中性脂肪の薬物治療をするときは?

中性脂肪の薬物治療をするときは?

現時点での個人的な中性脂肪の薬剤治療の方針
・急性膵炎の予防のため、500mg/dl以上であれば、フィブラートによる治療を行う。
・動脈硬化予防としてはかなり限定された状況でのみ、フィブラートによる治療を行う。
 限定された状況:総-cho高値・nonHDL-cho高値・TG高値・LDL-cho低値
  →フィブラートによりTGを低下させ、LDL以外のnonHDLを低下させることで、LDLを上昇させ、LDLに対してスタチンを作用させることで、最終的にnonHDLを効率的に低下させることを狙う。

前述したように、中性脂肪は動脈硬化のリスクではあるが、フィブラートなどの薬物治療をしたからといってリスクの低減効果は認められていません。そのため、減量などの根本的な治療は有効ですが、薬物治療の必要性はないというのが現在のエビデンスということになります。
薬剤による中性脂肪の低下に関してはほぼエビデンスはないという話
また、急性膵炎に関しても、リスクであることは明白ではある一方で、治療をしたからといって膵炎の発症リスクが低下するというエビデンスはありません。ただ、TG 500mg/dlを超えるようであれば治療をするというのが一般的な状況です。

しかし、膵炎に関しては、新たなolezarsenという薬剤の治療により発症抑制がみられたという臨床試験結果(Triglyceride-Lowering Drug Significantly Reduced Rate of Acute Pancreatitis in High-Risk Patients | Mass General Brigham)が発表されてこともあり、あらためて、中性脂肪に関して、動脈硬化および膵炎の予防のための薬剤治療という観点でまとめたいと思います。

中性脂肪高値は動脈硬化性疾患と膵炎のリスクである

中性脂肪(トリグリセライド:TG)は、動脈硬化と急性膵炎の両方に関与する重要なリスク因子であり、TG高値は、軽度〜中等度では主に動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクを、重度では急性膵炎のリスクを増加させるということは文献的にも断定できます (1–4) 。

特にTGが1000 mg/dLを超えると膵炎リスクが急激に高まることが知られており、中性脂肪に対する治療の目的は「心血管リスク低減」と「膵炎予防」の二つができるかどうかとう点に整理されます(5–8)。

動脈硬化予防として治療を考える際には、TG値そのものを薬物でただ下げることに意味はなく、LDL-C、non-HDL-C(総コレステロール−HDL)を中心に考える必要があります。また、ApoB、糖尿病やメタボリックシンドロームの有無など、全体のリスクを評価し、それらに治療を行う必要があります (1,7,9,10)。


中性脂肪高値の評価で押さえるポイント

中性脂肪が高い患者をみたとき、最初に整理すべきなのは「原因」と「重症度」です (1,2,11)。

二次性原因としては、肥満・メタボリックシンドローム、2型糖尿病、アルコール過剰摂取、薬剤(ステロイド、エストロゲン、HIV治療薬、抗精神病薬など)、甲状腺機能低下症などが多く、中性脂肪を上げている原因を治療するということが第一歩となります (1,2,7,11)。

重症度はおおよそ以下のように分けられる (1,2,7)。

  • 軽度〜中等度:TG 150–499 mg/dL
  • 高度:TG 500–999 mg/dL
  • 重度〜超重度:TG ≥1000 mg/dL

TG 150–499 mg/dLでは主にASCVDリスクの指標として扱われ、LDL/non-HDLを中心としたリスク管理のなかで位置づけられています (1,2,9)。

一方、TG ≥500 mg/dLでは膵炎リスクが意識されるようになり、特に1000 mg/dL以上では「急性膵炎の一次予防」として、明らかなエビデンスはないものの、コンセンサスとしてTGそのものを薬物的に下げることが優先されます (5–8)。


