し、飲水行動を促します。尿量自体は、腎臓の集合管で調整されており、そこに作用するのがバゾプレシンなので、バゾプレシンの増加は尿量低下、体内水分量増加という反応になります。

これは、異なる健康な若い人に、塩水と真水をそれぞれ1.5l程度ずつ飲ますと、塩水を飲んだほうは、明らかに尿量が減ることからもわかります。

このように、塩分摂取には、短期的な血液量の上昇に伴う血圧の上昇を防ぐ機構があるため、図の正常の変化のように、すぐに血圧の上昇となるわけではありません。しかし、この塩分の過剰状態が持続的に起こると、これらの機構は徐々に働かなくなったり、鈍化していきます。

病気というのは、正常な代償機構が破綻したときにおこるものです。

高血圧患者では

高血圧の患者では、交感神経の活動性やアンギオテンシン、アルドステロンなどの血中濃度や組織内濃度が上昇していると報告されています。

度重なる刺激により代償機構が何度も作動しているうちに、反応性が低下し代償状態が働かなくなったり、通常状態が異常な状態となり、通常状態から昇圧系のホルモンが高い状態となっている可能性が考えられます。

高血圧患者では、このように昇圧系のホルモンや交感神経の活性化がみられるため、それらに対する遮断薬などが降圧効果を示し、実際に降圧薬として利用されています。