入院中の心不全患者に対する日々の診察項目

私自身が自分の受け持ちの心不全の入院患者さんに、毎日診察していた所見についてお話します。

看護師さんがつけてくれる熱型表や記事内容、心電図モニターを確認したうえで、ベッドサイドにいって、食欲はどうか、眠られたか、倦怠感はどうか、息苦しくはなかったかなど、今日の体調は昨日と比べてどうかを聞きながら、臨床所見として4つの項目を診察していました。

1)頚静脈

2)胸部聴診

3)手足の浮腫

4)爪の毛細血管再充満時間 (CRT, capillary refilling time)

4) CRTに関しては、急性心不全の治療(1):循環不全の項目で記載しました。
簡単に述べると、指の爪を10秒程度圧迫して、話したときに、元の色に戻るのにかかる秒数で、おおよそ循環不全があるかどうかを判断するというものです。
通常は、1秒足らずで、2秒を超えると循環不全の可能性が高くなり、4秒程度かかるときには循環不全と判断してよいと思います。
入院中の患者には、毎日同じように実施し、評価し、カルテには、CTR <1s とか、CTR 4sとかと書いて、経時的にも見ていくとよいと思います。

次に頚静脈の診察に関してですが、頚静脈の怒張は、右房圧が反映されます。特に、同じ人を経時的にみれば細かい変化も評価することができ、段階的に評価することができます。
心不全の患者の治療が進んでくると右房圧は低下していきますので、当初みられていた頚静脈の怒張はみられなくなってきます。

では、具体的にどのようにして頚静脈をみていくかです。
説明しやすいように、心不全が落ち着いている状態、つまり、一番右房圧が低下している状態から説明していきます。

鵜防圧がある程度低いと、頚静脈の怒張はみられません。そのため、肝頚静脈逆流という所見をみます。
どのようにするかというと、自分の手をパーにして、心窩部から肝臓の下あたりの広いの範囲のお腹を圧迫します。要は、下大静脈を圧迫して、右房への血液の還流量を一時的に用手的に増やして、わざと右房圧を上げます。それで頚静脈がぷくっと張るのがみえると、肝頚静脈逆流所見ありとなります。頚静脈を観察するために、患者さんは顔だけ自分とは逆側を向いてもらって、頚静脈を見やすいようにするのも重要です。

ちなみに、圧の単位に直すと、心臓の三尖弁のあたりの位置を0として、それより何cm高いかでだいたい数値に変換できます。血液の比重がおおよそ水の1.05~1.06倍ですので、別に何倍にしなくても、あくまで概算ですので頚静脈が怒張している高さのcmで評価してよいと思います。

  1. 右房圧が正常か、低いとき
    一番右房圧が低下しているときには、ベットを完全にフラットにして、さらにこの状態で、お腹を広く圧迫しても頚静脈は拡張せず、特に浮き上がってきません。これがもっとも右房圧が低下してい時です。心不全が疑われる時に、この所見がなければ心不全ではない可能性が高いです。
    適正な右房圧か脱水で右房圧が低いかという可能性が考えられます。
  2. 右房圧が正常より高いとき
    身体所見上2番目に右房圧が低い状態が、ベットにフラットに寝ている状態では頚静脈はみられないが、お腹を押すと頚静脈が張る状態です。つまり、フラットな状態での肝頚静脈逆流が陽性という状態です。
  3. 右房圧がやや高いとき
    3番目の状態は、寝ているときには頚静脈は張っているが、ベッドの角度を徐々あげていくと、その角度に応じて、つまり心臓と頚静脈の高さの違いに応じて、頚静脈が虚脱するという状態です。これも、フラットにしていると張っている頚静脈を観察して、徐々にベッドの頭を上げていって、頚静脈が虚脱する角度でみることができます。
    虚脱した角度で、お腹を押すと基本的には頚静脈は怒張します。つまり、肝頚静脈逆流陽性です。
  4. 右房圧が高いとき
    4番目の状態は、半坐位でも頚静脈が怒張している状態で、お腹を押すとさらにその張りが強くなるような状態です。
  5. 右房圧がかなり高いとき
    5番目の状態は、完全に90度の座位でも(実質起立している状態)頚静脈が怒張している状態です。
    さらに、右房圧が高く、特に三尖弁閉鎖不全が強くなるとc-V waveという所見がみられるようになります。

実際の治療の際には、急性期には 3~5くらいの状態で、治療とともに、日々1~2段階ずつ改善していくイメージです。

具体的なイメージで行くと、入院時は、60度くらいの起坐位で怒張していた頚静脈が、うっ血の治療が進み、右房圧が低下するとともに、60度起坐位では頚静脈怒張が、みえなくなり、軽く圧迫すると怒張する程度になり、さらに治療が進むと、少し強く圧迫しないと怒張しないようになります。さらに治療がいい方向に進むと、ベットで真横になってもらってやっと怒張する程度となり、さらに、ベッドで横になってお腹を圧迫させても、頚静脈が怒張しなくなります。
この状態がうっ血が解除された状態のひとつのサインとなります。

もちろん、頚静脈だけでなく、四肢の浮腫やレントゲンでのうっ血・胸水、体重といった身体の所見や検査値も同様に改善していっていると思います。

レントゲンは、ずっと毎日とるわけにはいきませんが、尿量を軸に、体重、四肢の浮腫、頚静脈怒張は毎日チェックすると心不全の改善具合がよくわかると思います。