生活習慣介入:すべての症例での基盤療法

中性脂肪を下げる治療は、どの重症度であっても生活習慣介入が土台となります (1,2,11)。

エビデンスを踏まえると、以下のポイントが重要です (3,7,9,10)。

  • 体重減量 5〜10%の減量でもTGは有意に低下し、インスリン抵抗性も改善する (1,2,11)。 肥満やメタボが背景にある場合、薬物療法に先行・併行して体重管理を行うことで、TGだけでなく血圧や血糖など包括的なリスク低減が期待できる (2,11)。
  • 食事療法 精製炭水化物とフルクトース負荷(白米・白パン・菓子類・砂糖飲料など)はTGを上げやすく、これらの制限は軽度〜中等度高TGの第一選択になる (3,2,11)。 脂質は量を適切に保ちつつ、飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸(魚、ナッツ、オリーブ油など)を増やすパターンが推奨される (3,2,11)。 重度高TG(特にTG ≥1000 mg/dL)では一時的に超低脂肪食(全摂取カロリーの10〜15%程度)まで落とし、膵炎リスクを下げる必要がある (6,7,8)。
  • アルコール制限 アルコールはTG上昇に強く関与し、膵炎リスクも増加させる (1,6,2)。 中等度以上のTG高値では原則制限、重度高TGや膵炎既往例では禁酒が推奨される (1,3,6)。
  • 運動 有酸素運動を中心に週150分程度の中等度以上の身体活動は、TG低下とインスリン感受性改善に有効である (1,3,2)。 特にメタボや2型糖尿病を併存する患者では、運動療法の寄与は大きい (2,11)。

これらの生活習慣介入は単独でもTGを10〜30%程度下げ得るため、薬物療法を行う場合でも基盤として継続が必要です (2,11)。


心血管リスク低減を目的とした治療

軽度〜中等度の高中性脂肪血症(TG 150–499 mg/dL)では、主眼は動脈硬化性心血管疾患のリスク低減ですが、TGそのものに対する薬物療法の有効性は示されておらず、基本的にはLDL-C、non-HDL-C (+ApoB)といったアテローム性リポ蛋白に対する治療があくまでも重視されます (1,2,9,10)。

スタチンを基盤とした治療戦略

各種ガイドラインやレビューは共通して、「まずLDL-C(あるいはnon-HDL-C)を目標値以下に下げるためにスタチンを用いる」というアプローチを取っています (2,9,10)。

スタチンはLDL-Cを強力に低下させるだけでなく、平均15〜30%程度のTG低下効果も持つため、軽度〜中等度高TGの第一選択薬を兼ねる存在でもあります (1,2,8)。

ASCVD既往例、糖尿病、高リスク一次予防例では、高強度または最大耐容量スタチンによるLDL/non-HDLの厳格管理が推奨されます (2,9,10)。

その上でTGが残存する場合には、追加治療(フィブラートやイコサペントエチルなど)を検討していく流れになります (2,9,10)が、イコサペント以外に関しては、動脈硬化低下効果はほぼないというエビデンスしかないので、積極的に治療を行うことは勧めません。

個人的に、特殊な状態ではスタチンを有効に作用させる目的でフィブラートを使用することはあります。

その状況は、total-cho高値・nonHDL-cho高値・LDL-cho低値・TG高値の場合です。
この場合は、諸条件を鑑みたうえで、動脈硬化リスクは高く治療が必要となれば、基本的にスタチンの治療の適応になります。
しかし、LDL-choは低いため、スタチンの効果が十全に発揮できない可能性が考えられます。そのため、中性脂肪を下げることで、結果的にVLDLやIDLなどに入っているコレステロールをLDLに移動させて、LDL-choを上昇させ、そこをスタチンで叩くということが、論理的に有効な可能性があります。エビデンスはないのですが、私はこのような状況の患者に対しては、フィブラートによる中性脂肪低下療法を行うことがあります。

イコサペントエチルと心血管アウトカム

TG 135–499 mg/dLの高リスク患者(スタチン治療中)を対象にしたREDUCE-IT試験では、高純度EPA製剤(イコサペントエチル)4 g/日の追加により、主要心血管イベントが有意に減少しています(9,10)。

これにより、軽度〜中等度高TGでの「TG関連残余リスク」に対する薬物介入として、イコサペントエチルはエビデンスレベルの高い選択肢となっています (9,10)。

EPA/DHA混合の一般的なオメガ3製剤はTGは下げるものの、心血管アウトカムで一貫して有意な利益を示せていない試験も多く、心血管リスク低減目的ではイコサペントエチルとは区別して考える必要があります (9,10)。

ただ、スタチンなどの有効性と比較し、内服のコンプライアンスなどを考慮すると、私は中性脂肪を低下させるためにEPAを使用することはほぼありません。


膵炎予防を目的とした治療

TG ≥500 mg/dL、特に1000 mg/dL以上では急性膵炎リスクが問題となります (5–8)。

観察研究では、TGが高いほど膵炎リスクは連続的に上昇し、極端な高TGでは発症率が顕著に高くなることが示されています (5–8)。

従来の治療戦略

従来は、以下のような治療が膵炎予防の目的で推奨されてきた (3,6,7,8,10)。

  • 厳格な食事療法(超低脂肪食+糖質制限+禁酒)
  • フィブラート(フェノフィブラートなど)を第一選択薬として用い、TGを500 mg/dL未満へ下げることを目標とする
  • 必要に応じて高用量オメガ3製剤(EPA/DHAまたはEPA単剤)を追加する

ただし、これら従来薬による「TG低下が膵炎発症率をどの程度減らすか」を直接検証したランダム化試験はほぼ存在せず、ガイドラインの推奨は主に病態生理と観察データに基づいたものだった (3,6,7,10)。

付記:急性膵炎発症例での急性期管理

TG起因性急性膵炎(HTG-AP)の急性期には、絶食・輸液・疼痛管理に加え、必要に応じてインスリン持続静注によるTG低下が行われる (6,8)。

重症例や通常治療に抵抗する例では、血漿交換(トリグリセライド除去のためのアフェレーシス)が検討される (6,8)。

これらの介分は急性期のTGを迅速に低下させることができるが、長期的な再発予防のためには、やはり生活習慣と薬物治療によるTGコントロールが鍵となる (6,2)。


ApoC-III阻害薬:新たなエビデンス

近年、ApoC-III(トリグリセライド代謝を制御するアポリポ蛋白)を標的とした新規薬剤が登場し、重度高中性脂肪血症の治療パラダイムに変化をもたらしつつあります (12–15)。

ApoC-III阻害薬(olezarsen、volanesorsen、plozasiranなど)は、TGとApoC-IIIを大きく低下させ、同時にnon-HDL-Cやレムナントコレステロールも改善させることが示されています (12–15)。

OlezarsenのRCT:TG低下と膵炎リスク減少

2025年に報告されたCORE-TIMI 72a/CORE2-TIMI 72b試験では、重度高中性脂肪血症(TG ≥500 mg/dL)患者1,063例を対象に、olezarsen(月1回皮下注)とプラセボを比較されました (13,16,17)。

12か月時点の解析では、olezarsen群の85%超がTG <500 mg/dLを達成したのに対し、プラセボ群では35%にとどまっています (13,16,17)。

さらに急性膵炎リスクへの影響として、2試験合わせて29件の急性膵炎イベントが報告され、発症率はolezarsen群で1.1件/100患者年、プラセボ群では6.2件/100患者年と、約85%の相対リスク低下がみられています (13,16,17)。

これは、重度高中性脂肪血症において「TGを薬物で強力に下げることで急性膵炎発症率が有意に減る」ことをRCTレベルで初めて示したデータと言えます (13–15,17)。

メタ解析から見たApoC-III阻害薬

2025年のシステマティックレビュー/メタ解析では、ApoC-III阻害薬がTGを大幅に低下させるだけでなく、non-HDL-Cを含むアテローム性脂質を有意に改善し、急性膵炎の相対リスクを大きく減少させることが示されています (12,14)。

重度高中性脂肪血症や家族性カイロミクロン血症など、従来治療が難しかった集団に対して、新たな治療選択肢としての位置づけが強まっているようです (12,14,15)。


ApoC-III阻害薬と動脈硬化

現時点で、ApoC-III阻害薬が動脈硬化性心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中など)を減少させたと示す本格的アウトカム試験の結果はまだ出ていません (18–20)。

遺伝学的研究では、APOC3のloss-of-function変異を持つ人はTGが低く、ASCVDリスクも低いことが示されており、「ApoC-III低下=抗動脈硬化的」である可能性は強く示唆されるが、介入試験としての検証は今後の課題となっています (18,19,21)。

Olezarsenについては、高リスク患者を対象にした心血管アウトカム試験が進行中であり、将来的に「TG低下+non-HDL改善」がASCVDイベント低減につながるかどうかが評価される予定ですが、少なくとも現時点では“膵炎リスク低減のエビデンスが先行している”と理解しておくのが適切です (20,12,22)。


フィブラートとスタチンの使い方をどう考えるか

フィブラートは、PPARαを介してTGを20〜50%程度低下させ、HDLを上昇させる薬剤です(23–25)。

重度高TGにおいては、膵炎予防目的の第一選択薬として位置づけられてきました (6,7,8)。

一方、心血管アウトカムに関しては、全体集団では明確なイベント減少を示さないものの、「高TG・低HDL」というサブグループでは有益な可能性が示されています (24–26)。

高TG・低LDL見かけ例でのフィブラート先行という発想

重度高TGではVLDLが多く、LDL-Cが見かけ上低い症例があります (27,28)。

フィブラート治療によりVLDLが減少すると、LDLへの“シフト”によってLDL-Cが上昇することが知られており、古くから報告されている現象です (27,28)。

この点を踏まえると、上述したように「T-Chol高値、TG高値、LDL低値、non-HDL高値」という症例では、まずフィブラートでTGを下げることで、レムナントやVLDLが片付き、真のLDL負荷が顕在化し、そのうえでスタチンを強く作用させる、という病態生理的な仮説はあり得ると考えています (27,28)。

ただし、現行の文献やガイドラインには「フィブラート先行で意図的にLDLを上げ、その後スタチンでLDL/non-HDLをより効率的に下げる」という二段階戦略を推奨・検証したエビデンスは見当たりません (24,25,7,29)。

多くのレビューやガイドラインは、むしろ「スタチンを基盤とし、TG高値や低HDLが残る場合にフィブラートを追加する」方向性で記載しており、エビデンスベースの標準治療としてはこちらが主流となっています (24,26,7,10)。


まとめ:中性脂肪を下げる治療の考え方

中性脂肪低下療法を考えるとき、鍵になるのは動脈硬化性疾患の予防と膵炎の予防 (1,2,9,10)。

軽度〜中等度高TGでは、LDL/non-HDL/ApoBを軸にASCVDリスクを減らすことが中心であり、スタチンを基盤とした治療に、必要に応じてイコサペントエチルやフィブラートを組み合わせる (2,9,10)。

一方、TG ≥500〜1000 mg/dL以上の重度高TGでは、急性膵炎の一次予防として、生活習慣介入に加えてフィブラートやApoC-III阻害薬などによる積極的なTG低下が求められる (5–8,17)。

ApoC-III阻害薬は、重度高TGにおけるTG低下と膵炎リスク減少をRCTレベルで示した初の薬剤群であり、今後の治療パラダイムを変え得る存在である (13–15,17)。

一方で、動脈硬化性心血管イベント抑制についてはまだ結論が出ておらず、従来通りスタチンを中心とするLDL/non-HDL管理が中核であることに変わりはない (18–20,22)。


参考文献(番号対応)

(1) StatPearls: Hypertriglyceridemia (NIH NCBI Bookshelf).

(2) Berglund L, et al. Evaluation and Treatment of Hypertriglyceridemia (Endocrine Society Guideline).

(3) American Academy of Family Physicians. Management of Hypertriglyceridemia: Common Questions and Answers.

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(17) Olezarsen for Managing Severe Hypertriglyceridemia and Risk of Acute Pancreatitis.

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(21) Why Is Apolipoprotein CIII Emerging as a Novel Cardiovascular Target?

(22) ClinicalTrials.gov: NCT05610280 – A Study of Olezarsen (ISIS 678354) in Participants at High Cardiovascular Risk With Hypertriglyceridemia.

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